注意点は、桂枝去芍薬とは桂枝湯から芍薬を去るの意味です。名称が桂枝湯去芍薬麻黄附子細辛湯と長くなるので「湯」を省いて表現してあります。
医案に進みましょう。
患者:趙某 28歳 女性 工場労働者
初診年月日:2000年3月2日
病歴:
患者腎炎歴一年余、全身浮腫、尿少、尿量300ml/24hr、嘗て2~3回入院し浮腫治療を受けたが浮腫は不消失、浮腫は軽重を繰り返す。尿蛋白3+~4+、顆粒円柱2~3個/LP、某医院を退院して、氏の治療を求め受診。
初診時所見:
浮腫は比較的重く、頭面および下肢が全て浮腫、腹張満し食べると張満が甚だしくなる。面色無華、畏寒肢冷、舌潤苔滑、脈沈。
中医診断:陽虚にして肺脾腎効能失調
西医診断:慢性糸球体腎炎
治法:桂枝去芍薬加麻黄細辛附子湯
方薬:
桂枝15g 麻黄15g 附子15g 細辛3g 生姜15g 紅棗4個 甘草10g
水煎服用、毎日2回に分服
経過:
上方3剤で、尿量は1500ml/24hrに増加。
さらに継続服用5剤で、尿量は3000ml/24hrに達した。水腫全消、腹張大減、諸症は全て好転した。尿蛋白2+、他は皆陰性。胃納がやや不良、下肢に無力、指で押すとやや指痕があり、腹部はわずかに不快、まだ脾虚運化が不十分の症候であり、遂に健脾利湿法の調剤20余剤で諸症は基本的に消失、尿蛋白±、病情は緩解した。後の追跡調査でずっと再発無し。
ドクター康仁の印象
温熱薬一辺倒の方剤です。
麻黄により宣肺利尿消腫をはかり、桂枝、附子で通陽助陽温腎をはかり、桂枝 甘草 生姜 大棗で温脾し運化を助け、細辛は麻黄の宣肺を助けるという役回りです。
肺脾腎の三臓合治となります。白芍を除く理由は利湿に対する白芍の斂陰を嫌ったためでしょう。原典は金匱要略「水気病」中の桂枝去芍薬加麻辛附子湯です。
古典的処方で急場を凌いだわけです。証が合えば僅か8剤でも効果抜群の典型ですね。完全な中医弁証の典型例です。参考になりますね。よほど陽虚(肺脾腎)の印象が強い症例だったのでしょう!
中医とは言ってもピンキリがあるわけです。勿論、張琪氏はピンです。
最近感じ始めているのですが、慢性糸球体腎炎と中国の西洋医が診断する中には、組織病理学的変化を伴う腎炎と異なるものを含むということです。歴史的に中医学では水腫論が先行し、先人があまりにも偉大なために異論を唱える学問体系が育たないことも危惧されます。
2014年2月25日(火)