私の10曲(前編)

2015-06-02 22:36:40 | Music Life
以前NHKで放映されていた「ミュージック・ポートレイト」という番組が好きでよく見ていた。これは対談形式の番組で、俳優や作家、あるいは芸術家として現在活躍している人たちが登場し、挫折から栄光へ、波乱万丈の半生を振り返りながら、その様々な局面で流れていた音楽や自分を励まし支えてくれた音楽を10曲ほど紹介するというものだった。人と音楽との関わりはとても興味深く、面白いものなので、私も「自分の10曲」を選んでみようと思ったのだが、5曲ほど選んだところで先に進めなくなってしまった。それというのも、私の人生には挫折はあっても栄光がなく、ドラマ的な要素がまるでないからだ。そんな私が選んだ10曲をここに。

1曲目  西城秀樹「ちぎれた愛」
小学校に入ったばかりの頃、どういうわけか西城秀樹に夢中になった。子供ながらにその激しいアクションとエモーショナルな歌唱に心を奪われたということなのだろうが、このまま歌い続けたらこの人は死んでしまうのではないかと、動悸が激しく高まるのを感じながらテレビを見ていたことを覚えている。今にして思えば「死にまで至る生の昂揚」というバタイユ的なエロティシズムを感じていたのかもしれない。
「ちぎれた愛」は西城秀樹が初めてヒットチャートの1位を獲得した曲であり、私が初めて買った歌謡曲のレコードでもある。

ちょうど同じ頃、「あこがれ共同隊」というドラマがあり、桜田淳子(中3トリオ)と郷ひろみ(新御三家)の共演ということでちょっとした話題になったのだが、これには西城秀樹も途中まで出演していた。私の記憶が確かならば、彼が演じたのは不治の病でありながら、だからこそ自分が生きていた証を残したいと長距離走のトレーニングを無理して続けた結果、心臓発作を起こして絶命してしまう青年だった。死んでしまうとわかっていながらも走り続けたこの青年の死は、このまま歌い続けたら死んでしまうかもしれない西城秀樹本人の姿と重なり、胸がしめつけられるような思いがした。

2曲目  イエロー・マジック・オーケストラ「TECHNOPOLIS」
西城秀樹に夢中になったといっても、その後はプラモデルや機械いじりの好きな、音楽とはむしろ無縁の子どもだった。そこに突如として現れたのがシンセサイザーだった。当時のシンセサイザーは子供が買えるようなものではなかったが、縦横に張り巡らされたケーブルやツマミなど、楽器というよりは音を合成する機械とでもいうべきその姿は、機械いじりの好きな子供を再び音楽に向かわせるには十分な魅力を備えていた。やがて江口寿史の「すすめ!!パイレーツ」に描かれていた「黄色魔術楽団」が実在するグループだと知り驚くことになる。
彼らの存在は音楽以外の様々な文化への入り口にもなってくれた。しかし、それだけではない。田舎者の少年が多少色気づいたとき、周囲に参照できるものがヤンキーの先輩しかいなかったところに、そうではない別の方向を示してくれたのだ。実のところ、それが一番大きいことだったかもしれない。

3曲目  Simon&Garfunkel「I am a Rock」
中学では部活動をやっていなかったので、自然と一人でいる時間が長くなった。その長い時間を、本を読んだり音楽を聴いたりして過ごすようになったのだが、そのせいか、だんだん周囲との違和感が増していくように感じられた。要するに思春期というわけで、「孤独が僕を、僕の親友にした」というわけである。
そんなときに私はこの歌と出会ったのだったが、つまらない連中と無駄に時間を過ごすくらいなら一人でいる方がはるかにマシだと思うようになっていった私に、この歌はまるで自分のことを歌っているように感じられた。誰とも関わらずに本を読むか音楽を聴くか、映画を見るだけの生活。大学に入学するくらいまでの間、「I am a Rock」はいわば私のテーマソングだった。

4曲目  The Beatles「Lucy in the Sky with Diamonds」
高校時代、同級生の友人たちとバンドを組んだ。音楽の趣味がバラバラな人間の集まりだったので、どんな曲を演奏するかさえ決めることができずに迷走し、初めて人前で演奏する機会を得たのは3年生のときの文化祭だった。ところがその年は、いつもより出場を希望するバンドが多かったため、うまいバンドは視聴覚室、へたなバンドは教室にそれぞれ振り分けるという、ちょっとしたオーディションをすることになったのだ。その日はヴォーカルの都合が悪く出られなかったので、代わりに私が歌うことにしたのだが、オーディション会場にいるのは実行委員が4、5人くらいだろうと思っていたのに、行ってみたらギャラリーが5、60人くらいは見に来ている感じで、その驚きと緊張ですっかり縮み上がった私は満足に声も出せない状態になり、そのまま挽回することもできず、不本意な演奏のまま終わってしまったのだった。このときに演奏したのがこの曲。あまりの情けなさに「自分は音楽を裏切ってしまった」という思いにしばらくの間苦しむこととなった。
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