小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

催眠術(小説)(上)

2015-09-05 23:45:18 | 小説
催眠術

ある中学校である。純は内気な生徒である。成績はいいが、小さい頃から、体が弱く、体操は全くダメだった。
京子はスポーツ万能で、部活はバレーボール部だった。だが、マット運動や、陸上など、何でも上手く出来た。その姿は清々しかった。純は、内心、身を焦がすほど、京子が好きだった。しかし、純は内気で暗い。モヤシのガリ勉である。引っ込み思案の純には、とても京子に自分の想いを告白する勇気などなかった。しかし、京子は分け隔てなく誰にでも声をかけた。休み時間、純が一人で机にいると、
「純君。一緒に遊ばない?」
と気さくに声をかけた。純は赤くなって、
「い、いいです・・・」
と言って断った。しかし、京子に声を掛けてもらえるのは、顔には表さなかったが、最高に嬉しかった。
体育の時間では、よくドッヂボールをした。男も女も一緒に。運動は苦手な純だが、純はドッヂボールが嫌いではなかった。ドッヂボールは、相手に思い切りボールをぶつける所に面白さがある。しかし純は、そうではなかった。第一、力の弱い純が投げても、相手に捕られてしまうだけである。純はドッヂボールで逃げるのが楽しかった。逃げて逃げて、逃げまくり、ボールをぶつけられなければ、生きてコートの中に入っていられるのである。外の人は死んだ人である。本当は完全には死んではいなく、コートの中の敵にボールをぶつければ、また生き返って、コートの中に入ることが出来る。しかし、純は一度、ボールをぶつけられ、コートの外に出てしまったら、もうコートの中に戻ることは出来なかった。それで、純は、逃げに逃げた。逃げているうちに、だんだん、逃げ方が上手くなった。純が最後の一人になることもよくあった。純はそれが嬉しかった。京子は、そんな純を狙って容赦なく、力一杯、ボールを投げた。京子は執拗に純をマークした。純は京子の投げるボールを上手くよけることが出来ることも時々あった。しかし、やはり、ぶつけられてしまうことの方が圧倒的に多かった。しかし純は京子にボールを、思い切りぶつけられるのが、何とも言えず心地よかった。京子が純を意識していることが嬉しかったのである。
夜、布団に入ると、純は、京子との妄想に耽った。それは、京子にいじめられる妄想ばかりだった。人の来ない熱帯の無人島である。純は京子と二人きりである。純は、京子に誘われて、その寂しい無人島に行ったのである。純は、何をされるのかと、ドキドキした。大きな木の前にくると、京子は、いきなり、純に襲いかかった。
「な、何をするの。京子ちゃん」
と言っても、京子は、無視して、ふふふ、と笑いながら、純の服を脱がせて、純を丸裸にしてしまう。力の弱い純は、力の強い京子には、かなわない。京子は純の手首を背中に回して縛り、カッチリと胴を縛りあげる。そして京子は、高い太い木の枝に、
「えーい」
と投げて、縄の余りを木に引っ掛ける。そして、その縄を引っ張っていく。純は縄に引っ張られて、どんどん引き上げられていく。ついに足が浮く。だが、京子は、容赦せず、さらに縄を引っ張る。純は、地上高く、吊り上げられてしまう。京子は、純の下に、木切れを持ってきて、積み上げ、それに火をつける。火炙りである。薪についた火がどんどん、燃え盛っていく。
「あ、熱いー。や、やめてー。京子ちゃん」
と純は、丸裸の足をバタバタさせながら、叫ぶ。だが京子は、笑って見ている。
「どうして、こんなことするの。京子ちゃん」
と純が聞く。
「ふふ。純君。私、本当は純君をいじめて、いじめて、苛めぬきたくて仕方がなかったの」
と笑いながら言う。純は、
「許して。京子ちゃん」
と哀願する。だが、京子はやめない。
と、そんな夢想だった。
だが翌日、学校に行くと、京子は、「おはよう。純君」と元気に明るく挨拶する。純は京子が、自分をどう思っているのかは、わからなかった。ドッヂボールでは、京子は、純を、明らかに狙って投げてくる。しかし、スポーツでは、弱い相手をマークして攻撃するのは、当たり前で、それは、スポーツというものは、人間の戦闘本能の遊び、という形に変えたものだからである。元気で強い子供は、遊びを無邪気に楽しんでいるのであって、それはサディズムではない。もちろん、サディズムを楽しんでいる子供も、中にはいるだろうが、それはむしろ、極めて少数派である。京子はお転婆で、遊ぶことが好きなようにしか見えず、サディズムなどという、屈折した感情は、持っていないように感じられた。

   ☆   ☆   ☆

ある月曜日のことである。
昼休みに、京子の所に、三人の女友達が集まってきた。順子と悦子と桂子の三人である。
「ねえ。京子。何か面白い遊びはない?」
順子が言った。
「この前、従姉妹に催眠術を教えてもらったの。やらない?」
京子がそう言うと、三人は、
「うん。やろう。やろう」
と言い出した。
「じゃあ、かけてあげるわ。順子。椅子に座りなさい」
「はい」
京子に命じられて、順子は椅子を京子の方に向けて座った。
「さあ。目を閉じて」
京子に言われて順子は目を閉じた。
「体が・・・だんだん重くなってくる」
京子は呪文のように順子に言った。
「体が・・・どんどん重くなってくる。もう体は石になってしまっている」
京子は、早口で喋り出した。
「もう体は動かせない。動かそうと思っても動かない」
京子は、つづけて言った。
「さあ。右手をあげてごらんなさい」
京子は順子に命じた。
順子は、閉じていた目を開いて、ははは、と笑った。
「京子。だめだよ。私も催眠術にかかってみようと、心を無にしていたけど、やっぱりかからないよ」
順子は笑いながら言った。
「おかしいなー。従姉妹と、やった時は、かけられちゃったし、かけることも出来たのに」
京子は首を捻りながら口惜しそうに言った。
「おい。京子。じゃあ、オレにかけてみてくれよ」
見ていた男子の一人、直人が京子に声をかけた。
「いいわよー。じゃあ、こっちにいらっしゃい」
そう言って京子は、直人を手招きした。直人は、ホクホクしながら、やって来て、京子の前の椅子に座った。
「ふふ。かけられるものなら、かけてみな」
直人は不敵に言った。
「さあ。目を閉じて」
京子は順子に言ったのと同じように言った。京子に言われて直人は目を閉じた。
「体が・・・だんだん重くなってくる」
京子は呪文のように直人に言った。
「体が・・・どんどん重くなってくる。もう体は石になってしまっている」
京子は、早口で喋り出した。
「もう体は動かせない。動かそうと思っても動かない」
京子は、つづけて言った。
「さあ。右手をあげてごらんなさい」
京子は直人に命じた。
直人の右腕や右肩が苦しそうに、ピクピク振動した。直人は眉を寄せて苦しそうな表情である。右手をあげようとしているのだか、あからないのだろう。
京子は、しめしめといった、得意顔になった。
「順子。直人の右手をあげてみて」
言われて、見ていた順子は、ウーンと唸って、直人の右手を、持ち上げようとした。だが直人の腕はビクともしない。
「だめだわ。あがらないわ」
順子は、参ったというような顔で言った。
京子は、嬉しそうに、直人の耳を引っ張ったり、頬をピシャピシャ叩いたりした。
「やった。かかった。かかった」
京子は嬉しそうに言った。
「さあ。今度は体が柔らかくなる」
京子は、また呪文のように直人に言い始めた。
「体がどんどん柔らかくなっていく。もう、体は蛸のようにグニャグニャになっている」
京子は、早口で喋り出した。
すると硬直した直人の体から力みがなくなっていった。
京子はさらに続けて言った。
「体が左右に揺れ出す」
京子は、また呪文のように直人に言い始めた。
「体が、どんどん左右に揺れ出す」
京子は、早口で喋り出した。直人の体が左右に揺れ出した。
「もっともっと揺れが大きくなっていく。もう椅子から落ちてしまう」
京子が言った。
直人の体が左右にグラグラ揺れ出した。揺れは、どんどん大きくなって、直人は苦しげな表情になって、必死で耐えようとしている様子だったが、ついに椅子から落ちて床に倒れてしまった。直人は、グッタリと床にうつ伏せになったまま、微動だにしない。
「ふふふ」
と京子が笑った。
「ふふ。どう。見事に催眠術にかかっちゃったでしょ」
京子は誇らしげに、周りの女達を見た。
その時。うつ伏せに床に横たわっている直人がムクッと起き上がった。直人は、立ち上がって京子の顔を笑って見た。
「バーカ。かかった振りをしただけだよ」
直人はそう言って、あっかんべー、を京子にした。
「さっき、叩いたお返し」
直人はそう言って、京子の顔をピチャピチャ叩いた。そして、自分の席にもどった。男達は、あっははは、と笑った。
「ちぇっ」
京子は口惜しそうに舌打ちした。
「おっかしいなあ。従姉妹とやった時は、本当に催眠術かけたり、かれられたりしたのになー」
京子は口惜しそうに言った。
「本当?」
順子が聞いた。
「本当よ」
京子は、自信ありげに言った。
「催眠術っていうのはね、かけられる方も真剣にならないと、かからないものなのよ。かけられる人の協力が必要なのよ。ふざけていたり、かかるものかって思っていたら、かからないわ」
京子は言った。
順子が教室を見回した。その視線が純に向けられた。純は教科書を読んでいたが、順子の視線は、すぐに感じとった。
「ねえ。純君。催眠術、やってみない?」
順子が聞いた。
「純君なら、真面目そうだから、かかるような気がするわ」
順子はさらに言った。
「そうね。純君。やってみない?」
京子がニコッと笑って聞いた。
「は、はい」
純は緊張して真っ赤になりながら答えた。
「じゃあ、こっちへ来て」
と言って京子は純を手招きした。純は立ち上がって、京子の所に行き、椅子に座った。純は緊張で心臓がドキドキした。
「じゃあ、始めるわよ」
京子が言った。
「さあ。目をつぶって」
京子に言われて純は目をつぶった。だが心臓が緊張でドキドキしてしまって、これでは、とても、催眠術には、かかりたいと思っても、かからないだろうと思った。
その時。ジリジリジリー。午後の授業の始業のベルがなった。
「あーあ。残念」
順子、悦子、桂子の三人は、そう言って自分の席にもどった。純も自分の席にもどった。純も残念だった。
純は、昼休みの、京子の催眠術を見ていて、一人、激しい興奮を感じていた。直人のように、京子に催眠術にかけられて、頬っぺたを叩かれたり、倒れた体を憧れの京子に踏まれたりしたら、どんなに心地いいことだろう。と、そんな想像で頭がいっぱいで、純は、その日の午後の授業は上の空で耳に入らなかった。もし、純が京子の催眠術にかかったら、京子は、どんなことをするだろう。と純は想像した。手始めに、男の頬っぺたを叩いたり、体を踏んだりするくらいだから、お転婆な京子のこと。もっと色々な悪戯をするに違いない。純は、その未知のことが気になって仕方がなかった。また、催眠術をかけた時の京子の悪戯っぽい笑顔も。
四時間目の授業が終わった後、ちょうど京子が、教室を出たので、純は、しめた、と思って、純も京子の後を追って教室を出た。
「あ、あの。京子さん」
純は、勇気を出して、京子の後ろから京子に声をかけた。京子は、ストレートの黒髪を翻して振り向いた。
「なあに。純君?」
京子はニコッと笑って聞いた。
「あ、あの。放課後、教室に残ってもらえないでしょうか?」
純は、たどたどしい口調で言った。
「用は何?」
京子が聞いた。純はあたりを見回した。
「放課後、話します」
「わかったわ」
純はそう京子に告げると、急いで教室にもどって、自分の席についた。京子も、ほどなく教室にもどってきた。
次の授業が始まった。今日の最後の数学の授業である。だが、放課後のことを思うと、緊張して、頭が混乱して、とても授業など耳に入らなかった。
キーン・コーン・カーン・コーン。
終業のベルが鳴った。数学教師は、チョークを黒板に置いた。
「じゃあ、今日はここまで」
起立、礼、着席、の号令をクラス委員がかけた。
「先生。さようなら」
生徒達はペコリとお辞儀した。
教師が教室から去ると、皆、ガヤガヤと喋りながら、帰り支度を始めた。
京子は、いつも友達と一緒に帰る。
「京子。帰ろうよ」
教科書とノートをスポーツバッグに入れて、肩にさげた順子が京子に言った。
「あ。順子。私、今日はちょっと用があるから、先に帰って」
京子が言った。
「そう。わかったわ。じゃあね。京子。また明後日」
そう言って順子は、他の女子とワイワイ喋りながら、教室を出て行った。明日の火曜日は祝日だった。
他の生徒も、教室を出て行った。
ついに教室は、京子と純だけになった。
生徒がいなくなってガランとした教室は、妙にさびしい感じになった。今日は月曜日で、明日は祝日で休みなので、そのさびしさは一層だった。活気を失った無機質の教室とでも言おうか。だが、人付き合いが苦手な純には、むしろ、人のいない教室の方が気持ちが落ち着いた。
京子が純の席の前にやって来た。
「純君。用は何?」
京子が笑顔で聞いた。
「あ、あの。さっき、途中で終わってしまいましたので・・・。催眠術かけて下くれませんか。かかってみたいんです」
純は真っ赤になりながら言った。
「ふふ。わかったわ。かけてあげるわ」
京子はニコッと笑って言った。その顔には悪戯っぽさが少し漂っているように見えた。純は、どんなことをされるんだろうと緊張で心臓がドキドキした。京子は、椅子を一つ教壇の横に持っていって置いた。
「さあ。純君。こっちへ来て」
純は席をたって、その椅子に座った。京子は純の前に立っている。
「それじゃあ、始めるわ。じゃあ、目を瞑って」
早速、京子は催眠術をかけ始めた。純は言われた通りに目をつぶった。
「体が・・・だんだん重くなってくる」
京子は呪文のように純に言った。
「体が・・・どんどん重くなってくる。もう体は石になってしまっている」
京子は、早口で喋り出した。
「もう体は動かせない。動かそうと思っても動かない」
京子は、つづけて言った。
「さあ。右手をあげてごらんなさい」
京子は純に命じた。純は、あたかも京子の催眠術にかかったように、苦しそうな表情で、右腕をピクピク震わせた。だが純は催眠術にかかってはいない。純は京子の催眠術にかかりたいと思っているが、憧れの京子と二人きりで、京子の催眠術を受けていると思うと激しい興奮と緊張から、とても心を無にして、京子の言葉に集中することなど出来なかった。そんな緊張した精神状態では、とても催眠術にかかることなど出来るはずがない。なので、かかった振りを演じようと純は思ったのである。
ふふふ、と京子の笑い声が聞こえた。京子は、純が、催眠術にかかったと思っているのだろう。京子が純の前で得意顔になっている様子が想像されてくる。

京子は、純が本当に催眠術にかかったのかどうか確かめようとしたのであろう。純の耳を引っ張ったり、頬をピシャピシャ叩いたりした。
「やった。かかった。かかった」
京子は嬉しそうに小声で言った。憧れの京子に頬を叩かれて、それは何とも言えず、心地よい感触だった。純が京子に触られるのは、これが初めてだった。
「さあ。純君。ゆっくり目を開けて」
京子に言われて純は、ゆっくり目を開けた。催眠術にかかっているような、トロンとした虚ろな目つきをした。だが間違いなく、憧れの京子が純の前にいる。
「さあ。純君は犬よ。服を全部、脱いで四つん這いになりなさい」
純は、ギョッとした。緊張で心臓がドキドキしてくるのを抑えて、純はゆっくり服を脱ぎ出した。ワイシャツを脱ぎ、ズボンを降ろし、シャツを脱ぎ、恥ずかしかったが勇気を出してパンツも脱いで、一糸纏わぬ丸裸になった。そして倒れるように床に四つん這いになった。純は、心臓がはち切れんばかりに興奮してしまって、荒くなってくる息を抑えるのに苦労した。おちんちんは、激しく勃起していたが、四つん這いになることで、せめても、多少なりとも見えにくい体勢となってくれたことに感謝した。
「さあ。体が固くなっていく」
京子はまた呪文を唱え出した。
「体が・・・どんどん固くなってくる。もう体は石になってしまっている」
京子は、早口で喋り出した。
「もう体は動かせない。動かそうと思っても動かない」
京子は、つづけて言った。
「さあ。純君は犬の銅像よ。銅像だから体はガチガチに固くなって動かないわよ」
京子が言った。

純は本当に体が固くなっていくような気がした。純は、肘をピンと伸ばし、全身の筋肉に力を入れて、ギュッと体を固くした。何か、本当に犬の銅像になってしまったような錯覚に一瞬おちいった。その時。
「あっ」
純は思わずピクッと体を震わせた。京子が爪を立てて、脇腹をスッとなぞったからである。
「ふふふ」
京子は、悪戯っぽく笑いながら、脇腹や脇の下、首筋、腹、背中など、純の体を満遍なく、爪を立ててスーとなぞっていった。
「ああー。ひいー」
純は、眉を寄せて、全身をガクガク震わせながら、京子のくすぐりに耐えた。次に京子は、純の耳を引っ張ったり、鼻をつまんだり、瞼を引っ張ったりと、純の顔を弄くった。これは、くすぐられるのよりは、耐えられた。しばし、京子は、純の顔を弄んでから、スッと立ち上がった。純は、ほっとした。だが、それも束の間だった。
「ああー」
純は、また悲鳴を上げた。京子が純の尻の割れ目をグイと開いたからである。尻の穴は丸見えになって、京子はそれを悪戯っぽく眺めているはずである。その京子の悪戯っぽい視線が、はっきりと想像されて、純に、激しいマゾの快感が起こったのである。純は、こうされることを夢にまで望んでいた。ダランとぶら下がっている金玉や、激しく勃起した、おちんちんも京子には丸見えのはずである。
『もっと見て。もっと見て』
と純は心の中で京子に叫んだ。京子の顔が見えないということや、自分でも見たことのない尻の穴を見られているという恐怖感が、より一層、被虐心を刺激した。しばしして京子は、尻の穴を広げていた手を放した。それでも、膝を大きく開いているため、尻の割れ目は開いて、尻の穴は京子に見えているはすである。しかし、純は、犬の銅像であるので、膝を閉じようと動かすことは出来ない。それも、純の被虐心を刺激した。
「ひいー」
純は思わず、激しい刺激に悲鳴を上げた。京子が爪を立てて、尻の割れ目をスッとなぞったのである。純は反射的に、尻の穴をキュッと窄めた。しかし膝を開いているため、尻の割れ目を閉じることは出来ない。もどかしい指先が、何度も尻の割れ目を往復した。
「ひいー」
純は悲鳴を上げつづけた。指先は、太腿や脹脛、足の裏、尻の上などを軽やかに這い回った。それは、苦しく遣り切れないと同時に、この上なく甘美な感触だった。やがて、指先は、開いた脚の間から鼠径部に入っていった。ビンビンに勃起した、おちんちん、や、その周辺の腹を指先が這い回った。
「ああー」
純は膝をガクガク震わせて、その、もどかしい刺激に耐えた。次に、悪戯な手は純の金玉を、そっと包んだ。そして、二つの胡桃を手の中で転がすように、二つのプヨプヨした金玉は、包まれた手の中で、転がされた。それは、恥ずかしいが、何とも言えず心地よい感触だった。

純は出来ることなら、ずっとこうされていたいと思った。
しかし、京子は、しばらく金玉を揉んだ後、手を金玉から離し、ふふふ、と笑って立ち上がった。
「さあ。だんだん体が元通りに柔らかくなっていく」
京子はまた呪文を唱え始めた。
「どんどん体が柔らかくなっていく。もう銅像ではなく、生きた犬になっている」
京子は早口で喋りだした。すると何だか、本当に体が柔らかくなっていくような気がしてきた。静止した体がムズムズし出し、ドクン、ドクンと自分の心臓の鼓動が聞こえ出し、ハアハアと犬のように、呼吸するようになってきた。
「もう動かずにはいられない」
京子はさらに早口で言った。純は、全身の筋肉がムズムズして、動きたくなってきた。静止しているのが苦痛になってきた。
京子は、おもむろに椅子に座って、靴下を脱ぐと、それを遠くへ放り投げた。
「さあ。靴下を咥えてきなさい」
京子が命じた。純は、ダッシュするように四つん這いでペタペタと歩き出し、京子の靴下を口に咥えると、座っている京子の所に、もどってきた。
「よしよし」
京子は、純の口から靴下を受け取ると、忠実な犬を撫でるように純の頭を撫でた。もう純は犬になっている自分に抵抗を感じなかった。
京子は素足を純の顔に近づけた。
「さあ。足をお舐め」
京子が言った。言われて純は、京子の足指をペロペロと夢中で舐めた。京子の素足は、ちょっと酸っぱかった。京子は満足そうな顔である。
「さあ。今度はこっちの足よ」
そう言って京子は、もう片方の靴下を脱いで、純の鼻先に近づけた。純は、待ってましたとばかり、貪るように、その足の指をペロペロと舐めた。
「もう、いいわ」
しばしして、京子は足を引いた。そして、両方の靴下を履いた。

そして、椅子から立ち上がった。京子は、純のパンツを持ってきて、純の傍らに屈んだ。
「さあ。片足を上げなさい」
京子が言った。純は、犬がオシッコをするように片足を上げた。京子は足先からパンツを通した。そして、もう一方の足も同様に命じて、上げさせて、パンツを通した。京子はスルスルとパンツを腰まで引き上げて、純にパンツを履かせた。
「じゃあ、催眠を解くわよ」
京子が目の前の純に言った。
「1、2、3。はい」
京子は早口で大きな声で言って、パンと手をたたいた。

純は、夢を見ていた人が覚醒する時のようにハッと我に返った。パンツ一枚だけ履いていて、目の前には、笑顔の京子がいる。純はあわてて、ズボンを履き、ランニングシャツを着てワイシャツを着た。
「どうだった。純君」
京子が聞いた。
「何か、とても気持ちがよかったです」
純は答えた。
「そう。それはよかったわね」
京子は笑って言った。
「どうして僕はパンツ一枚なんですか?」
純が聞いた。
「ふふふ。さあ。どうしてかしら。でも気持ちよかったんだから、いいじゃない」
そう言って京子は笑った。
「それじゃあ、また明後日ね」
そう言って京子はカバンを持って教室を出て行こうとした。
「あ、あの。京子さん」
純は帰ろうとする京子をひきとめた。
「なあに。純君」
京子は、髪を翻して振り返った。
「また催眠術かけてくれませんか。何か、すごく気持ちがよかったんです」
京子はニコッと笑って、
「わかったわ」
と言って教室から出て行った。純は、しばし呆然としていた。教室の窓から、京子が校門を出ていくのを確かめてから、カバンを持って、教室を出た。

   ☆   ☆   ☆

純は家に帰る途中でも、まだ催眠にかかったように、ボーとした虚ろな感覚だった。
「おかえり。純」
家に着くと母親が出てきた。
「ただいま」
純は、返事した。
「おそかったわね。どこかに寄っていたの?」
母親が聞いた。
「ううん」
純は首を振った。そして急いで部屋に入った。
純はゴロンとベッドに寝転がった。そしてパソコンを開いた。そして、「京子」と書かれたフォルダを開けた。それは、何枚もの京子の写真だった。京子はクラスのアイドルで、男子生徒が、京子に、写真を撮らせてくれ、と頼んだのである。京子は、天真爛漫な性格なので、「うん。いいよ」と言って、写真を撮らせた。撮った男子生徒は、それを、千円で、他の男子生徒に売っていた。「純。お前も欲しくないか?」と聞かれて、純は、「じゃあ、買うよ」と、多少の興味を示す態度を装って買ったのである。しかし、それを手に入れた時の純の喜びは、喩えようもなかった。それは、純の宝物となった。いつもは、生身の京子を見ているので、あまり写真は見ていない。持っているということに安心と満足を感じているのである。しかし、天真爛漫な京子の姿をあらためて見ているうちに、純はだんだん興奮してきた。純は、催眠術をかけられた最初のうちは、激しく興奮していた。それは、かかった振りをしただけの演技だった。しかし京子の命令に従っているうちに、純は本当に我を忘れていったのである。もし、純が京子の命令に従わおうとしなかったら、はたして、それが出来たであろうか。それは、催眠術に本当にかかったか、どうかとは別の理由で、絶対、出来ないことだった。だから純は、ともかく京子の催眠術で犬になったのである。しかし、精神状態が虚ろになっていっても、京子にされたことは、しっかり覚えている。純は、京子の笑っている写真を見ているうちに、だんだん、催眠術中に京子にされたことが実感として感じられてきた。裸になって四つん這いになり、京子にくすぐられたこと。お尻を見られたこと。犬になって京子の靴下を咥えたこと。京子の足指をペロペロ舐めたこと。それら、全てが思い出された。ここに至って、純の虚ろな催眠状態は完全に解けたのである。同時にたまらない羞恥と興奮が起こってきた。純は、おちんちんをズボンの上から揉み出した。ハアハアとだんだん息が荒くなっていった。純は、上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、シャツを脱ぎ、パンツを脱いで、丸裸になった。そして、等身大の姿見の鏡の下にプリントアウトした京子の写真を置いて、鏡の方に尻を向けるように四つん這いになった。後ろで写真の京子が見ていると思うと、純の興奮は益々、激しくなった。
「ああっ。京子ちゃん。もっと見て」
純は興奮しながら叫んだ。純はティシュペーパーの先を丸めて紙縒りを作り、それで、そーと尻の穴をなぞった。
「ああっ」
もどかしい刺激に純は声を出した。純は何度も、尻の割れ目を紙縒りでなぞった。純の息は、ハアハアと息を荒くなっていった。純は手鏡を後ろの姿見の鏡に向けた。自分の窄まった尻の穴が見える。同時に京子の笑顔の写真も。尻の下には金玉がぶら下がって、おちんちんが見える。こんな惨めな格好を京子に曝け出し、思う存分、京子に弄ばれたかと思うと、純の興奮は益々、激しくなっていった。

その日、純の父親の帰りは遅かった。ので夕食は母親と二人きりでした。純は自分が、女の子に、あんな惨めなことをされたかと思うと、また、されて嬉しがっている自分を思うと、母親に対して恥ずかしくなった。
「どうしたの。純?」
純がソワソワしているので、母親が聞いた。
「いや。別に」
そう言って、純は、かきこむように夕食を食べた。そして、すぐに自分の部屋にもどった。だが純は京子のことで頭がいっぱいだった。純はいてもたってもいられなくなった。それで、自転車で、京子の家へ向かった。外はもう真っ暗である。京子の家につくと、窓から、気づかれないように、そっと家の中を見た。ちょうど食事中だった。京子は、父親と母親と楽しそうに、笑いながら食事している。その笑顔は、放課後のことなど忘れているかのようだった。純は、ともかく京子の顔を見て、ほっとした。京子の家族に見つかったり、警察に見つかったり、通行人に見つかって不審人物と通報されるのが怖かったので、すぐに家から出た。そして、自転車で家に戻った。だが京子の顔を見たので、少し緊張がとけた。純はパソコンを開いて、ネットで、催眠術について、色々調べてみた。色々なことが書かれてある。そして、You-Tubeで、「催眠術」を検索した。この頃は、何かを調べるのは、You-Tubeで検索するのが、一番、手っ取り早く、解り易かった。いくつもあったが、女が一瞬で、催眠術にかかり、服を脱ぎ出したり、自分のスカートをめくったり、と、術者の言うことを本当に聞いている。エロチックなものが堂々とYou-Tubeにのっているが、これらは、すぐに削除されるだろうと純は思った。その中で、「催眠術体験ムービー」というのがあった。動画を見るだけで、催眠術にかけるというものだった。純は、半信半疑だったが、やってみた。術者の指示に従って左手を、握った後、画面にヒプノディスクがグルグル回っているのが出てきた。遠心状に、黒い輪がどんどん広がっていく。しかし、じっと見ていると、広がっているように見えた輪が、方向を変えて、小さくなっていくように見え出した。やがて、広がるように見えたり、小さくなるように見えたりし出した。ちょうど高速回転する扇風機や車のホイールが、速度の変化と共に、右に回っているように見えたものが、左に回っているように見えたりするような錯覚と同じである。ヒプノディスクを数分、見た後で、術者は、手を開くように言った。しかし、これが開かないのである。ウンと力を入れても。
「ああ。催眠術って本当なんだな」
と純は驚いた。気づくともう、12時を過ぎていた。ネットの記事やYou-Tubeを見ていると、時間はあっという間に過ぎていく。純は、パソコンをシャットダウンした。そして、布団をかぶった。純は、京子に催眠術をかけられるのもいいが、かけて、裸にしてみたり、犬にしてみたりするのも面白いだろうなと、そんなことを想像しながら寝た。

   ☆   ☆   ☆

翌日の火曜日は祝日だった。
純は、祝日も勉強するが、京子との催眠術ごっこが気になって興奮して、勉強など手につかなかった。自分も催眠術をかけれるようになりたいと、色々、ネットを調べてみた。催眠術教室というのも、あったが、高くて場所が遠い。しかも他人に催眠術をかけられるようになるには、最低、三ヶ月の練習が必要、というのが、相場だった。催眠術をかけられるようになるには、かなりの訓練が必要のようである。しかし上手い術者は、一瞬で、かけてしまうので、簡単そうに見える。簡単そうに見えるので、純は自分もぜひ催眠術をかけられるようになりたいと思った。
それで昼御飯がおわった後、純は、パソコンをカバンに入れて持って、近くの親戚の家に行った。純の父親の弟の夫婦の家である。ピンポーン。チャイムを鳴らすと、ドアが開いて、叔母さんが出てきた。叔母さんといっても、まだ30代ちょっとで若い。
「あっ。いらっしゃい。純君」
奈津子という、叔母さんが出てきた。純を見るとニッコリ笑った。
「こんにちは。叔母さん」
純も挨拶した。
「あっ。おにいさん。こんにちは」
一人娘の洋子がパタパタと、つづいて出てきた。洋子は、今年小学生になったばかりの7歳の幼い少女だった。純は、この従姉妹を妹のように、可愛がって、よく遊んであげていた。洋子も兄弟がいないので、純は洋子にとって兄のような存在だった。洋子は一人娘で、さびしがり屋で、一人でいると、ファミコンばかりしてしまうので、叔母にとって、純は有難い存在だった。純は、洋子に本を読んでやったり、近くの公園へ連れて行ってやったりしていた。
「はい。どうぞ」
そう言って、奈津子は、純にストロベリーケーキと紅茶を出した。
「ありがとうございます」
そう言って純は、ケーキを食べた。傍らでは、洋子が、指を咥えて純を見ている。
「お母さん。私もケーキ食べたい」
洋子は、母親の服を引っ張った。
「なに言ってるの。洋子ちゃん。さっき、食べたばかりでしょ」
母親は、娘をたしなめた。
「でも、おにいちゃんが食べているのを見たら、何だか、食べたくなっちゃった」
洋子は、もの欲しそうな口調で言った。
「しょうがないわね」
そう言って、母親は、洋子にもストロベリーケーキと紅茶を出した。
「ありがとう。お母さん」
そう言って洋子は、テーブルについて、純と一緒にケーキを食べた。
「あの。叔母さん。ご主人は?」
「主人は、今日、朝から同僚とゴルフに行ってます」
奈津子が答えた。
「あの人、休みの日は、いつもゴルフなんだから。少しは、洋子と遊んであげて欲しいわ。純君が来てくれると、本当に助かります」
叔母は、不満そうに言った。
「あっ。純君。ちょうどよかったわ。お願いがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?」
「はい。何でしょうか?」
「私、買い物、行かなきゃならないので、その間、洋子の相手をお願いできないでしょうか?」
「ええ。いいですよ」
純はニコリと笑って言った。
「ありがとう。純君。ちょっと遅くなるかもしれないけど、いいかしら?」
「ええ」
純は笑って答えた。
「じゃあ、行ってくるわ。洋子をよろしくお願いします」
そう言って、叔母は、買い物バッグを持って、家を出て行った。
あとには純と洋子がのこされた。

叔母が家を出ると、純は玄関の鍵をかけた。チェーンの内鍵もかけた。叔母の夫は、この頃、ゴルフに凝っていて、休みの日には、ゴルフ場へ行くことは、純も知っていた。
「おにいちゃん。公園行に連れてって」
洋子が純の手を引っ張って言った。
「いや。洋子ちゃん。今日は、お家であそぼうよ」
純は洋子の頭を撫でて言った。
「何をして遊ぶの?」
「さあ。何だろうな」
純は思わせ振りな口調で言った。
「洋子ちゃん。座って」
言われて洋子は居間の椅子に座った。
「さあ。洋子ちゃん。目を閉じて」
「目を閉じて何をするの?」
洋子が首を傾げて聞いた。
「いいから目を閉じて。面白い遊びをするから」
純は、急かせるように言った。洋子は目を閉じた。
「洋子ちゃん。リラックスして。そして、これから僕が言うことを集中して聞いて」
「うん」
洋子は、目をつぶったまま、返事した。
純は、しめしめ、と思った。純は洋子に催眠術をかけてみようと思って、やってきたのである。純は、昨日の京子の催眠術の真似をして暗示の言葉をかけ出した。
「体が・・・だんだん重くなってくる」
純は呪文のように洋子に言った。洋子はじっと座っている。
「体が・・・どんどん重くなってくる。もう体は石になってしまっている」
純は、早口で喋り出した。
「もう体は動かせない。動かそうと思っても動かない」
純は、つづけて言った。
「さあ。右手をあげてごらん」
純が命じた。京子の右手がスッと上がった。洋子は目を開けた。
「おにいちゃん。何なの。これ?」
洋子は、キョトンとした顔つきで純を見た。
「チェッ。ダメか」
純は口惜しそうに舌打ちした。
純は、カバンから、パソコンをとりだして、洋子の前に置いた。そして、パソコンを開いた。
「洋子ちゃん。これから動画を見せるから。その指示に従って」
「うん」
洋子は素直に返事した。洋子は、興味を示す顔つきになっていた。
純は、昨日、体験した「催眠術体験ムービー」をスタートさせた。画面からの声が、左手を握るよう言った。洋子は、それに従って、左手をギュッと握った。次にヒプノディスクがグルグル回り出した。洋子はそれを集中して見た。しばらくして、「さあ。左手を開いて下さい」と画面の声が言った。すると洋子の手がスッと開いた。洋子は純の方に振り向いた。
「残念」
と純は溜め息をついた。
「おにいちゃん。何なの。これ?」
京子がキョトンとした顔つきで純に聞いた。
「催眠術さ」
純が、種明かしするように言った。
「催眠術って、本当にあるの?」
洋子が聞いた。
「ああ。あるよ。洋子ちゃんは催眠術、見たことない?」
「あるよ。テレビで見たことがあるわ。でも、あれって、本当なの?」
「本当さ。インチキじゃないよ」
「じゃあ、どうして、私はかからないの?」
「洋子ちゃんは、まだ子供だからさ。子供は催眠術にかからないらしいんだ」
純はネットで子供の催眠についても、調べてみいてた。それによると、
「子供は催眠術にはかからない。なぜかというと、子供は、いつも催眠状態、トランス状態だからである。子供が催眠術にかかるようになるのは小学校3年生ぐらいからであって、8歳から12歳の間に自我の境界線ができて、催眠術がかかるようになる」
と書いてあったのである。洋子は、7歳だから、もしかすると、催眠術にかかるかもしれない、と思って試してみたのである。しかし、純が簡単にかかったヒプノディスクの催眠でさえ、洋子はかからない。洋子はまだ、催眠状態で自我が出来ていないのだな、と純は、と思った。
「洋子ちゃん」
「なあに?」
「じゃあ、今度は洋子ちゃんが僕に催眠術をかけて」
「かけるって、どうやってやればいいの?」
洋子は困惑した顔で聞いた。
「さっき、僕が洋子ちゃんに、目を閉じさせて、体が重くなる、って言ったでしょ。あんな具合にすればいいのさ」
「わかったわ」
洋子は嬉しそうに言った。今度は純が椅子に座り、洋子が立った。
「さあ。目を閉じて下さい」
洋子は嬉しそうに言った。言われて純は目を閉じた。
「だんだん体が重たくなります」
洋子が呪文のように言った。
「どんどん、どんどん、体が重くなります」
洋子はつづけて言った。
「もう、体を動かそうとしても動きません」
洋子は、さらにつづけて言った。
「さあ。右手を上げて下さい」
洋子は楽しそうな口調で言った。純は、あたかも洋子の催眠術にかかったかのように、苦しそうな表情で、右腕をピクピク震わせた。だが純は催眠術にかかってはいない。京子に受けた催眠術の気持ちよさの代替として、洋子に催眠術にかかった振りをしようと思ったのである。だが洋子は、催眠術をかけることに成功したと思っているのだろう。
「やった。かかった。かかった」
と嬉しそうな口調で言った。
「さあ。純君は、馬です。四つん這いになって下さい」
洋子が嬉しそうに言った。純は目をつぶったまま、あたかも催眠術にかかったかのように、床に四つん這いになった。背中に、柔らかい物が触れた。洋子が純の背中に跨ったのである。子供とはいえ女の子。背中に伝わる洋子のお尻の感触は気持ちがいい。
「さあ。お馬さんが、鳴き声を出します」
洋子が嬉しそうに言った。
「ヒヒン。ヒヒン」
と純は、首を反らして馬の鳴き声を真似した。洋子は、キャッ、キャッと喜んでいる。
「さあ。お馬さんが走ります」
そう言って、洋子は、純の尻をピシャンと叩いた。純は、のそり、のそり、と四つん這いで歩き出した。キャッ、キャッという洋子の嬉しそうな声が聞こえてくる。純は、薄目を開けて、洋子を乗せて、居間をグルグルと一周した。
「さあ。止まって下さい」
背中の上の洋子が言った。純は、言われたように止まった。洋子は純の背中の上から降りた。
「はい。純君は人間です」
と言って洋子はパンと手を打った。純は、パッと目を開けた。洋子が嬉しそうに純の前に立っている。純は、あわてて、床から立ち上がり、ソファーに座った。
「洋子ちゃん。一体、どうして、僕は床に四つん這いになっていたの?」
純が聞いた。
「ふふ。さあ。どうしてかしら」
洋子は得意げな口調で言った。
「何か催眠術をかけたんだね」
純が言った。
「そうよ」
洋子は嬉しそうに言った。
「一体、何をしたの?」
と純。
「さあ。何かしら」
洋子は催眠術をかけたと思い込んでいるので、得意満面である。
「まあ。いいや。とにかく、これで催眠術が本当にあるってこと、わかったでしょ」
「うん」
洋子は嬉しそうに肯いた。
「じゃあ、今日の遊びは、これまでだ。さあ勉強だ」
「ちぇっ。つまんないの」
洋子はせっかく興が乗ってきて、もっと遊びたいというのに、遊べないということに不満の表情を示した。
「さあ。洋子ちゃん。算数の勉強をしよう」
「うん」
洋子は勉強机についた。
「さあ。洋子ちゃん。算数のドリルを開いて」
言われて、洋子は机の中から算数のドリルとノートを出した。
簡単な、足し算、引き算が並んでいる。だが洋子は算数が苦手だった。
ウーンと唸りながら、ノロノロと計算して、答えをノートに書き出した。いかにも、つまらなそうな顔つきだった。純は、ふと面白いことを思いついた。
「だんだん眠くなる」
純は小さな声で囁いた。
「どんどん、どんどん眠くなっていく」
純はさらに、小さな声で囁いた。
洋子の目が、だんだんトロンとし出した。洋子はコクリ、コクリと頭が揺れ出した。そして、ついに洋子は、机にうつ伏せになってしまった。
「洋子ちゃん」
純は声をかけた。だが、洋子はクークーと子犬のような寝息をたてて眠ってしまっている。
「こういう催眠、か、睡眠には簡単にかかるんだな」
と純は思って可笑しくなった。その時、チャイムが鳴った。奈津子だった。
「おかえりなさい」
純が鍵を解いて戸を開けた。
「ただいま。純君。留守番ありがとう」
そう言って奈津子は、買ってきた食料品を冷蔵庫に入れた。そして、洋子をチラッと見た。洋子は机の上にうつ伏せに寝ている。
「まあ。寝ちゃったのね。せっかく純君が家庭教師をしてくれるのに。仕方ないわね」
奈津子は不満げに言った。
「じゃあ、叔母さん。これで僕は帰ります」
純は言った。
「純君。留守番、どうもありがとう」
「また、来ます」
そう言って純は、叔父夫婦の家を出た。

   ☆   ☆   ☆

純は家についた。
「おかえり。純。どこに行っていたの?」
母親が出てきて聞いた。
「叔父さん夫婦の家」
純は答えた。
「洋子ちゃんに勉強を教えに?」
「うん。まあね」
そう言うと純は、自分の部屋に入った。部屋に入った純は、ベッドにゴロンと横になった。純はさっきのことを思い出して楽しんだ。洋子に催眠術をかけられなかったことは、残念だったが、洋子に催眠術をかけられた振りをしたことは面白かった。催眠術にかかる年齢は8歳から、とネットに書かれていたから、洋子が、もう少し、大きくなったら、また試してみようと思った。それと叔母さんも。叔母さんは若くてきれいである。大人だから、催眠術には、かかるかもしれない。もっとも、人を催眠術にかけるのには、最低、三ヶ月の練習が必要らしい。から、練習しなければ、かかるかどうかは、わからない。純は明日が待ち遠しくなった。京子は、また催眠術をかけてあげる、と嬉しそうに言った。明日、かけてもらえるかどうかは、わからないが、ともかく純は京子に会いたい一心だった。
その晩の夕食の後も、純は、ネットで催眠術に関することを、たくさん読んだ。

   ☆   ☆   ☆



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 催眠術(小説)(下) | トップ | 安保法案に対する天皇陛下のお心 »

小説」カテゴリの最新記事