小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

うつ病

2010-04-05 19:29:56 | 医学・病気
さて、うつ病について書こうと思う。まずYou-Tubeで「北杜夫」で検索すれば、出てくるが、黒柳徹子の、徹子の部屋、での娘さんの斉藤由香さんとの動画がある。あの北杜夫は典型的なうつ病状態である。亡くなった北杜夫の母親は、北杜夫に優しく、時々、「お前にのうつ病が早くよくなるよう祈ってますからね」と本心から温かい慰めをした。その発言なら、うつ病患者にとって、温かい発言だと思うだろう。しかし私はそうは思わない。もしかすると、つらい励ましになっている可能性はある。北杜夫にとって、どうなのかは、わからないが。
その理由。この発言で、「早くよくなるよう」という部分が問題だと思うのである。これは、どんなに温かい思いやりから、発した言葉であっても、患者をせかす面があるからである。うつ病患者は、抗うつ薬を飲み、精神科にかかって治療を受けている。しかし、うつ病というのは、いつ治るという保障はないのである。治るのに半年かかるかもしれないし、一年かかるかもしれないし、あるいは、それ以上、かかるかもしれない。いつになったら治る、という予測が出来ない病気なのである。それが、うつ病患者にとって、一番つらいことでもある。もし、一年で治る、とわかったのなら、一年という期間は長いが、うつ病患者にとって、これほど嬉しい事は無い。なぜなら一年で確実に治るのだから。それを聞いただけで、うつ病は翌日には治ってしまうことだってありうるだろう。しかし残念ながら、うつ病は、いつになったら治るという予測など出来ない。では、うつ病患者にとって、どういう人が有難いか。それは、ボケナスのような人間である。鈍感で、ボケーとした人間である。そういう人は怠け者だったら社会人として困るが、誠実な人にも、そういう人はいる。よくないのは、神経がカリカリしてて、人に小言を言わずにはいられない人である。そういう人は、行動的で、エネルギーがあって、何事にも積極的で、いい性格である場合が多い。しかし、うつ病患者にとっては、そういう人はつらいのである。ボケナスより、もっといいのは、ロボット人間である。何も感じない人間である。うつ病患者にとっては、ほっといて欲しい、そっとしておいて欲しい、静かに休ませて欲しい、というのが本心なのである。だから、「うつ病が早くよくなるよう祈ってますからね」という思いやりの言葉ですら、患者にとっては精神的負担になるのである。心の優しい人で、うつ病患者を、思いやった言葉をかけても、それがかえって、患者には負担になることさえあるのである。
「早くよくなってね」
「早く良くなるといいですね」
「早く仕事にもどれるようになるといいですね」
これらの発言は、患者にとっては、相手が思い遣りから言っているとわかっていても、精神的負担になるのである。うつ病患者は、基本的には、精神科医にまかせた方がいいのだが、精神科医にも色々な性格の医者がいて、相性の合う医者を探す事が大切なのである。では、一般の人は、うつ病患者に何も言葉をかけるべきではない、のか、といったら、そういうわけでもない。うつ病患者に対処する資格があるのは精神科医だけである、などという傲岸不遜な事が真理なわけでもない。別に精神科医じゃなくても、また、うつ病に関する知識がない人でも、いい場合もある。それは、人の心をじっくり考えられ、相手の立場になってものを見れるような、デリケートな人である。とにかく、せっかちな人は良くない。
娘さんの斉藤由香さんが、さかんに、「うつ」とか、「うつ病」という言葉を多用しているが私は賛成できない。なぜなら人間とは基本的に、うつ病にはならないからである。人間の80%は、人生で一生うつ病を経験しないで死んでいく。人間は、ちょっとやそっと、あるいは、相当大きな困難な状態になっても、何とかしようと四苦八苦するものである。それは、「生きよう」という意志が根本に強く根を張っているからである。そのため、ほとんどの人は、困難な状態になると、家族にあたり、ぐるぐると考えまわす。その結果、頭が混乱する。つまりパニック状態、神経症(ノイローゼ)になるのである。神経症と、うつ病は違うのである。では人間は、うつ病にはならないのか、といえばそうではない。なる時もあるのである。
では、うつ病になるのは、どういう時かといえば、それは、ガンが見つかって余命を宣告された時である。この場合には、「死」から逃げることが出来ないからである。ガンになったら、もう解決策がないからである。「死」の恐怖を本当に実感した時に、人間は、うつ病になる。

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