夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

私のオオカミ少年

2013-07-21 23:39:13 | 映画
韓国では昨年、ラブロマンス映画史上№1の大ヒットを記録した作品なのだそうだ。
特に女性からの支持が高く、観客動員数700万人にも及んだという。
私には、ラブロマンスというより、現代のおとぎ話のように思えたが…。
病弱の少女と「オオカミ少年」との淡くせつないラブストーリー。

さわりだけあらすじ

主人公のスニ(写真左。パク・ボヨン)は肺病持ちで、高校にも通えず、医者の転地療養のすすめで家族とともに田舎の村(江原道の華川郡とあったように思う)に引っ越してくる。
父は亡くなり、母が校正の仕事で家計を支えているが暮らしは貧しい。年の離れた妹のスンジャがいるが、友人もおらず周囲に心を閉ざし、孤独な毎日を送るスニ。日記には、
「私みたいな厄介者は死ねばいい!」
と書いている。
ある夜、スニが泣きながら眠れずにいると、外で不審な物音が。母も妹も眠りこけているため、スニがこわごわ外に出ると、納屋の隣の犬小屋に、オオカミのようなうなり声をあげる生き物が…。スニは恐怖を覚えて、自分の部屋に駆け戻る。


翌日、スニが母親と庭にいるところに、その生き物が姿を現す。オオカミと思ったのは、垢じみてぼろぼろの衣服を身につけた少年だった。(上写真。ソン・ジュンギ)
警察に通報するが、少年は孤児と判断され、取り合ってもらえない。少年は言葉を話せず、ただうなり声をあげるだけ、食べ物を与えても手づかみで食い散らし、とても人間とは思えない。
スニは初め、この少年を毛嫌いしていたが、母親は施設に引き取ってもらえるまでは、うちで世話をすることにしようと言い、少年に「チョルス」という名前をつける。


スニはしだいにチョルスに心を許し始め、彼に人間らしいふるまい方を教えていく。まずは、食べ方を直すところから、歯の磨き方、布団のたたみ方、靴紐の結び方、食器の洗い方、そして言葉や文字…。
あるとき、スニがギターを弾きながら歌ったことが、チョルスの内面の世界を大きく変える。初めてチョルスは感動を知り、人間らしい感情が芽生え、スニとだんだん心が通い合うようになる。

しかし、ある夜、大家の息子のジテが酔っ払って、スニの部屋に夜這いをかけ襲うのを見たチョルスは、オオカミとしての本性を現してしまう…。

チョルスは、スニたちが越してきた家の、前の住人だった研究者が、軍の意向で「優秀な」軍人を作ろうとして生まれたオオカミ人間だった。その頑健さと体力はゾウに匹敵、視覚・聴覚・嗅覚は人間を凌駕し、体温はなんと46℃。
その秘密を知ったジテは、色々と手を尽くしてチョルスを「始末」しようとする。ジテは、スニの父親の死後、その会社を乗っ取り、さらに借金を理由にスニに結婚を強要してくるとんでもない悪人なのだ。
言葉は通じないが、互いに相手に恋する感情が育ってきていたスニとチョルスはどうなってしまうのか?

感想

筋書きだけ書けば、荒唐無稽な作り話だが、映画を見ていると、現実にはありえない話のはずなのに自然に引き込まれてしまう。
これは主演の二人の演技力によるところが大きい。
オオカミ少年を演じたソン・ジュンギは撮影前、監督から「大変な挑戦になるよ。」と言われたそうだ。人間性と野生の境界で生きる少年を、台詞のない役で演じなくてはならなかった彼は、俳優としての武器を一つ奪われたような感じで、夜も眠れないくらい悩み、ストレスも感じたという。しかし、その分だけ達成感と満足感は大きかったという。
また、病弱な少女を演じたパク・ボヨンもよかったと思う。周囲に心を閉ざしていたが、初めて人を恋する気持ちを知り、少年に生きる術を教え、やがて襲ってくる過酷な現実にも負けず、愛する存在を守ろうと強くなっていく変化がよく伝わった。顔立ちは幼く、昔の日本のアイドルのような感じなのだが、チョルスとの別れの場面での泣きの演技などはハンパでなくすごく、韓国の女優さんは役に向かう姿勢が根本的に違うことを感じる。

当日の映画館は、レディース・デイだったこともあり、私以外は全て女性だった…。ソン・ジュンギの人気はすごいな…。
確かに難役をこなした彼もすごいが、私はパク・ボヨンの女優魂も素晴らしいと付け加えておきたい。