音を飛ばす

2016-11-14 16:41:19 | Weblog
先日、井上道義指揮・アンサンブル金沢の演奏会に出かけた。お目当ては、ウィーンの巨匠イェルク・デームスの弾くモーツァルト最後の協奏曲。御年88歳。世界最高齢現役ピアニストだ。デームスのピアノは久しぶりだった。年齢とともに音楽がどう熟していっているのかも楽しみだった。芸術館メインホールの座席は、ユジャワンのときとほぼ同じ2階席であった。さて、その演奏はどうだったのか?空間に溶け込むような潤いのある音。ピアノが打楽器であることを完全に忘れさせた。作品を愛し、隅々まで知り尽くした上で、慈しむかのように音を紡いでいく。変幻自在に、しかもかなり崩しながら、ものすごく自由に弾いていた。ホロビッツの名言、モーツァルトライクショパン。ショパンライクモーツァルト、を思い出した。90年近く練り上げられた世界最高レベルの極上音に心ゆくまで浸り、本当に脳に染み込ませるようにして聴いた。アンコールはK・397。これまた最高に聴きたかった曲だ。本当に幸せな演奏会となった。ユジャワンのときには、メインホールではなく、リサイタルホールでないと、ピアノの細かいニュアンスは今一つ伝わりにくいのかな?と感じたが、これは演奏者の力量の違いによるものだと、今回はっきり認識できた。ピアニシモからフォルテシモまで、デームスのやりたいことが2階席まで手に取れるように伝わってきた。世紀の名手は、ホールの隅々まで自分の音色を飛ばす確かな技術をもっていた。

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