開催まであと2週間余りとなりました3月26日(土曜日)のアラン・ドロン映画祭にて午前11時より上映される『高校教師』を今回から4回に分けて取り上げます。
(2008年3月3日の過去記事の内容を画像含めてリニューアルしました。)
この作品はアラン・ドロンさんが2007年に電撃来日してご出演されたテレビ番組「SMAPXSMAP」の中で、ご自身が選ぶベスト5作品の最後の1本にあげていらっしゃいます。
本作は1972年のドロンさんが37歳の人気絶頂の頃の作品で、60年代後半ハリウッドからフランスへ帰国以降、既に素晴らしい作品群(あえてもうここでは書く必要はないですね。)に主演しつづけており、並みの人間であれば、この達成感に満足して少しばかり休養しようとするところなのでしょうが、我等がドロンさんはさらなる飛躍を期して新しい分野の作品に挑戦し、結果として(興行面は別として)これが大成功することとなりました。
イタリアの小都市であるリミニを舞台とした本作は、この街の佇まいが準主役と言ってもいいほど重要なファクターとなっており、荒れた海と潮風にさらされている港や曇った街並みは、主人公の孤独と陰鬱な心の内面を映し出す心象風景となって観客の目に焼きついてきます。
ドロンさん扮する主人公ダニエレ・ドミニチは、地元の高名な貴族の家系の末裔であるにもかかわらず、過去に起こした“ある事件”が原因で生家から離れ、教師をしながら夜毎ギャンブルで金を使い果たし、家に帰ってくれば愛人と堂々と電話で連絡を取り合っている"やさぐれた"妻がいる、というかなり複雑な環境に置かれた人間ですが、この人物をドロンさんが演じると実に奥深い哀愁に満ちた人物になるから不思議です。正にこれこそがスターの輝きというものなのでしょう。
臨時教師として赴任した高校で運命的に巡り合った女学生(とは言っても日本では大学生と同じ年代のようです。)との恋愛に苦悩するドロンさんの姿というのは、それまでのフィルムノワールや犯罪映画で見慣れてきたニヒルでクールなドロンさんとはまた違った魅力があり、その愛する女性と金持ちの愛人がクラブで抱き合って踊っているところを黙って見ているダニエレが瞳の中にうっすらと涙をにじませる場面は、ドロンさんがそれまで見せたことのなかった演技です。
またこの映画では2006年の『007カジノ・ロワイヤル』でも印象的な演技を披露したジャンカルロ・ジャンニーニが珍しくドロンさんと共演しています。彼の演じる役柄はドロンさん演じる主人公ダニエレに対してややホモセクシャルな感情を持って接しているように感じさせますが、ダニエレは彼のそういった気持ちを気付きつつも、それをさらりとかわして、あくまで友情として受け入れています。このあたり、それまでフランスのフィルムノワールで男と男の友情を重んじた世界に身を置いてきたアラン・ドロンの面目躍如といったところで、どろどろの愛憎が渦巻く本作の中にあって、唯一すがすがしい気分にさせてくれる部分です。
学校の壁にかけられている絵画に一瞬まなざしを投げかけたり、愛する女性の金持ちの愛人宅の悪趣味な装飾物に無言で非難の視線を投げかけたり、随所に彼が名家の出身であるところを暗に匂わせる演出とそれに答えるドロンさんの演技にも注目してください。前述のジャン・カルロ・ジャンニーニが『イノセント』で、恋人役のソニア・ペトロヴァが『ルードヴィッヒ』でこの後ヴィスコンティ映画に出演することや、同じく友人役のレナート・サルバトーリと『若者のすべて』で共演していることなども考えあわせますと、このドロンさんの元貴族を思わせる演技はどこかルキノ・ヴィスコンティの影というものを感じ取ることができます。
余談になりますが、私が大学3回生のとき、受講中の学生全員に自己紹介文を書かせて、また突然シェークスピアの詩を朗読しながら教室内を歩き出したりする強烈な個性の英文学の教授の講義を受けていました。その当時は何とも不可思議な気分でこの講義を受けていたものでしたが、数年後この映画を初めて見たとき、「ははーん、あの教授はこの映画のドロンさんのまねをしていたのだな。」ということに気づき、その時始めてこの個性的な教授に親近感を覚えたものでした。
メイナード・ファーガソンのトランペットの演奏が耳に焼き付いて離れないこの映画のサントラCDにつきましてはこちらでご紹介していますのでご覧ください。
『Le Professeur』
(2008年3月3日の過去記事の内容を画像含めてリニューアルしました。)
この作品はアラン・ドロンさんが2007年に電撃来日してご出演されたテレビ番組「SMAPXSMAP」の中で、ご自身が選ぶベスト5作品の最後の1本にあげていらっしゃいます。
本作は1972年のドロンさんが37歳の人気絶頂の頃の作品で、60年代後半ハリウッドからフランスへ帰国以降、既に素晴らしい作品群(あえてもうここでは書く必要はないですね。)に主演しつづけており、並みの人間であれば、この達成感に満足して少しばかり休養しようとするところなのでしょうが、我等がドロンさんはさらなる飛躍を期して新しい分野の作品に挑戦し、結果として(興行面は別として)これが大成功することとなりました。
イタリアの小都市であるリミニを舞台とした本作は、この街の佇まいが準主役と言ってもいいほど重要なファクターとなっており、荒れた海と潮風にさらされている港や曇った街並みは、主人公の孤独と陰鬱な心の内面を映し出す心象風景となって観客の目に焼きついてきます。
ドロンさん扮する主人公ダニエレ・ドミニチは、地元の高名な貴族の家系の末裔であるにもかかわらず、過去に起こした“ある事件”が原因で生家から離れ、教師をしながら夜毎ギャンブルで金を使い果たし、家に帰ってくれば愛人と堂々と電話で連絡を取り合っている"やさぐれた"妻がいる、というかなり複雑な環境に置かれた人間ですが、この人物をドロンさんが演じると実に奥深い哀愁に満ちた人物になるから不思議です。正にこれこそがスターの輝きというものなのでしょう。
臨時教師として赴任した高校で運命的に巡り合った女学生(とは言っても日本では大学生と同じ年代のようです。)との恋愛に苦悩するドロンさんの姿というのは、それまでのフィルムノワールや犯罪映画で見慣れてきたニヒルでクールなドロンさんとはまた違った魅力があり、その愛する女性と金持ちの愛人がクラブで抱き合って踊っているところを黙って見ているダニエレが瞳の中にうっすらと涙をにじませる場面は、ドロンさんがそれまで見せたことのなかった演技です。
またこの映画では2006年の『007カジノ・ロワイヤル』でも印象的な演技を披露したジャンカルロ・ジャンニーニが珍しくドロンさんと共演しています。彼の演じる役柄はドロンさん演じる主人公ダニエレに対してややホモセクシャルな感情を持って接しているように感じさせますが、ダニエレは彼のそういった気持ちを気付きつつも、それをさらりとかわして、あくまで友情として受け入れています。このあたり、それまでフランスのフィルムノワールで男と男の友情を重んじた世界に身を置いてきたアラン・ドロンの面目躍如といったところで、どろどろの愛憎が渦巻く本作の中にあって、唯一すがすがしい気分にさせてくれる部分です。
学校の壁にかけられている絵画に一瞬まなざしを投げかけたり、愛する女性の金持ちの愛人宅の悪趣味な装飾物に無言で非難の視線を投げかけたり、随所に彼が名家の出身であるところを暗に匂わせる演出とそれに答えるドロンさんの演技にも注目してください。前述のジャン・カルロ・ジャンニーニが『イノセント』で、恋人役のソニア・ペトロヴァが『ルードヴィッヒ』でこの後ヴィスコンティ映画に出演することや、同じく友人役のレナート・サルバトーリと『若者のすべて』で共演していることなども考えあわせますと、このドロンさんの元貴族を思わせる演技はどこかルキノ・ヴィスコンティの影というものを感じ取ることができます。
余談になりますが、私が大学3回生のとき、受講中の学生全員に自己紹介文を書かせて、また突然シェークスピアの詩を朗読しながら教室内を歩き出したりする強烈な個性の英文学の教授の講義を受けていました。その当時は何とも不可思議な気分でこの講義を受けていたものでしたが、数年後この映画を初めて見たとき、「ははーん、あの教授はこの映画のドロンさんのまねをしていたのだな。」ということに気づき、その時始めてこの個性的な教授に親近感を覚えたものでした。
メイナード・ファーガソンのトランペットの演奏が耳に焼き付いて離れないこの映画のサントラCDにつきましてはこちらでご紹介していますのでご覧ください。
『Le Professeur』
Chaser, just curious, how long does the Japanese version of the movie run?(DVD, not VHS). 125 or 132 minutes? Thanks!
今作のDVDを所有です。たぶん前編イタリア語だったと??今作はドロン様自身の声なのでしょうか?(それとも吹き替えですか?)
加え、私大好きな、ヴィッティとの共演の『太陽・ひとりぼっち』で彼女含め前編フランス語のをよく観ます。(ミケランジェロ監督が去年鬼籍に入るもこの日本で回顧熱が昇らないのが何とも残念なこの頃です。)『太陽・・・・』は、その監督作品なのでイアタリア語バンのが存在するのでしょうか?そしてフランス語バンのヴィッティは吹き替えなのでしょうか??
再度。。
チェイサーさんの今レヴューを興味深く読ませて頂きました。
鮮烈なペットサウンド、過去の御トラバにてSAXの興味に又関心でした♪私は日々の生活を強烈ブレイクすべく、今作のけたたましさの凄いペットが好きです。なのでというか・・・関連し、私、(テナー)SAXですと【ラスト タンゴ イン パリ】のガトー・バルビエリが大好き。
自分の事、多くなりましたがヴィスコンティ監督との関連他、改めて勉強の【高校教師】でした!《感謝です。》
にて
前編(2箇所)⇒全編
イアタリア語⇒イタリア語
でした。。
Thank you for your comment about this film.
I'm sorry that I could not reply for a long time.
The Japanese DVD version is 132 minutes and this version is just the same of the Italian version.
http://www.amazon.co.jp/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E6%95%99%E5%B8%AB-%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%B3/dp/B000657P98/ref=sr_1_9?ie=UTF8&s=dvd&qid=1209430745&sr=1-9
日本版DVDのドロンさんのイタリア語は吹替えですね。
私はこの作品をレーザー・ディスクが発売されたときに初めて観れたのですが
ドロンさんの声が別人だったのでずっと違和感を持っていました。
最近フランス語のDVDを購入してようやくドロンさんの生の声で観ることができました。
口の動きだけ観ていますと恐らくドロンさんだけがフランス語で台詞を話しているように感じます。
『太陽はひとりぼっち』につきましては情報がありませんのでわからないです。
すみません。
返信が遅くすみません。
イタリア語の吹き替え!!
仏語の本人。
大変、興味深かったです。
大変に思い出深い作品です。
フランス語版はカット部分多すぎて、本人の声が聞けて嬉しかったですが内容に少しがっかりしました。
「太陽はひとりぼっち」上映会でイタリア語版観ました、ドロン様は吹き替えでした。
イタリア語版の作品は全て吹き替えです、確か昔御本人がおっしゃておられました。
次回以降の記事に書きましたが、フランス語版の編集内容に監督もご立腹されたようですね。
ドロンさんのイタリア語の吹き替えは私も同じように違和感を覚えました。