陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

米国とイランの経済戦争は武力衝突にまで発展しないだろう

2012-01-31 02:57:03 | 中東問題

 米国とイランは国交断絶状態だが、最近の両国は経済戦争状態にある。米国は、国連安保理決議(2006、2007、2008)を誘導して、イランへ経済制裁を行って来た。しかし、イランではそれに屈することなく、経済活動が順調に推移している。

 今年の元日、オバマ大統領はイラン金融制裁法案に署名、イラン中央銀行と取引のある各国金融機関に制裁を加えるとした。つまり、米国の手立ては国内法を利用、イランが各国へ石油輸出する際、その決済が難しくなるよう輸入国へ圧力を掛けると言うもの。事実上のイラン石油輸入禁止を各国に迫る内容だ。

 イランの原油生産量は425万バレル/日(世界の5%)であり、世界第4位。一方、米国の生産量は、720万バレル/日で世界第3位。米国は、1915万バレル/日を消費しているので、イランを除く産油国から約1200万バレル/日を輸入している。ちなみに、日本の石油消費量は445万バレル/日。

 米国のイラン原油輸入規制に対する各国の反応及びイランからの輸入量は、

ロシア    反対(世界最大の産油国)  イランからの輸入量無し
シナ・中共  反対    54万3000バレル/日
インド    反対(最初は賛成)  34万1000バレル/日
日本     米国と交渉中     25万1000バレル/日 
EU(英国を含む)   賛成(但し、実行は7月1日から)  
  イタリア     24万9000バレル/日
  スペイン     14万9000バレル/日
  ギリシャ     11万1000バレル/日
  フランス     7万8000バレル/日
韓国    段階的減少に同意   23万9000バレル/日  
トルコ   反対         21万7000バレル/日
南アフリカ 態度不明      9万8000バレル/日
豪州    賛成(輸入量は僅少)

 以上は「経済データ集」を参考にさせていただいた。
http://blog.livedoor.jp/aresugehima-keizaidata/archives/2162208.html


 この内、イランがEU諸国へ輸出する原油量はかなり多く、本当に実行されたらイランは怒りを抑え切れず、報復で「ホルムズ海峡」封鎖の実力行使に出るかも知れない。ホルムズ海峡を通過する原油量は、イラン原油を含めて、1550万バレル/日、世界の石油産出量の17%に相当する。

 白人国家(ロシアを除く)は輸入禁止賛成に動き、非白人国家は反対の姿勢に見える。

 とは言え、イランは、1月29日から31日まで、IAEAの査察を受けることに同意している。今年1月から稼動したとされる地下核施設まで開示するかどうかは不明。それを査察対象外とすれば、欧米との軋轢は益々高まるだろう。

 イランの核開発は、原子力発電所設置が目的であるとイラン政府は言い続けている。イランと核開発協議(現在は、交渉中断)に当たる安保理5常任理事国は、原子力発電所はもとより、核兵器を保有している。5常任理事国が自分たちは良くて、イランは駄目と言う資格があるのだろうか。イランが「核の平和利用を進めたい」と言うのであれば、それを認めても良いのではないか。

 5常任理事国に加えて、ドイツがイランとの協議に参加している理由がよく分からない。ドイツは、イランから石油を輸入していないのだが。

 
EUがイラン産原油禁輸決定 情勢さらに緊迫も
2012.1.24 00:11

 欧州連合(EU)が、イラン産原油の輸入禁止を決定した。国庫収入の大半を原油輸出に頼るイランには大きな打撃で、イランの強硬派は原油供給の大動脈であるホルムズ海峡封鎖の可能性に改めて言及した。欧米、イランとも武力衝突は避けたいのが本音だが、国内事情からイランが譲歩する可能性は低く、情勢がさらに緊迫する恐れも出ている。(カイロ 大内清、ベルリン 宮下日出男、モスクワ 佐藤貴生)

 ■「外交的敗北」を危惧

 EUの決定を受け、イランは表面的には強硬姿勢を維持しつつ、米欧側の譲歩を引き出すための糸口を探る綱渡り外交を続ける可能性が高い。

 イランは、禁輸措置に対しては、ホルムズ海峡を封鎖することで対抗すると警告を繰り返してきている。

 しかし、海峡封鎖で米国などとの軍事衝突を招く事態となれば、軍事力で劣勢のイラン側が痛手を被るのは火を見るよりも明らかだ。実際、21日には、イラン指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊幹部が、同海峡周辺での米軍の存在は「普通のことだ」と発言するなど、これまでの強気一辺倒の態度を軌道修正した。

 専門家の間では、度重なる制裁で経済がすでに疲弊しているイランが、さらなる経済の悪化につながる海峡封鎖に踏み切るのは難しいとの見方が一般的だ。

 衝突を避けたい米国も最近、3度にわたり、ソマリア海賊に拿(だ)捕(ほ)されたイラン漁船の乗組員を救助するなど、緊張緩和ムードを演出している。

 ただ、対外的に強硬姿勢を示すことで求心力を保ってきたイラン指導部としては、外交的な敗北が、国民の不満を政府批判に向かわせるきっかけになりかねない、との危惧がある。

 イランでは3月2日に議会選を控えていることから、指導部は核開発問題での譲歩にもつながる融和姿勢を打ち出しづらい状況にある。

 ■狙いは協議再開
 
 「われわれの犠牲は非常に重要だ」。イラン産原油への依存度が高いスペインのガルシアマルガヨ外相は23日、今回の決定がEU側にも痛みをもたらすものであることを強調した。

 それでもEUが禁輸に踏み切ったのはイランに「核兵器開発は高くつく」ことを認識させ、昨年1月以降中断している国連安全保障理事会の5常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議の場にイランを引き戻す狙いがあるからだ。

 6カ国側代表のアシュトンEU外交安全保障上級代表は同日、「制裁の圧力が結果として交渉につながることを願う」と述べた。

 こうした中、英国防省は23日、ホルムズ海峡を通過した米空母エーブラハム・リンカーンに英仏両軍の艦船が合流していることを明らかにした。ヘイグ英外相はイランに対する軍事的措置も辞さない考えを示しており、「圧力と対話」で状況を打開できなければ、欧州諸国はさらなる対処を迫られる可能性もある。

 一方、イランの伝統的友好国であるロシアのラブロフ外相は23日、「一方的な制裁はイラン問題の解決には役立たない」と批判的な見方を示した。同外相は18日の会見では、イランへの軍事攻撃は「(イスラム教)スンニ派とシーア派の対立をあおる。その後の連鎖反応がどこで止まるか分からない」と欧米を牽制(けんせい)していた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120124/amr12012400120000-n1.htm


 ロイター通信による予測シナリオは、

「ホルムズ海峡封鎖」以外のシナリオ、イラン革命防衛隊が暴走も
2012年 01月 27日 10:48 JST

[ロンドン 25日 ロイター] イランの核開発疑惑をめぐり、ペルシャ湾情勢はにわかに緊張が高まっている。米国が昨年末にイラン制裁法案に署名したほか、欧州連合(EU)も今月23日、原油禁輸を含む追加制裁措置に合意し、イラン包囲網を強化。一方、イランは反発を強めており、ホルムズ海峡封鎖も辞さない構えを見せている。
しかし、ロイターが各国政府内外で取材した情報や軍事、安全保障の専門家らの間では、イランが海峡封鎖に踏み切るとの見方は極めて少数派だ。

湾岸諸国研究センターのムスタファ・アラニ氏もその1人。「ホルムズ海峡の封鎖は神話にすぎない。イランは(1980年代の)イラン・イラク戦争の8年間で封鎖を試みたが、1時間でさえ成功しなかった」と指摘。「イランには当時、米国船を攻撃して大反撃を受けたという苦い教訓がある。海軍の3分の2が1日で壊滅した。われわれはそれを目の当たりにしたし、イランの限界も明らかとなった」と語る。

しかし、専門家らは海峡封鎖の可能性は低いとする一方で、欧米諸国に対抗するため、イランが他の選択肢を検討している可能性があると警告する。

そうした「他の作戦」の中には、ペルシャ湾を往来するタンカーを攻撃型潜水艦で襲撃したり、他国が領有を主張する無人島を占拠したり、民間船舶や軍用船を拿捕(だほ)して人質を取ったりすることなどが含まれるという。また、アラブ諸国のイスラム教スンニ派とシーア派の対立を煽ったり、レバノンのシーア派組織ヒズボラなど「代理」の武装勢力を利用し、アフガニスタンなどで米軍攻撃を指揮したりすることも考えられる。

しかも、こういった海峡封鎖以外の選択肢には、戦争へと発展しかねない危険も潜んでいる。

米海軍大学のNikolas Gvosdev教授は「これらのシナリオは、イランが取り得る代替策として大いに考えられる。緊張も明らかに高まるだろう」と指摘。「イランはペルシャ湾の緊張を高めることで、他国から米国に自制圧力をかけるよう仕向け、自分たちが軍事演習するための時間稼ぎをもくろんでいるのかもしれない」との見方を示した。実際、イランの革命防衛隊は2月にホルムズ海峡で軍事演習を計画している。

<「非対称な戦争」の脅威>

また、さらなる懸念は、強硬路線で知られるイラン革命防衛隊の海上部隊が、欧米とは戦力で劣るにもかかわらず、無謀な「非対称の戦争」を仕掛けてくる可能性があることだ。ロンドンのコンサルタント会社エクスクルーシブ・アナリシスのジョン・コクラン氏は、「われわれは、革命防衛隊の下士官が無許可の攻撃に出たりする可能性が高まっていると見ている。その場合、致命的な結果を招くことになるだろう」と指摘した。

ホルムズ海峡を行き交う商船の多くは現在、ソマリアの海賊から身を守るため、武装した警備隊を同行させている。漁船に不必要に発砲するなどしてすでに非難されている警備隊が、イラン部隊に発砲することがあれば、より大きな対立へとつながる恐れがあるとの声も上がっている。

しかし、西側のある海軍幹部は、イランとの衝突がエスカレートすることはないと自信をのぞかせる。「(衝突が激化すれば)イランにとっては失うものが多過ぎる。われわれの軍は、ちょっとした火種が大きな衝突へと燃え上がるようなことはさせない。何か起きれば、すぐに戦闘準備を整える」と語り、イランの次の出方を静観する構えを見せている。
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE81K0UJ20120127?sp=true


 米国がイランに対し、強圧的な態度に出ている背景には、

(1)イスラエルからの要請
    オバマ再選に対し、ユダヤ金融資本の支援が絡む
(2)イランがドル決済を減らし、各国通貨で石油取引を増やしている状況
    ドルが基軸通貨の地位を脅かされる
(3)イラン革命以来、両国間の感情的な縺(もつ)れの継続

があるのだろうが、日本はイランと友好関係にあるので、甚だ迷惑な話である。既にアサデガン石油開発プロジェクトは、米国の横槍で潰された。自主外交権を持たないから、このようなことになる。

 当面は、IAEA調査団の結果公表が待たれるが、EUが留保を付けた7月まではチキン・レースが続くかも知れぬ。

 ノーベル平和賞を貰ったオバマ大統領が、積極的にイラン武力攻撃へ出るとは考え難い。それに、イラクとアフガンで巨額の戦費を使って財政が苦しくなり、多数の若者の命を犠牲にしたから、米国民は戦争を望んでいないだろう。
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