陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

パキスタンで非常事態宣言 (追記有り)

2007-11-04 00:58:04 | 中東問題
 政情不安が噂されていたパキスタンで、11月3日にムシャラフ大統領は非常事態宣言を発した。BBCやABCは緊急報道したが、産経ニュースの伝えるところでは

パキスタンに戒厳令 憲法停止、最高裁長官排除
2007.11.3 22:44

 パキスタン国営テレビによると、ムシャラフ大統領は3日、非常事態を宣言、現行憲法を停止し暫定憲法命令を発令した。命令はムシャラフ氏が兼務する陸軍参謀長名で出され、事実上の戒厳令。イスラム過激派による自爆テロなど、国内の治安悪化を理由にするとみられるが、大統領選の出馬資格をめぐる訴訟で同氏に不利な判決を出すと予想される最高裁の封じ込めが目的とみられる。

 民放テレビやAP通信によると、首都の電話回線が不通となり、軍がテレビ局や最高裁の建物に展開、最高裁の執務室にいたチョードリー最高裁長官を排除した。大統領は3日夜、戒厳令について国民向けに演説するという。

 約8年間にわたり権力の座にあるムシャラフ体制への反感は国民の間で強まっており、反発を呼ぶのは必至。抗議デモが頻発する事態も予想され、核保有国であるパキスタンの混乱で、テロとの戦いを同国と展開する米国をはじめ国際社会の懸念も強まりそうだ。

 最高裁では10月6日に行われた大統領選での立候補資格をめぐる審理が継続中。暫定憲法命令により、裁判所の機能も停止もしくは縮小される可能性がある。非常事態はムシャラフ氏に批判的なブット元首相が国外に出たタイミングを狙ったとの見方もある。

 ムシャラフ氏は10月6日に行われた大統領選で最多票を獲得したが、事実上の軍トップである陸軍参謀長を兼務したまま出馬したため、公職兼任者の立候補を禁じた憲法に違反するとして対立候補が提訴していた。

 ムシャラフ氏は1999年のクーデターで実権を握り、暫定憲法命令に基づき大統領に就任。2002年に総選挙を実施して民政復帰したが、憲法改正で議会解散権を得るなどして大統領権限の強化を図ってきた。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/asia/071103/asi0711032245000-n1.htm

 同時に、軍が最高裁ビルに入り、チョードリー最高裁長官を排除したから、ムシャラフ大統領の資格問題とブット元首相の恩赦に対する違憲判決を出すことは出来なくなった。

 10月18日に8年ぶりに亡命を恩赦されて帰国したべナジール・ブット元首相(54歳、パキスタン人民党:PPP)、歓迎パレードで130人以上の死者を伴う爆弾テロに見舞われた。その犯人は、彼女の親米的姿勢を非難するイスラム原理主義者グループと推定される。ブット元首相はこの戒厳令の布かれる直前に、家族の滞在するドバイへ向けて出発した。彼女は、ムシャラフ大統領の参謀総長兼任を厳しく批判していたし、首相3選を禁じる現憲法の改正をムシャラフに求めていた背景がある。

 1999年10月の無血クーデターによって、当時のシャリフ首相から政権を奪取したパルヴェズ・ムシャラフ陸軍参謀総長(64歳)は、2001年5月に大統領に就任、911事件後アフガンのアル・カイーダ掃討について小ブッシュ政権に協力し、国際社会からも一応認知された。今年10月6日の選挙当選後(3期目)は、参謀総長を辞任し国民に人気のあるブット元首相を再任させ、権限を委譲して政権運営をしようと画策していた。

 ムシャラフ大統領は、米国との軍事及び経済的連携を深める一方、これまで中共とも友好的な外交を行い、相当な経済援助を得ている。パキスタンに入国している支那民間人も多いが、彼らはイスラム教への理解が不足しているためか、パキスタン人と繰り返し摩擦を起こしている。更に、イスラム原理主義のタリバン一派がアフガン国境を越えてパキスタンへ入り込み、親米的なムシャラフ政権を揺さぶる現状だ。

 パキスタンは、人口1億6000万人の中堅国家だが、核保有国である故に、軍の動向が国際社会の注目を集める。仮にムシャラフが失脚し、軍の一部がテロリスト集団と結託すれば、核兵器が彼らに渡る可能性がある。目下のイラン核問題に加えて、国際的テロ対策の要石であるパキスタンの政情不安は、米国を大いに悩ますだろう。どうやら、パキスタンの民主化は少々遠のいたようだ。

(追記:11月4日)

 ブット元首相はドバイ(アラブ首長国連邦)から急遽帰国、直ちに非常事態宣言に反対の意向を示した。彼女は、首相時代の汚職で訴追されて亡命していたわけで、ムシャラフ大統領の恩赦により10月18日に帰国していたのだが、最高裁から恩赦は違憲との判断が下される可能性大であった。そうなれば、裁判所により収監されるから、非常事態宣言は彼女にとって都合の良い面もある。

 一方、ムシャラフ大統領の国民への演説が発表された。東京新聞=共同によると、

統合保つため非常事態宣言 パキスタン大統領が演説
2007年11月4日 06時18分

 【イスラマバード4日共同】パキスタン全土に非常事態を宣言、現行憲法を停止し、事実上の戒厳令を敷いたムシャラフ大統領は3日深夜(日本時間4日未明)からテレビ演説し「パキスタンはテロや過激派の脅威にさらされ、行動を起こさなければ統合が保たれなくなる」と述べ、国民に理解を求めた。

 また「テロとの戦い」に協力するムシャラフ政権の国際的な後ろ盾である米国や、欧州連合(EU)に対し「(パキスタンは)欧米の民主主義とはレベルが違う。時間を与えてほしい。民主化は完遂する」と理解を求めた。政府、国会や州議会の機能は停止せず、維持する。

 野党第2党パキスタン人民党(PPP)を率いるブット元首相は3日夜、滞在先のアラブ首長国連邦から南部カラチに空路で到着。ムシャラフ氏と今後の連携で大筋合意していたが、非常事態宣言には反対し、英スカイニューズ・テレビによると「憲法停止を撤回させるため、ほかの政党指導者と協議するつもりだ」と述べた。

 ほかの野党指導者は同日、拘束されたり、自宅軟禁下に置かれるなどした。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007110401000015.html


 それで、米国の反応は、

「非常に遺憾」と米長官 民主化の逆行を懸念
2007年11月4日 01時37分

 【ワシントン3日共同】パキスタンのムシャラフ大統領が3日、事実上の戒厳令を敷いたことについて、ライス米国務長官は米CNNテレビに対し「非常に遺憾だ」と述べ、自由で公正な選挙が実施されることを望むと語った。ロイター通信が伝えた。

 ブッシュ米政権は今回の動きを、パキスタンの民主化逆行につながりかねないと懸念。だが「テロとの戦い」でのムシャラフ政権との連携の必要性は今後さらに高まりそうで、難しい対応を迫られる。

 米国にとってパキスタンの戦略的重要性は極めて高い。アフガニスタンの安定化に加え、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の追跡、イスラム過激派の封じ込めの上でも、パキスタンの一層の協力が必要との見方が政権内で広がっている。

 ロイター通信によると、米国務省は3日、パキスタンのムシャラフ大統領に対し、予定通り来年1月までに総選挙を実施するよう求めた。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007110301000479.html


 米国としては、ブット元首相の国民的人気を背景に、親米的なムシャラフーブット体制が固まり、来年1月に総選挙が行われて民主化することを期待しているはずだ。少なくとも、現在サウジアラビアに滞在するイスラム原理主義的なナワズ・シャリフ前首相が帰国することを望んではいない。

 インフレと暴力沙汰に悩むパキスタン国民は、95%がイスラム教を信じ、些か強権的なムシャラフ大統領に嫌悪感を抱いている。そんなことから世俗的なブット元首相は多大の人気を集めているのだが、シャリフ前首相にも関心を寄せる国民も多く、意見は揺れ動いている。イスラム教国では、トルコのように世俗的な安定政権が出来るのは中々難しいと感じさせられる。
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2 コメント

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速い! (ysbee)
2007-11-04 01:47:36
茶絽主さん、おはようございます。
ニュースが早いですねー、TBで入っていてびっくりしました。

こちらはまだ土曜の朝6時半で、いつもなら週末は7時過ぎでないと起きないのですが、今朝はなぜか6時ぴったりに目が覚めまして、最初に開けるニュースサイト(MSNBC.com)で、パキスタンの戒厳令が臨時ニュースで入ってました。

その記事を読んで、コピーして自分のブログを開けたら、こちらの記事がすでに入っていたいう早さです。日本のニュースも早かったのですね。

2・3日前から、ムシャラフのこの強行を予測する情報も出ていましたが、昨日のCIAによると見られるミサイル攻撃、ブットの国外足止め状態で、いよいよ何かあるなと思っていた矢先でした。

米国はブット支援の要素が強いので、ムシャラフはクーデター政権が国民に対してクーデターを起こしたような、自暴自棄的末期症状をとったように見えます。米国が介入すると、さらに紛争拡大するでしょうし、今後の展開に要注目ですね。
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気になる情勢ですね (茶絽主)
2007-11-04 09:24:18
ysbee様

お早うございます。日本は只今朝の9時、そちらだと「今晩は」ですかね。
少し追記しましたが、何か気になる状況変化と思います。海自がインド洋を引き上げた途端に起きたこの事態、パキスタンの不安定な政情を反映しています。

イランに圧力を掛けつつある米国としては、パキスタンの流動化に困惑しているでしょう。ムシャラフ政権内の過激派支持グループがこれを機会にブット氏に対しどう出るのか、場合によっては米軍の介入もありそうです。
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