陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

メルケル独首相来日とドイツの歴史問題

2015-03-20 16:04:49 | 欧州関係


 アンゲラ・メルケル独首相(60)が3月9日に来日、安倍首相との会談を行い、1泊してさっさとドイツに戻った。彼女は、洞爺湖サミット(2008.7)以来7年ぶりの来日だと言うので、少々話題になっていた。今年6月に、ドイツで行われるG7首脳サミットに関する打ち合わせが中心であった。

 現在、欧州連合(EU)はユーロ金融問題で苦吟し、一方、ウクライナ問題ではEUとして対露交渉に深く関与している。EUの代表的リーダーであるメルケル首相は、ドイツ国内問題を考慮しつつも、この2つの外交課題に対処することで忙殺されている。

 メルケル首相が、安倍首相にEU金融問題で何らかの要請をしたとか、ウクライナへの財政援助に我が国の更なる理解を求めたなどの具体的情報は全く伝わってこない。それらは、当然話題になったと想像するが、共同記者会見ではそれらへの言及は殆どなかった。邪推すると、日本が欧州に対し経済交流は別として、政治的に関与するのをドイツは忌避しているのではないか。

 日独首相共同記者会見の内容は
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0309kaiken.html

 共同記者会見の様子を見る限り、安倍首相としては、まずは無難にこの著名な女性政治指導者と親密な日独交流を深めたと思われる。

 そんな慌ただしいメルケル首相の日程の中で、彼女は岡田<フランケン>民主党代表と懇談をしたらしい(3/10)。話し合いの結果を、岡田代表が「メルケル首相が日韓外交問題に言及し、早い打開を望むとコメントした」ことを記者会見で得々と披露した。これは、メルケル首相による間接的な安倍政権への批判というので、マスコミは大騒ぎした。南鮮(韓国)の主要メディアは、それ見たことか、流石はドイツだと鬼の首を取ったような報道ぶりだ。

 ドイツ政府は事の成り行きに驚いて、「メルケル首相は、戦時中や戦後の歴史問題について述べていない」と公式表明を行ったが、頑迷固陋(がんめいころう)で鳴らすオカラ代表は、「いや、話し合った」と頑張り続けている。流石は南鮮の傀儡政党、民主党の代表である。外国首脳の一言隻句を以って、我が国の外交に「いちゃもん」を付けるのは、将に因循姑息(いんじゅんこそく)と言うものであろう。

 前記首相共同記者会見で、メルケル首相は記者の質問に対し、次のように答えている。

(メルケル首相)
 私は、日本に対して、アドバイスを申し上げるために参ったわけではありません。私には、戦後、ドイツが何をしたかということについて、お話することしかできません。戦後、ドイツではどのように過去の総括を行うのか、どのように恐ろしい所業に対応するのかについて、非常につっこんだ議論が行われてきました。ナチスとホロコーストは、我々が担わなければならない重い罪です。その意味で、この過去の総括というのは、やはり和解のための前提の一部分でした。一方で、和解には2つの側面があります。ドイツの場合は、例えばフランスが、第二次世界大戦後、ドイツに歩み寄る用意がありました。ですからEUがあるわけです。今日、EUがあるのは、こうした和解の仕事があったからですが、その背景として、ヨーロッパの人々は、数百年にわたって戦争を経験した後、一つになることを求めたという事実があります。本当に幸運なことに、我々は、こうした統合を行うことができ、安定した平和的秩序を得ることができました。ウクライナの領土の一体性に対して厳しく対応しなければならないのは、そうした背景もあるのです。一方で、進む道については、各国がそれぞれ自ら見つけなければならないと思っています。先程述べたとおり、自分にできることは、ドイツの場合についてお話しすることだけであり、今、短く、それをいたしました。



 ドイツは、第二次世界大戦に関する自国の歴史問題を、全てヒットラーとナチスのやったこととして割り切り、現ドイツ国民は関係が無いふりを装う。ただ、ユダヤ人問題(ホロコースト)は、国家元首が哀悼の意を表明し、ユダヤ人へは個別補償を行って来た。

 そんな訳で、ドイツとしてはフランスやポーランド、ベルギー、オランダなど近隣諸国へ「我が国が侵略して済みません」と謝罪もしなければ、賠償金を支払ってもいない。

 さて、ドイツに住む川口マーン恵美氏が、メルケル訪日について独マスコミがどんな報道をしたかを JBPress で述べている。ドイツの有力新聞は、フランクフルター・アルゲマイネ紙や南ドイツ新聞など、安倍政権に対する批判的報道で以前からよく知られている。大変長い論考であるが、敢えて全文を引用させていただく。

勉強も反省も足りない日独のメディア
メルケル首相来日をダシにした我田引水の報道合戦

2015.03.18(水) 川口マーン 惠美

 3月9日、ドイツのメルケル首相が日本を訪れた。メルケル氏は2005年の首相就任以来、ほとんど毎年のように中国まで来ていながら、日本はなんと7年ぶりだ。ZDF(第2ドイツテレビ)のオンラインニュースはそれを、「体面にこだわる日本人」は快く思っていないと書いている。

自国の事情を棚に上げ安倍首相を批判する独メディア

 「世界第3位の経済大国は、メルケルの中国重視のせいで、自分たちが相手にされていないと感じている」、「保守系の日経新聞が、メルケルの訪日がドイツのアジア政策に均衡をもたらすために役立つだろうと書いたのは、少しすねた警告のように響く」のだそうだ。

 ドイツは中国重視のアジア政策を修正するつもりなどないとZDFは言いたいのだろうか。なお、日経が保守系の新聞だとは、私はあまり感じない。

 続けて読むと、日本とドイツの協力に関しては難しい問題がたくさんあるとされる。たとえば、ドイツは福島第一の事故のあと脱原発に舵を切ったが、「徹頭徹尾の原発ファンであるアベ」は、止まっている脱原発を再稼働させようとしている。

 「フクシマによってメルケルが脱原発を決定したことは、アベにとってはおそらく感傷的な弱さの印でしかないのだろう」というのが、この記者の分析。安倍首相が原発を再稼働させるのは原発が好きだからというのは、あまりにもバカげた話だ。

 この記者は、日本の緊迫したエネルギー事情をまるで知らないか、知らない振りをしているか、安倍首相をバカにしたいかのどれかだろう。

 ドイツではまだ半分以上の原発が動いている。しかも、再エネが増えすぎて、様々な支障が出ている。だいたい、脱原発がそんなに喜ばしいものなら、日本ではなく、まずお隣のフランスに勧めてはどうか。フランスは電力の80%近くを原子力に頼っている国だ。

 なお、エネルギー政策だけでなく、経済政策でも、ドイツと日本は方針が合わないという。

 「アベノミクスは、何十億も掛かる景気向上プログラムで、多額の資金を市場に放出して、麻痺してしまった経済政策を活性化する試みであった。そこでは構造改革も同時に為されなければならないが、アベはそれをまだ始めない」。つまり、アベノミクスは、ドイツの緊縮政策とは正反対だというのがこの記者の主張。

 ZDFだけでなく、ドイツのメディアは安倍内閣が嫌いなようで、安倍首相攻撃は激しい。一昨年、アベノミクスの一環として日銀が金融緩和に着手したときも、ひどい非難の記事が出回った。

 しかし、EUでは今月9日から、前代未聞のQE(量的金融緩和政策)に着手している。これから1年半にわたって、1兆1400億ユーロの国債を買うのだそうだ。日本がすれば、“だらしのない金融政策”、“紙幣の印刷機フル回転”となるが、自分たちがデフレ阻止のために莫大な金額を市場に放出するのは、まるで問題がないようだ。

外国メディアの興味は過去の真実より自国の利益

 今回、メルケル首相は安倍首相に会う前に、朝日新聞主催で講演会をした。ZDFは書く。「メルケル首相はまずアベの批判者を訪問、そのあとでアベ」。
 アベの批判者というのは、もちろん朝日新聞のことだ。「世界で一番大きな新聞の1つで、政治的スタンスは中道左派」というのが、朝日新聞の説明。このおぜん立てをしたのはいったい誰だろう?

 この講演会の内容は、ドイツ大使館のホームページに全文が載っている。メルケル首相は朝日新聞の伝統を褒め称え、その社史は、ドイツと日本の国交が始まったころにまで遡れると言っている。

 また、142年前のこの日は、岩倉具視の外交団がベルリンに到着した日だったそうだ。メルケル氏は、そのあと、あらゆる重要テーマをさらっとこなし、最後にまた岩倉具視に戻って、優等生のスピーチを終えた。

 とはいえ、日本の慰安婦問題などには一切触れていない。ドイツの戦時中の行為への反省を述べ、それにもかかわらず戦後、かつての多くの敵国から和解の手を差し伸べてもらえたと語っているのだ。

 しかし朝日新聞は翌日の第1面で、メルケル首相の話の内容の肝が、歴史の総括であったように書いた。それはZDFも同じで、朝日新聞のことを、報道の自由のために戦う正義の新聞といったニュアンスで扱ったのだった。

 たとえば、「朝日新聞は最近、第2次世界大戦の日本の軍隊の下で強制売春が運営されていたという記事を取り消さなければならなかった。歴史家たちは、強制売春を証明されたものと見做しているにもかかわらず、アベ陣営はただちにそれ(記事の取り消し・訳注)を、強制売春自体についての議論を取りやめるきっかけにした」と非難している。歴史家とは誰だ?

 さらに読むと、「メルケルがアベより前に朝日新聞に会ったのは、そこに託された意味を日本人が理解すべきためのシグナルだった。そして、それはおそらく、中国や韓国といった国々と和解の試みをせず、超右翼のコースを取り、終戦後70年経った今、日本の犯罪を過小評価しようとしているアベに対する明確な批判である」。これは、安倍政権が言論弾圧をしていると言っているに等しい。

 いったい、なぜドイツのメディアがこんなことを書くのか? 朝日新聞は、強制売春があったという事実を一切証明できなかったから、記事を取り消したのではなかったのか。それを今さら、外国の新聞に告げ口? 日本では分が悪くなったもので、外国に向かって自己弁護に励んでいるのだろうか。

 戦時中、気の毒な女性がいたことは誰も否定していない。しかし、軍の主導で女性をさらってきて、奴隷のように強制的に売春をやらせていた事実はない。何度でも書くが、強制売春を軍が運営していたのは、日本ではなくドイツだった。

 朝日新聞は、自分たちが嘘を書いたから取り消す羽目になったことが、まだわかっていないらしい。真実を書いたがために権力に押しつぶされた新聞社という演出は卑怯だ。それとも、これらに朝日新聞は関知しておらず、ZDFが勝手に書いたものなのだろうか?

 それに私は常々、日本の「報道の自由」はドイツ以上だと思っている。日本人は間違っても、報道の自由を守るためにドイツの新聞の力など借りる必要はない。

 なお、慰安婦問題に関して言えば、外国のメディアは、その昔、日本軍に強制売春があったかどうかなど、本当は興味がない。興味は、それを自分たちの利益にどうすれば結び付けられるかということだけだ。

 つまり、強制売春があったことにするか、なかったことにするかは流動的で、すべてはあちらの都合でしかない。それを日本人が有難がっているとは、何と情けないことか。

現在の国際情勢そっちのけの質疑応答

 講演の後、少しだけ質問の時間が設けられた。それについては『フランクフルター・アルゲマイネ紙』の記事。

 「朝日新聞は日本で総攻撃を受けている。というのも、彼らは大手の新聞で唯一、安倍首相が第2次世界大戦中の歴史に国家主義的新解釈を施し、日本軍の残虐行為を否定しているとして、その批判を試みたからだ。メルケル首相がステージで腰を下ろすとすぐさま、朝日新聞の編集長が、この微妙なテーマについて最初の質問を投げかけた。『戦争の過去の克服について、日本はドイツから何を学ぶことができるか?』」

 不幸中の幸いは、メルケル首相が、この朝日の質問をうまくかわしたことである。「ドイツ政府の首脳として、私が日本人に何か助言をすることはできません」。

 とはいえ、その後、ドイツが宿敵フランスと和解できたのは、ドイツが自分たちの過去と向き合ったからであるとも答えている。“真実を告発したために安倍に押さえつけられてしまった朝日”は、この答えに満足したであろうか。

 ところで、メルケル首相は、いったい日本に何をしに来たのだろう? 6月にドイツで開かれるサミットへの招待を直々に伝えに来たというのが、公式の理由だ。今度のサミットも、前回と同じく、G8ではなくG7になる。クリミアを割譲したプーチンが村八分にされているからだ。

 今、EUとロシアとの関係は、冷戦以来、最低レベルまで冷え込んでいる。制裁のため、ロシア向け輸出が止まっており、ドイツ経済にも悪影響が出始めた。ドイツにしてみれば、ここで日本とロシアの関係が密になると、外交面でも経済面でもマイナスだ。

 それをやんわり牽制しに来たと、私は見ている。ドイツと日本のロシアへの輸出品目は、競合するものが多い。

 メルケル首相と会談した後の共同記者会見で、安倍首相は「ロシアに対する処置については、ドイツを始めとするG7との連携を重視しつつ」対応するとし、「現下のウクライナ情勢に鑑みれば、ロシアを含めたG8で意味のある議論を行える環境にはない」と語っている。メルケル氏の思惑通りか?

 なお、前述の記事を書いたZDFの記者は、この共同記者会見の席に出席しており、安倍首相に、「なぜ原発再稼働を考えているのか」と質問していた。

朝日新聞がドイツに学べることはまだある

 それにしても、たった1泊2日で、メルケル首相のスケジュールはすごかった。首脳会談と朝日新聞社での講演はもちろんのこと、天皇陛下に拝謁し、民主党党首や女性のグループと会い、科学未来館ではロボット「アシモ」を見学した。

 日本のメディアは、アシモのことばかり書いていたが、世界で一番影響力のある女性は、それほど単純ではない。たとえば、日本とEUのあいだで進められようとしている自由貿易協定についても、しっかりと後押しをしている。

 先週、ギリシャは、ドイツ軍が戦争中に行った民間人の虐殺行為に対する賠償を請求した。ドイツは、戦時中の犯罪行為に対して、イスラエル以外には一切賠償をしていない。しかし、ドイツは、すべては解決済みと突き放している。

 そのうえドイツは、ギリシャを占領した際、ドイツへの多額の融資を強制したという。そして戦後、その返済も一切しておらず、遅ればせながら今、ギリシャは110億ユーロの返還を求め始めた。

 できれば、朝日の編集長には、これらに対するメルケル氏の見解も尋ねてほしかった。日本がドイツから学べることは、まだまだたくさんありそうなのだから。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43203
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