陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

パキスタンの政情不安定化とムシャラフ大統領の焦り

2007-11-10 11:47:08 | 中東問題
 民主化を進めるグルジアでも、露西亜派勢力による反体制活動に備えて非常事態宣言が出された。これは、ビルマ(ミャンマー)やパキスタンの軍事政権支配とは全く異なる政治的背景があるが、大変気になることである。

 パキスタンのムシャラフ大統領は、内外から追い詰められているようだ。11月3日の非常事態宣言は、最高裁判所長官の解任を狙ったものだが、その宣言(実質の戒厳令)に反対し、デモを指導した野党指導者や大勢の弁護士が逮捕された。米国はアフガン作戦の重要拠点としてパキスタンを位置付けているものの、あからさまな軍事政権に戻るのをけん制している。

軍参謀長辞任を要求 米パキスタン首脳電話会談

 【ワシントン7日共同】ブッシュ米大統領は7日、非常事態を宣言したパキスタンのムシャラフ大統領と電話会談し「大統領と軍トップは兼任できない」と直接伝え、陸軍参謀長の辞任と総選挙の早期実施を求めた。フランスのサルコジ大統領との会談後の共同記者会見で明らかにした。

 ムシャラフ大統領との電話会談は非常事態宣言後初めて。ブッシュ大統領は「非常に率直な議論ができた」と述べたが、ムシャラフ大統領の返答の内容には言及しなかった。

 米国内では、反政府デモを弾圧したミャンマー軍事政権に対する厳しい対応と比べると、ムシャラフ政権へのブッシュ政権の対応は甘いとの批判が上がっている。

 しかし、ブッシュ大統領は「民主化という目的は共通しているが(状況に)違いがある」と指摘。「パキスタンは民主化の途上にあるが、ミャンマーは民主化の道をたどっていない。別のやり方が必要だ」との認識を示した。

2007/11/08 07:44 【共同通信】

http://www.47news.jp/CN/200711/CN2007110801000107.html


 ムシャラフ大統領もそれに応えて、総選挙実施を約束した。

総選挙は「2月15日までに」 パキスタン大統領明言
2007年11月09日03時43分

 パキスタンのムシャラフ大統領は8日、次期総選挙を「来年2月15日まで」に実施すると明らかにした。国営テレビが伝えた。一方、野党パキスタン人民党総裁のブット元首相は、記者会見で「(実施日が)漠然としている」と批判。非常事態宣言に抗議する9日の大規模集会を予定通り行うと述べた。

 大統領は「これは私の約束だ。必ず実行する」と強調した。非常事態を宣言してから6日目に総選挙の日程に言及した背景には、米国をはじめとする国際社会の批判をかわす狙いがあるとみられる。

 ブット氏は憲法の規定通り来年1月中旬の実施を求めてきた。ムシャラフ氏の提案に対し、「我々が聞きたいのは具体的な実施日だ」と拒否。9日の集会と、13日の街頭行進は「政府の妨害にあっても実施する」と述べた。

 政府は集会を阻止するため、人民党の活動家や支持者の大量拘束に踏み切った。同党の報道担当者は8日、約800人が拘束されたと明らかにした。

 ムシャラフ氏が強気なのは、今のところ、一般市民が抗議活動にそれほど加わっていないためだ。弁護士や野党活動家を抑え込めば沈静化できると踏んでいる。だが、流血の事態となった場合、国内外の批判が一気に強まるのは必至だ。
http://www.asahi.com/international/update/1109/TKY200711090003.html


 今年9月の段階でムシャラフ大統領と話し合いが出来ていたブット元首相は、11月4日にドバイから戻ると、ムシャラフ氏との対決姿勢に出た。それに対して、ムシャラフ大統領はブット氏を押さえにかかっている。

ブット元首相を軟禁と報道 パキスタン、5千人拘束
2007.11.9 14:10

 パキスタンの地元テレビは9日、ブット元首相がイスラマバードの滞在先で軟禁下に置かれたと報じた。
 報道によると、警察官が滞在先の周囲を封鎖しているという。
 またAP通信によると、元首相が率いる同国第2野党、パキスタン人民党(PPP)関係者は9日、ムシャラフ大統領による非常事態宣言などに抗議する集会に参加を予定していたPPP支持者ら5000人が、同日までに当局に拘束されたと語った。
 抗議集会は元首相が9日、首都イスラマバード近郊のラワルピンディで開催する予定で、政権側は集会の阻止を狙ったとみられる。(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/071109/asi0711091410005-n1.htm


 ブット氏は、10月18日の帰国に際し、ムシャラフ大統領の参謀総長兼任を早く辞めること、憲法の改正(首相三選禁止の撤廃)加えて総選挙日程を明確にせよと求めていた。彼女(及びその家族)は、収賄・汚職などで政権を追われたが、野党PPPの支持のみならず一般国民からの人気が依然として高いので、3度目の首相就任を狙っているのだ。そのブット元首相を現政権が軟禁状態にすれば、一波乱あることが予想される。

 パキスタンの政情不安は、他国のそれと異なる大きな問題点を内包している。それは、軍部が核兵器を持っているので、彼らの指導者がタリバンやアル・カイーダと連携した時、周辺諸国へ大きな脅威を与えることになる。インドとのカシミール紛争はなお続いているし、インドもパキスタンに対抗して核兵器を持っている。

 イラクの治安に関係するクルド問題をトルコから突きつけられ、一方では「中東和平会議」(アナポリス)の準備に悩む米国は、パキスタンの流動化を恐れている。アフガンで行われている対テロ<不朽の自由作戦>に大きな齟齬を生み出すからだ。そんな時に、日本がインド洋の給油活動から身を引いたのだから、来日するゲーツ国防長官が日本への姿勢を強めるのは、米国としては当然なのかも知れぬ。

(参考)

 パキスタンで非常事態宣言(追記あり)
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