「借金1000兆円」 に騙されるな!
あと900兆円国債を発行しても破綻しない
「借金1000兆円」 に騙されるな! 高橋洋一著 小学館101新書 (抜粋)
2012年4月7日 初版第一刷発行 定価 本体700円+税
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はじめに
第1章 誤解や嘘を解くための国債の基礎知識
国債とは何か/国債は戦費調達から始まった/高橋是清の戦費調達
国債は「金融市場のコメ」/広い意味での国債はどれだけあるか
財政破綻とは?/俗説と俗説の争いは無意味
国債は本当に国の「借金」なのか?
国内で調達される国債は「夫婦間の貸し借り」なのか?
外国人保有比率と破綻確率に相関性はない
国債が自国通貨建てかどうかも関係ない/経常赤字国、黒字国も関係ない
国債依存度に定義はなく、国際比較もできない
借金返済を心配して借金する怪/「日本の借金1000兆円」は間違い
日本政府の資産の多くは金融資産/国債はいくらまで発行可能なのか?
第2章 格付け会社を信用するな!
格付けには意味がない/存在しない日本国債を格付けした会社
誰のために格付けをしているのか?
日経が格付けを重要視する理由を考える
格付けなど気にせずCDSに注目せよ/CDS価格は真剣勝負で決まる
格付けを信じるならボツワナ国債を買わなければおかしい
格付けのスピード感はCDSと勝負にならない
東電を見れば格付けの終焉が分かる
格付け会社は政府の影響を受けずにいられるのか
格付けは文系的発想の産物
第3章 日本はギリシャのように破綻するか
ギリシャは破綻ばかりしていた国
ギリシャはユーロに参加すべきではなかった
ユーロ参加が破綻そのものの形を変えた/ドラクマを失って命運尽きる
ギリシャは破綻し、ユーロは崩壊に向かう
イタリアやスペインの国債急落は日本国債の将来を暗示する?
では、日本は破綻するのか?
デフォルトしやすい国としにくい国の違いは?
「日本国債の暴落」とは何を指すのか?
過去の国債未達を材料に破綻を煽るのはおかしい
国債入札ほどの殿様商売はない
日本国債破綻論者は、いますぐCDSを買えば大金持ちになれるP‥
なぜ財務省は「財政破綻」を煽るのか?
第4章 いま増税すれば日本はこうなる!
なぜデフレは解消されないのか?
中央銀行がマネーの伸び率を増やせば自殺者は減る
少子高齢化はデフレとは無関係/マクロ的に見る力がないから間違える
なぜ財務省は「財政再建」に躍起なのか?
なぜ日本銀行は国債消化に消極的なのか?
政治家やマスコミは騙されているのか?
財務省が「本気を出す」とこうなる
「国債は危ない」というセリフが勧誘に使われる
投資家の「ポジショントーク」に惑わされるな
財務省は「デフレ下増税で減収」をアジア通貨危機のせいにした
日銀が国債をガンガン買え/外国はもっと本気でマネーを増やしている
これでは円高は改善されない
日本メーカーは日銀に見殺しにされかけている
為替介入は害ばかりで効果なし
中国国債購入は借金とリスクが増えてメリットなし
低成長下での増税は、いずれ破綻を招く
「増税と引き換えに議員歳費を削る」のバカバカしさ/日本経済最大のリスク
第5章 日本再生の経済運営とは
100年復興国債の発行を/高橋是清の国債引き受けに見習え
国債直接引き受けの法的根拠/ハイパーインフレなど起こらない
日銀法を改正すべき/日銀が目標の独立性を手放したくない理由
どこまで金融債和すればいいのか?
正しい金融政策で経済が拡大すれば格差は「縮小」する
国債は便利なツールとして使えばいい
あと900兆円国債を発行しても破綻しない
新聞に頼らないアタマの作り方/だんだん変わってきた。
未来はある
■ あと900兆円国債を発行しても破綻しない
それでも、どうしても国債暴落、財政破綻という言葉の恐怖から逃れられない人のために、頭の体操を兼ねた馬鹿馬鹿しいシミュレーションをしてみよう。
第1章の終わりで、歴史上イギリスがネットの債務残高が二度もGDPの250%前
後になったのに、いずれも破綻しなかったことを述べた。
日本のネットの債務残高のGDP比は70%だから、往年のイギリスと同じ段階まで債務残高をふくらませるとしたら、あと900兆円も国債を発行しなければならないということになる。
実際にそんなことをする必要はないのだが、もし900兆円国債を発行して、一気に財政出動したらどんな世の中になるか、ちょっと想像してみよう。
さすがに1年では賄いきれないだろうから、9年に分け、年間100兆円ずつ使っていくことにしよう。民間金融機関の消化能力を考えて、全額日銀引き受けにしよう。そうすると、毎年、政府は日銀が刷った100兆円を手に入れられる。日本中のおカネがl年間で100兆円増える。
政府も投資先が思いつかないので、とりあえず国民全員に配ることにしたとすると、国民1人当たり70万円が分配されることになる。4人家族なら、300万円近い札束が、宅配便か何かで届くのかもしれない。
これには長年デフレに慣れてきた人たちも、さすがに驚くのではないだろうか。隣の家にも、向かいの家にも何百万円も配られているのだ。
これではさすがに物価が上がるかもしれないから、早く使わねばと思うはずだし、他人も同じことを考え始める。企業も投資を急速に始める。仕事も忙しくなるだろう。
現在1R東海が建設に着手している中央リニア新幹線は、東京・大阪間の総工費がおよそ9兆円とのことだ。100兆円も使えれば、九州や北海道まで伸ばしても、インフレを加味しても十分お釣りが来そうだ。
実際には、いきなり100兆円も財政出動したらちょつとしたインフレになるだろうから、今の額面でモノを買うことはできないだろうが、経済は急激に回り始めることだけは確かだ。
というより景気が沸きすぎて、品不足になるだろう。トイレットペーパーが買えないどころの騒ぎではなくなる。スーパーからモノが消えるかもしれない。
インフレになるということは、為替相場は円高から超のつく円安に変わる。
とても簡単な計算をすれば、いま米ドルはおよそ2兆ドル、日本円は140兆円存在している。ここから割り出される為替レートは1ドル=70円ということになるのだが、日本円が240兆円になれば、一気に1ドル=120円になることになる。これは小泉政権時のレベルだ。
これはすごいことになる。米ドルを使う人から見れば、日本製の自動車や家電、精密機器が、半額で買えるわけだ。プリウスが100万円、テレビが2万円で買える感覚だ。おそらくどんなに生産しても間に合わない。
このような状態が9年続く。もちろん急にお金の量が増えたことで世の中そのものが変容してしまうだろうからこの限りではないが、今よりよい世の中かもしれない。私が言いたかったのは、国債を出してイギリスの歴史上最高の水準にしてみても、日本が財政破綻すると言っている人が懸念するような、財政破綻という悲惨な世界ではなく、むしろ今よりいい世界ができてしまうかもしれないという、思考実験ができてしまうのだ。
今のデフレから脱出すると、一見財政破綻のように見えても、実は今よりよい世界が作れてしまうのは何とも皮肉なものだ。
もうひとつ、ここでぜひ考えてほしいのは、お金の量を増やせば経済は回り始めるという法則だ。いきなり100兆円増やせば不必要なインフレを招いてしまうが、では20兆円なら、30兆円なら、あるいは40兆円ではどうなるだろうか。もっとマイルドで、所得の上昇を喜びつつ、貯金することではなく働いてお金を使い、また働くことに喜びと利益を兄いだせる世の中になってはいないだろうか。
みんなで選んだ政権が決めたインフレ目標をみんなで共有し、そこに向かって金融を少しずつ緩めればいい。経済の体温が熱くなりすぎていないかを測るためにはBEIを使えばいい。そして、日本国債の健全性はCDSを念のためウォッチしていればいい。
結局、その国の経済が成長していることが、何よりも大切なのだ。
おわりに
財務官僚・日銀職員は国民のために働くエリートではない一国の経済をうまく運営することは、マクロ的にはそこに暮らす人々の幸せを最大化しようとすることとほぼイコールと言える。
多くの人は、財務官僚も日銀職員も、国民の幸せのために働いているものだと思っているかもしれない。確かにそんな志に燃えてやって来る人もいる。しかし、長年の「伝統」に巻かれ、先輩と同じような人間になってしまうのが大多数だ。
私も、大蔵省の門をくぐつたばかりのころは、天下りの仕組みを全く理解していなかった。
まだ若かった時期、自分で自分を褒めてあげたくなるような出来の法案を作り上げることができた。
ところが、受け取った上司の反応は冷たかった。
「高橋君、天下り先を作っていないじゃないか。やり直し!」
出来具合や本質的な中味ではなく、官僚である自分たちの天下り先が増えるかどうか。
法案を評価する重要なポイントは、実はそこにあることに気付くのだ。
そのうち、自分たち以外に、日本の財政政策、金融政策を議論できる人間はいないと増長し始め、高をくくり始める。政治家はレクチャーで知恵をつけてやれば言いくるめられるし、マスコミにはリークネタとニュースに仕立てやすい資料を提供して手なずけられる。学者には名誉とカネを与えて審議会で飼いならす。国民なんて、簡単に騙せてしまう……。
彼らは、入省・入行時点では、日本の中でもそれなりの頭脳を持った人間が集まっていた(はずである)。しかし、こんなことばかりに手を染めていれば、成長など止まるに決まっている。
FRBのバーナンキ議長の例を出すまでもなく、G7の多くの国の中央銀行総裁は、アメリカの大学の博士号を持っている経済学者だ。一方、日本銀行の総裁や副総裁、理事はどうだろうか。
ドクターの地位そのもので、必ずしも能力が担保されるわけではないが、少なくとも博士号を持つ経済学者なら経済学を一定時間学んだことは明らかだし、アメリカの一定の大学であれば、ある標準化された知識や理論を身につけていることが期待できる。
バーナンキ議長はかつて、「日銀はケチャップを買えばいい」と言い、何でもいいから買い入れてマネーを供給すればいいではないかと主張していたが、日銀は、分かっている人から見ればそのくらいもどかしい中央銀行なのだ。
官僚も博士号所持者は少ない。でも平気でそれなりのイスに座り、うさんくさい経済学もどきをばらまいてミスリードしている。こんなことも、他の先進国の政府職員や、国際機関の職員にはあまりないことだ。
もう日銀は言い逃れできない
私は、後のFRB議長であるバーナンキ教授から様々なことを教わった。個人的にも親しくしていただいた。
私は今でこそこうして数学を武器に政策を提言しているが、当時はまだその入口に立っていただけだった。というより、アメリカから戻った私の眼には、日本の金融政策、財政政策がおかしなものにしか見えなかった。
インフレ目標導入を防戦する日銀の言い訳は、いつも決まって「アメリカが導入していないから」だった。
バーナンキ教授は、2002年にFRB理事に指名された。
実は以前、私はバーナンキ教授本人からインフレ目標の話を聞いていた。必ず将来インフレ目標を導入するはずだと予測した。
しかし、多くの人からバッシングされた。そんなことするわけがないだろうと叩かれた。ところが、2012年2月、現実のものになった。
困ったのは、日銀の人たちだ。
今まで言い訳として使っていたFRBもインフレ目標を導入してしまった。政治家も、「アメリカが導入しないから日銀もしない」と説明されていたから、怒りをあらわにした。
日銀は顔を青くして「あれはインフレ目標ではない。バーナンキもそう言っている」と言いながら、次の言い訳を探した。
ところが、これは日銀の情報操作だった。
バーナンキ議長は、「もし『インフレ目標』を物価を最優先して雇用などを二次的なものとするということを意味するのであれば、その答えはノーだ。というのは、FRBは(物価安定と雇用最大化の)ふたつの責務を持っているからだ」と答えた。
FRBは、普通の国の中央銀行とは異なり、物価の安定だけでなく雇用の最大化という責務も負っている。だからこそ、バーナンキ議長は、物価だけを目標とする「インフレ目標」でないと説明したまでだ。加えて「物価安定の目標達成を遅らせたほうが雇用によいなら、喜んでそうする」と明言している。
しかし、日銀は今回のFRBの決定を「インフレ目標でない」と言いたいがために、バーナンキ議長の発言の一部だけを慈恵的に取り上げたと言われてもしかたない。
一方、白川総裁は任期はあと1年あまりとなったが、BEIのグラフからも明らかなように落第生となりつつある。円高は止まらず、デフレからも脱却できなかった。
もう言い逃れはできない。何が日本経済のためになるのかを、真剣に考えてほしい。
そうしなければ、この国から成長力が削がれる。その先に待っているのは、本物の「破綻」だ。
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高橋洋一 たかはし・よういち
1955年東京都生まれ。東京
大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研
究)。'80年に大蔵省(現・財務省)入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員などを経て、小泉内閣の総務大臣補佐官、安倍内閣の内閣参事官(総理大臣補佐官補)などを歴任。
現在、嘉悦大学経営経済学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。主な著書に『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)、『さらば財務省!』(講談社。第17回山本七平賞受賞)、『数学を知らずに経済を語るな!』(PHP研究所)ほか多数。