この「iPod課金」の問題は私にとっては懐かしい話題である。
かつて、米系の世界最大級のPCメーカー(といえば限定しやすいだろう)の法務部に勤務していた頃、突如アメリカからメールが飛び込み、「Copyright Levyに関する外部会議が開催されるから出てくれんか」と要請された。
当初は「Copyright Levy?何じゃそら?」てな感じだったのだが、これこそ正に私的録音録画補償制度のことである。
テクノロジーの進歩に伴い、音楽作品や映像作品のコピーは容易に製作できるようになった。それはそれで喜ばしいことなのだが、権利者からみると、これは憂慮すべきことでもある。例えば私が好きなアーティストのCDを1枚買って、10枚コピーして自分の友達にタダであげてしまったとしよう。権利者から見ると、10枚分の売上が飛んでしまうことになる。そこで議論の末考え出されたのが、コピーできる機械を製造するメーカー(昔でいえばカセットテープレコーダーのメーカーなど)から予め補償金を上納してもらい、JASRACなどの権利者団体経由で権利者に還元するという仕組だ。これがCopyright Levyで、欧米ではかなり早くから導入されていた。
2-3年前、AppleのiPodが米国で爆発的にヒットし、いよいよ日本で発売となった頃にこの「iPod課金」問題が発生した。要するに、取れそうなところからむしり取ろう、という発想だ。だが、iPodはいってみればハードディスク・ドライブそのものであり、もしiPodに課金なんてことになれば、そのままパソコン・メーカーにも累が及ぶ可能性がある。というわけで、Appleだけでなく、主要なパソコン・メーカーが手を取り、世界中でロビイ活動を繰り広げたわけだ。
私がその活動に社命で参加した頃は、まだ日本における議論はそれほど活発ではなかったものの、この問題を審議するために選ばれた委員(著名漫画家や作曲家など)に対するアプローチを、並み居る外資系PCメーカーの担当者、同じく大手外資系ソフトウェアベンダー(Mソフト、Aドビなど)、国内大手電機メーカー(F通、M下、Sニー、T芝など)の担当者、大手渉外系法律事務所などと共に戦略を練っていた。まあ、このロビイ活動に一番熱心かつ当事者意識があったのはもちろんAppleであり、私が当時勤めていた会社はどちらかといえば、成り行きを見守っていたというスタンスではあったが、ロビイ活動なんてなかなか経験できるものでもないし、非常におもしろかったのを覚えている。
この記事を見ると、結局iPod課金は見送られたようだが、違法にアップロードされた音楽や映像のダウンロードは違法となる方向で著作権法が改正されるようだ。まあ、権利者保護という観点から考えれば妥当なようにも思うが、多少思うのは、「権利者」ってどのレベルのことを言うのかね?ということ。
欧米ならまだしも、日本の場合、音楽や映像だけで食っていける「権利者」なんて数えるほどしかいないと思う。そもそも著作権なんていう権利は、特許や商標などと異なり、お役所への登録は要件とされていないので、曲や絵を書いた瞬間に生じるものだ。私も自分のバンドで作曲をしているのでよくわかるが、やはり作曲者や演奏家に働くモティベーションとしては、「儲かるに越したことはないかもしらんけど、とにかく自分の作品を見聞きしてもらって評価して欲しい」というものだと思う。
作品を作った最初の段階から、「全部聞きたいんだったらカネを出せ」では、無名のアーティストは育たないんじゃないかな、とも思う。インターネットの普及によって、誰でも簡単に自分の作品を世に問うことができるようになった反面、あまりにも便利なため玉石混交状態となってしまい、もうこうなると、楽曲の品質以上に「いかにして多くの人に見聞きしてもらうか」というマーケティング戦略こそが重要だ。
多少自負となってしまうが、私のバンドの楽曲や演奏レベルは、アマチュアの域ではないように思っている。もしド素人レベルであれば、あの片山広明さんにゲストとはいえご参加いただけないだろう。ただ如何せん、サラリーマンが仕事を続けながら細々とやっているので、どうしてもメディアやネット上、あるいは実際のライブにおける露出頻度に限界がある。聞いてもらおうと思えば、それなりに露出頻度がないと難しい。こういう状態では、正直いくら曲を書いているとはいえ、「権利者」とはいえない。
要するにね、「権利者」っていうけど二分化していると思うわけさ。「それで食えている人」と「そうでない人」。意識は全然違うと思うので、この法改正は「そうでない人」にとっては結構窮屈になるかもしれないね。
「ダウンロード違法化」ほぼ決定 その背景と問題点
(Butzmetz社長)
かつて、米系の世界最大級のPCメーカー(といえば限定しやすいだろう)の法務部に勤務していた頃、突如アメリカからメールが飛び込み、「Copyright Levyに関する外部会議が開催されるから出てくれんか」と要請された。
当初は「Copyright Levy?何じゃそら?」てな感じだったのだが、これこそ正に私的録音録画補償制度のことである。
テクノロジーの進歩に伴い、音楽作品や映像作品のコピーは容易に製作できるようになった。それはそれで喜ばしいことなのだが、権利者からみると、これは憂慮すべきことでもある。例えば私が好きなアーティストのCDを1枚買って、10枚コピーして自分の友達にタダであげてしまったとしよう。権利者から見ると、10枚分の売上が飛んでしまうことになる。そこで議論の末考え出されたのが、コピーできる機械を製造するメーカー(昔でいえばカセットテープレコーダーのメーカーなど)から予め補償金を上納してもらい、JASRACなどの権利者団体経由で権利者に還元するという仕組だ。これがCopyright Levyで、欧米ではかなり早くから導入されていた。
2-3年前、AppleのiPodが米国で爆発的にヒットし、いよいよ日本で発売となった頃にこの「iPod課金」問題が発生した。要するに、取れそうなところからむしり取ろう、という発想だ。だが、iPodはいってみればハードディスク・ドライブそのものであり、もしiPodに課金なんてことになれば、そのままパソコン・メーカーにも累が及ぶ可能性がある。というわけで、Appleだけでなく、主要なパソコン・メーカーが手を取り、世界中でロビイ活動を繰り広げたわけだ。
私がその活動に社命で参加した頃は、まだ日本における議論はそれほど活発ではなかったものの、この問題を審議するために選ばれた委員(著名漫画家や作曲家など)に対するアプローチを、並み居る外資系PCメーカーの担当者、同じく大手外資系ソフトウェアベンダー(Mソフト、Aドビなど)、国内大手電機メーカー(F通、M下、Sニー、T芝など)の担当者、大手渉外系法律事務所などと共に戦略を練っていた。まあ、このロビイ活動に一番熱心かつ当事者意識があったのはもちろんAppleであり、私が当時勤めていた会社はどちらかといえば、成り行きを見守っていたというスタンスではあったが、ロビイ活動なんてなかなか経験できるものでもないし、非常におもしろかったのを覚えている。
この記事を見ると、結局iPod課金は見送られたようだが、違法にアップロードされた音楽や映像のダウンロードは違法となる方向で著作権法が改正されるようだ。まあ、権利者保護という観点から考えれば妥当なようにも思うが、多少思うのは、「権利者」ってどのレベルのことを言うのかね?ということ。
欧米ならまだしも、日本の場合、音楽や映像だけで食っていける「権利者」なんて数えるほどしかいないと思う。そもそも著作権なんていう権利は、特許や商標などと異なり、お役所への登録は要件とされていないので、曲や絵を書いた瞬間に生じるものだ。私も自分のバンドで作曲をしているのでよくわかるが、やはり作曲者や演奏家に働くモティベーションとしては、「儲かるに越したことはないかもしらんけど、とにかく自分の作品を見聞きしてもらって評価して欲しい」というものだと思う。
作品を作った最初の段階から、「全部聞きたいんだったらカネを出せ」では、無名のアーティストは育たないんじゃないかな、とも思う。インターネットの普及によって、誰でも簡単に自分の作品を世に問うことができるようになった反面、あまりにも便利なため玉石混交状態となってしまい、もうこうなると、楽曲の品質以上に「いかにして多くの人に見聞きしてもらうか」というマーケティング戦略こそが重要だ。
多少自負となってしまうが、私のバンドの楽曲や演奏レベルは、アマチュアの域ではないように思っている。もしド素人レベルであれば、あの片山広明さんにゲストとはいえご参加いただけないだろう。ただ如何せん、サラリーマンが仕事を続けながら細々とやっているので、どうしてもメディアやネット上、あるいは実際のライブにおける露出頻度に限界がある。聞いてもらおうと思えば、それなりに露出頻度がないと難しい。こういう状態では、正直いくら曲を書いているとはいえ、「権利者」とはいえない。
要するにね、「権利者」っていうけど二分化していると思うわけさ。「それで食えている人」と「そうでない人」。意識は全然違うと思うので、この法改正は「そうでない人」にとっては結構窮屈になるかもしれないね。
「ダウンロード違法化」ほぼ決定 その背景と問題点
(Butzmetz社長)
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