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like water for chocolate 赤い薔薇ソースの伝説




Christopher Wheeldon最新作(6月2日にワールド・プレミア)、ロイヤル・バレエLike Water for Chocolateを鑑賞した。

今までに見たことがないようなファンタスティックな演出。

例えば悪霊。母親は死んで悪霊となり、その演出効果も、母親を演じた美しき金子扶生さんも、すばらしかった。
料理女ナチャが死んで霊魂になるシーン。

あるいは情熱に取り憑かれた主人公の姉のひとりが、薔薇の香りを放ちながら(放っていた!!!)踊り狂うシーン、Meaghan Grace Hinkisがバーレスク・ダンサーかピンナップ・ガールのようで、会場がピンク色に染まったかと思うほど。

婚姻関係を身体に巻きつくリボンで表すところ。

キッチュさスレスレのエンディングも。


場面は、舞台というよりも映画のようにくるくると変わり、飽きさせない。
登場人物が多く、話は複雑で、しかも主人公の情熱が「料理」と、ダンスで表現しにくそうなのにもかかわらず。
(主人公2人へのフォーカスが足りないとか、きっちりビジュアル化して説明しすぎで「観客の想像に任せるところが少ない」と批評もできるだろう)

こんな作品を見たことがない。

ただ一つの例外を除いては。


ウィールドン作2011年のAlice's Adventures in Wonderland『不思議な国のアリス』である(Joby Talbot作曲の音楽まで似ている)。

家母長的で権力をふるい、家族の運命を握り、死後も大きな影響を及ぼす強い母親から逃れることができない子、というテーマ。

両作品とも(そしてウィールドンのもう一つのフルレングスバレエ作品『冬物語』も)、母親の影響力の大きさにドライブされる。



Like Water for Chocolate(チョコレート飲料をつくる水のように、転じて完璧、情熱、という意味になるそう)というおいしそうなタイトルからはピンと来なかったのだが、こちら1992年製作(日本公開は93年)、『赤い薔薇ソースの伝説』と同原作なのだ。

92年ごろ、わたしは日常の憂さを晴らすために、小規模な名画座で放映されるフランス映画やスペイン映画を鑑賞するのに凝っていて、『赤い薔薇ソースの伝説』も大阪の今はなき小劇場で見た。

ラウラ・エスキヴェル原作のこの話は、南米のいわゆるマジック・リアリズム系で、ガルシア=マルケスの、『百年の孤独』とか...わたしなら『エレンデュラ』を例に挙げるだろう。

その世界の中では、日常の中に死人や霊が現れ、魔術や迷信や奇妙な伝統が引き継がれ、「比喩」にしかすぎないようなものがありありと現実化(情熱に燃えるあまり、身体が物理的に燃えだすとか)するのである。

映画版では、主人公ティタの平凡で地味で目立たない感じや飾り気のなさと、彼女の恋愛感情の激烈さの対比がすばらしかったのを今でも覚えている。




主人公ティタの家族は強権的な母親エレナが支配している。
ティタには2つの情熱がある。料理と相思相愛の男性ペドロ。
しかし彼女の家の伝統では、末娘は母親を死ぬまで(召使のように)未婚で世話すると決まっているため、ペドロはティタのそばにいたい一心で、エレナの命じた通り、ティタの姉のうちのひとりロザウラと結婚する。

ティタの悲しみや鬱憤、欲望は、すべて彼女の作る料理の中に伝わってしまう。
それを食べたある人は嘔吐し、ある人は...彼女の別の姉ガートルディスのように欲望を突然開花させ、行きずりの革命兵士と駆け落ち...ティタの情熱が伝染し、薔薇の香りに誘われてやってきた革命兵士にさらわれるのである。

母親はやがて死ぬが、悪霊となってティタに取り憑き、彼女の人生をコントロールしようとする...その母親もまた同じように家族の伝統の犠牲者なのであった。

ロザウラもまた亡くなり、ティタとペドロはようやく結ばれるが、彼らの抑圧されてきた情熱は寝室を燃やし、2人は「文字通り」燃え尽きて死んでしまう。


主役の2人 Yasmine NaghdiとCesar Corrales、すばらしかったです!

もう一回見たいなあ、行ける日がなくて残念。


...と、バレエもすばらしかったのだが、その日のハイライトは!

ロイヤル・オペラ・ハウスのフォワイエで娘とお茶を飲んでいたら、なんと、なんと。

わたしが(娘も)大大大ファンで、彼女の公演は絶対に欠かさず、いい席で必ず見る、あのプリンシパルが隣のお席に座ったのである!

お友達とご一緒で、お友達が話しても話しても足りないという感じだったため、声はかけなかったが、緊張して挙動不審になってしまった(笑)。
しかもインターバル二回ともお隣に...

ロイヤル・バレエのプリンシパルの中では背が高く、筋肉が美しく、舞台の上で圧倒的な華があるので大柄な方かと思っていたら、全然違った。
すごーく華奢で、ほっそりしていて、頭の先から爪先までまっすぐで、小鳥のような軽々とした身のこなし、そしてお顔が小さーい! (バレエの)女王だとばかり思っていたが、妖精なんじゃないか?

すっぴんでカジュアルな服装をされていたのには、ドレスを着てジュエリーをいっぱいつけたわたしは恥入った。
彼女は飾る必要など何もないのだ。わたしも素で美しい人になりたかった。
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