ボイシー日記

手がふさがっていては、新しいものは掴めない。

きらきらした、井上靖の三部作。

2012-07-09 09:44:01 | 
伊豆・天城を旅した際、湯ケ島は井上靖の
故郷であると知り、自伝的三部作である
「しろばんば」「夏草冬濤」「北の海」を読んだ。
読み終えて、「しろばんば」ぐらいは
中学生時代に読んでおかなければいけないなと反省しました。
(もしかしたら、文部省推薦図書ということで
読んだけど忘れているのかもしれません・・・)

しかし、この三部作、とても面白いです。
読みやすく、ストレートに物語の中に入っていけます。
清々しく、元気が出て、それでいてちょっとほろ苦い。
たしか花村萬月も「北の海」が好きで
何度も読み返していると何かで読みました。
まだ読んでない人がいたら、おすすめです。

「しろばんば」は、洪作が湯ケ島で5歳くらいから
曾祖父の妾・ぬい婆さんと土蔵で暮らしていた頃の物語。
学校での出来事や、近所の子供と山野を駆け回ったり、
鳥の仕掛けを作ったり、狩野川で水遊びしたことが
瑞々しく描かれている。
自由奔放に育てるぬい婆さんとの会話や、
頑固で苦手な親戚の人たちのやりとりも面白い。
そして洪作が小学6年生の3学期に湯ケ島の生活と別れて
浜松の両親の許へ移っていくところで終わる。
「しろばんば」を読み、オイラも小学校5年生で長野県に引っ越し、
山間の村で暮らしはじめた頃が懐かしく思い返された。

続く「夏草冬濤」は、三島の伯母の家で間借り生活をして、
徒歩で一里もある沼津中学に通っていた中学時代の話。
美しい富士と駿河湾を眺め、千本浜、狩野川の堤などを歩く。
通学路で鞄を無くし、教科書がないまま授業を受けたり、
早熟の文学少年の上級生グループが輝く存在に見えて
その仲間に入って文学の洗礼を受けたり、
親の監督がないということで勉強もせず服装にも頓着せず、
千本浜へ行ったり、ラーメン屋に入り浸ったり、
毎日のように自由に遊び暮らす。
野方図な暮らしを続けているので、当然、成績が下がる。
そこで親は心配して厳しい寺に下宿させるが、
そこでは、また厳しくも楽しい生活が待っている。
井上靖本人は“道草”ばかりの生活だったと振り返っている。

「北の海」は、沼津中学卒業後の浪人時代の話。
中学を卒業しても、まだ一人だけ中学へ通い、
学校の道場で後輩たちと柔道を続ける。
やがて金沢の四高の柔道部員に誘われて
金沢へ行き、ひたすら、柔道に明け暮れる。
「柔道は練習量である」と知る。
そこでも素敵な仲間と知り合い、いい人生経験を積む。
そして柔道三昧の金沢から沼津に帰った後、
本格的に受験勉強をしようと親元の台北に向かう。
つらい柔道の毎日ではあるが、
思春期の淡い恋心も上手に描かれている。
トンカツ屋の娘さんと千本浜を散歩したり、
洪作の送別会のシーンの会話には胸が熱くなる。

全編を通して、心の動きがわかりやすく、
挿入されている会話も温かみとユーモアがあり秀逸だ。
友人が発する「うおっ!」という叫び声もいい。
この三部作の中では「夏草冬濤」がいちばん良かった。
きらきらとした青春の粒子が、つぶさに書かれている。
(青春の粒子とは井上靖の言葉)
また、親元を離れて暮らしていても、
まわりの教師や大人が親代わりになったり
厳しいアドバイスをしている。
いまでは考えられないような、おせっかい過ぎる
付き合いがあるが、そこがまたいい。

10代の頃に読んでおけば良かったと思う反面、
50歳を超えたこの時期に読んでも心にじわりときた。
何歳になって読んでも、いい本はいいということだ。
手元に置いて、また何年かしたら読み返したい本になった。

そして、人間は20歳ぐらいまでは、
何か、きらきらしたものを採集する
探検隊の一員なのだと教えられた。
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