時間はゆったりと流れていきます。春の気配が空高く流れ去り、もう其処には夏がこの地上に届いてきています。締め切った部屋の中は額に汗がほんのりと浮び出るようです。
こちらから何かを仕掛けることも出来ず、た沈黙を守って、時が過ぎ行くのを待つだけです。
お園は、そのうち、うつらうつらと夢心地の中に入り込んで行きます。とんでもない大きな真っ黒な穴の中を一人で、何かに吸いつけられたように歩いています。その真っ黒な向こうには、故里の宮内のお墓の入り口に座っていらっしゃるあの閻魔大王さんのいかつい顔が出てきたと思うと、突然に懐かしい祖母に取って代わったり、今度は、両手をいっぱいに差し延べてくれている平蔵の姿になったりしています。懸命に声に出して叫ぼうとしているのですが息苦しくて、誰かに口をふさがれているように口が利きません。やっと「ぐっう」と声が出たように思われました。その時です。
おせんさんの
「どうされはったの。お園さん」
と、いう声にはっと吾に帰り、とっさに今何処いるのかも分らないように思えました。
「まあなんとしたことでしょう、えらい失礼をしました。ついうっかり・・・」
「疲れていやはるのどす。うちのために・・・・」
「いいえいいえ、どんだ粗相をしました。つい気が緩んでしもうて、わたしが悪いのです」
それから、又、少し時間が経ちます。
突然どうしたのかは分りませんが
「くすん」
と、おせんさんが、声にならない声を出して頬笑まれたように思われます。
「おや、おせんさんに笑顔が」と、お園は思うのですが、今は、このままおせんさんのほうから声をかけてくれるのをじっとして待つのがいいように思い、そのまま黙って障子に映る夕陽の影を見つめておりました。宮内のおにぎり山もきっと夕焼けに染まっていることだろうと、また、平蔵は今どこら辺りにいるのかなとも思いながら。
その後は、又、おせんさんは押し黙ったままです。長い長いその日は暮れていきました。
「ぼつぼつお家の方にと御寮んはんが・・・」と、いう女中の千代さんに促されて、長い長い一日目のお勤めをどうにか済ませて、舟木屋の勝手口をくぐり、わが家へと急ぎます。
平蔵のいない部屋で、自分一人ぽつんと座ったままで、何も手が突きません。おせんさんの部屋にいた時にはこんな気持ちになったことはないのですが、何かとてもわびしいせつない気持にさせるのです。そっと、「平蔵さん」と呼んでみますが、ますます、平蔵恋しの思いが高まるばかりのお園でした。そして、はるばる大坂まで来て、平蔵のお嫁さんになって本当によかったなと、幾度も幾度も繰り返して思うのでした。
今のお園のその思いの中には、誰も、おせんさんのこともですが、入り込む余裕すらないように、平蔵のことしか頭にはありません。
「無事に早く、お園の元にお帰えしください。吉備津様」
と手をあわせます。
こちらから何かを仕掛けることも出来ず、た沈黙を守って、時が過ぎ行くのを待つだけです。
お園は、そのうち、うつらうつらと夢心地の中に入り込んで行きます。とんでもない大きな真っ黒な穴の中を一人で、何かに吸いつけられたように歩いています。その真っ黒な向こうには、故里の宮内のお墓の入り口に座っていらっしゃるあの閻魔大王さんのいかつい顔が出てきたと思うと、突然に懐かしい祖母に取って代わったり、今度は、両手をいっぱいに差し延べてくれている平蔵の姿になったりしています。懸命に声に出して叫ぼうとしているのですが息苦しくて、誰かに口をふさがれているように口が利きません。やっと「ぐっう」と声が出たように思われました。その時です。
おせんさんの
「どうされはったの。お園さん」
と、いう声にはっと吾に帰り、とっさに今何処いるのかも分らないように思えました。
「まあなんとしたことでしょう、えらい失礼をしました。ついうっかり・・・」
「疲れていやはるのどす。うちのために・・・・」
「いいえいいえ、どんだ粗相をしました。つい気が緩んでしもうて、わたしが悪いのです」
それから、又、少し時間が経ちます。
突然どうしたのかは分りませんが
「くすん」
と、おせんさんが、声にならない声を出して頬笑まれたように思われます。
「おや、おせんさんに笑顔が」と、お園は思うのですが、今は、このままおせんさんのほうから声をかけてくれるのをじっとして待つのがいいように思い、そのまま黙って障子に映る夕陽の影を見つめておりました。宮内のおにぎり山もきっと夕焼けに染まっていることだろうと、また、平蔵は今どこら辺りにいるのかなとも思いながら。
その後は、又、おせんさんは押し黙ったままです。長い長いその日は暮れていきました。
「ぼつぼつお家の方にと御寮んはんが・・・」と、いう女中の千代さんに促されて、長い長い一日目のお勤めをどうにか済ませて、舟木屋の勝手口をくぐり、わが家へと急ぎます。
平蔵のいない部屋で、自分一人ぽつんと座ったままで、何も手が突きません。おせんさんの部屋にいた時にはこんな気持ちになったことはないのですが、何かとてもわびしいせつない気持にさせるのです。そっと、「平蔵さん」と呼んでみますが、ますます、平蔵恋しの思いが高まるばかりのお園でした。そして、はるばる大坂まで来て、平蔵のお嫁さんになって本当によかったなと、幾度も幾度も繰り返して思うのでした。
今のお園のその思いの中には、誰も、おせんさんのこともですが、入り込む余裕すらないように、平蔵のことしか頭にはありません。
「無事に早く、お園の元にお帰えしください。吉備津様」
と手をあわせます。
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