私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 50

2008-06-13 08:56:22 | Weblog
 おせんは思いました。
 男の人って何でも自分が好きなことが思うように出来ていいなあ。「女はあかん」と。女の癖にとか、そんなことしたらお嫁にいかれんとか、なんとか喧しく言われて、いつも、我慢しろ我慢しろの連続の中で、身を小さくするようにして暮らしている自分が情けなくもなりました。したいことも勝手には「できしまへん」。女の方が損なのかしらと、うらやましくもあります。
 得々として、自分のこれからしたいことをはっきりと言う政之輔の話を聞いていると、そんな思いがしきりにします。
 「男はんはようおすな、好きなことが何でも出来るよって。女は損どす」
 と、おせん。
 「あ、これはいかん、かんにんどす。自分だけがおしゃべりし」
 と政之輔。
 「でも、女のお人は、おせんさんが言わはるように本当に損でしゃろか。女将さんはどない思われます」
 と、松の葉の女将さんも尋ねます。
 「はい、わてには、ようはわかりしまへんのやけど、・・・・男はンがいいのか、おなごがいいのか。・・・・そんなこというてたら、どないなりますねん。男はンとおなごしかこの世の中にはおらしまへんやろ。男はンの方がよかったかてどないにもなりしまへん。おなごはいつまでかて女子どす。男はンにはに決してなれしまへん。おなごはおなごですさかい。誰が決めたのか分りまへんが、世間で言うおなごの道を行くしかあらしまへんのとちがいますやろか。えろうえらそうに厳しいこと言うようでおますが。・・・すいまへんどす。こいさん、そのお吸い物、うちの自慢の料理だす。熱い内に食べておくれやす。それそれ先生も、はようお食べやす」
 と、二人に、料理をしきりに進めながらいいます。
 「ようはわかりまへんけど、男はンでも、おなごはンでも、一生懸命に生きていかはれば、どっちがいい悪いと言うことではなしに、それでいいのではないのでしゃろか・・・でも、ふくろう先生さすがどす。そやからうちらはみんな好きやねん」
 「えろう難しい話になってきよりましたが、おせんさんは、今度、山越の師匠の桂木の会にお琴を弾くのだそうだす。よかったら女将も聞きにいかはったら」
 先生は上手に話題を変えます。
 「いつですやろ。こんな商売しているさかい。何時でもと言うわけにはいきまへんが、それは是非聞かしてもらいとうおすな」
 
 女将が下がると、政之輔は、又、話し出します。話しべたなのかと思っていたのですが、話し出すと留りません。次々と、話の種は尽きないのでしょうか。長崎の蛇踊りは面白いとか、男も女も髪の毛は黒でなく金色に輝いている人がいるとか、象と言う長い大きな鼻を持った生き物が町の中をのっしのっしと歩るいているとか、聞いたことのない始めて聞く珍しい話ばかりです。特に、長崎に来ているオランダ人は、おなごはンのほうが男の人より大切にされていると聞いて驚きます。荷物は、大抵は、男が持ってあげているという話にも感心しました。
 小半時が過ぎた頃でしょうか、
 「今日は、久しぶりに、よう話し聞いてもらいました。ぼとぼと帰えりまひょ。そこまで送りますよって」
 と、政之輔。
 外は弥生の柔らかな風が吹いています。歩きながら政之輔は、ぽつんといいます。
 「おせんさんと話ししていると、なんか楽しうおます。また、会って聞いてくれはりますか」
 舟木屋近くまで、政之輔は送ります。
 
 
 


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