私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 54

2008-06-18 10:09:17 | Weblog
 「探してほしいのです」という政之輔の言葉が、表の騒音に混ざって、宙を舞う蝶か何かのようにふわっと聞こえて、一瞬、何を言っているのかさへ分らないように思えました。
 「はあ・・」
 おせんは、思わず知らず、こんな言葉が口を突いて出てきます。政之輔はちょっと下を向いていましたが、また、ぐいと顔を上げ、今度はきっぱりと言うのでした。
 「おせんさんをお嫁にしたいのです。・・・これから長崎にいきます。1年になるか2年になるか分りませんが、この大坂をどうしても離れなければなりません。どうもこのままここにいると命に関わるような目にもあう恐れが多分にあります。後ろ髪を惹かれるようではあるのですが、思い切って、ここを一時、離れる決心がつきました。
 でも、今一番心配しているのが、おせんさんのことです。留守の間に手の届かないお人になっていはしないかと。おせんさんは昔から続いている舟木屋の一人娘でっしゃろ。だから余計に・・・」
 じっとおせんを見つめたまま、はっきりと言いました。
 「たくさんの難しい問題があると思いますねん。そんなにたやすくすんなりとは行かないのは重々わかっておりますねん。でも、やっぱり・・・・どうしても、おせんさんと一緒に、玄宗皇帝と楊貴妃のような連理の枝になりとうおす。人を深く思うことは人としていけないことっじゃないのです。持たない人の方がかえって、男も女も、損するのです。女子だから損するんではありません。・・・・・・今までは、この世の中を、窮屈に町人だ侍だと言ってそれぞれ違った道を通っているように思われるのですが、これからは、人と人とが、侍でも商人でもだれでも身分の違いを超えて関わりあってみんな生きていくようになるのだそうです。オランダ商館にいたのシーボルトと言う人のお国では、身分の違いで好きなもの同士が一緒になれないということはないのだと、前に長崎にいた頃、聞きました。」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿