奇想庵@goo

Sports, Games, News and Entertainments

『涼宮ハルヒの驚愕』の何に驚愕したか?

2011年05月27日 22時32分09秒 | 本と雑誌
涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版(64ページオールカラー特製小冊子付き) (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版(64ページオールカラー特製小冊子付き) (角川スニーカー文庫)
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2011-05-25


『涼宮ハルヒの分裂』以来4年ぶりの新刊。2007年6月に発売予定だったが、発売延期となり、二分冊されての発売となった。実際には分裂、驚愕前巻、驚愕後巻の3冊でひとつのストーリーとなっており、章立てもプロローグ~第一章~第九章~最終章~エピローグという構成。

本書の最大の特徴は、第二章(分裂)から第九章(驚愕後)までαとβの二つのストーリーが並行して進むことにある。以前、『分裂』の感想で、読者のミスリードを目的としたものではないかと書いたが、最後まで読んでみると、この試みが成功したとは思えなかった。
当然、これはストーリー的にも核心部分であり、これを表現するためにこの手法が最適だったことは間違いない。小説以外では使えないような方法でもある。挑戦的な試みだとは認めるが、しかし、上手く使いこなしたとは言い難い。

ハルヒが料理についてαとβで異なる発言をしている。これがミスでないのならば、解釈上の問題なのか、それとも今後への伏線となるのか興味深い。それ以外に、ストーリーの並列に何らかの仕掛けが組み込まれたという印象がなく、もったいない感じが強かった。

過去の内容を次のストーリーに生かすタイプの作家ではあるが、それは一冊としての完結性を弱める。シリーズでも評価の高い『消失』も構成が上手ければ一冊の本として優れたものになったのではと惜しんでいる。
『驚愕』にしても、物語の伏線の回収がエピローグの語りに任されていたりする。シリーズものだから毎回スッキリした落ちが必要とは言わないが、物語のピークがうまく集中しないあたりも構成の弱さに感じられてしまう。

【ネタばれ】
キョンが時間移動したのも腑に落ちない。次の物語のための伏線として利用する意図は分かるが、その必要性は希薄で、そもそも時間移動の原理も説明されていない。今後語られるとしても、やはり、その作品内できちんと説明すべきだっただろう。

ゼロ年代男子主人公の大きな特徴である現状維持肯定は『消失』以降変貌し、何も起きない平凡さを求めるのではなく、仲間たちとの非日常を含む日々を守りたいという意志へとなった。それは高く評価するが、一方で、無謀な戦いへの意思が感じられた点は気になった。
確かにハルヒという超越的な力の持ち主の協力を取り得る立場にいるとはいえ、作戦も碌にないままに敵と渡り合おうとするのは無茶以外の何ものでもない。ゼロ年代男子主人公のもうひとつの特徴である周囲を省みない自己犠牲とまでは言えないが、そうしたキョンの行動は古泉や佐々木のキョン評と矛盾してしまう。

ストーリー的には粗の目立つ作品に感じたが、それでも決してつまらない作品ではなかった。
谷川流の生み出した独特の文体は更に洗練され、読み手をぐいぐいと引き込む力を持っている。文体に特徴がある点では西尾維新もそうだが、エンターテイメントに徹する最近の西尾維新に比べて、より冒険的な谷川流はより魅力的に映る。

多大な欠点を感じさせながら、それでも面白い。その面白さを評す言葉を読了後ずっと考えていたが、見つからなかった。読み終わって24時間経っても簡単に言葉で表せない面白さがあったと言える。もちろん、私の語彙が足りないせいかもしれないが、そんな作品はそうはない。
もし、この面白さを伝える切り口が見つかったときにはまた語ってみたいと思う。そんな思いを抱かせる作品だった。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まだ読んでませんが、限定版でも買ってしまった方... (名無し)
2011-05-30 08:09:44
>変質
一巻での非日常希求+現状維持願望が徐々に変質して、でしたか。
割と初期からテンプレ形成に寄与していた作品だけに、時流の変化にどう追随していくかは気になってました。意識する必要はなくても、牽引する力になるような変化はあるかな、と。
現状維持肯定でもニヒリズム的なそれにしがみ付く「しかない」立場なんかは入間人間がやってましたけど、この作品が指向するのはそうした流れとは別物ですし。
読み返さないと小泉のキョン評は思い出せないのですが、傍観者的な立場(=読者の比喩)でも語られてたのはあったかなーと。

一巻の頃の、いっそラノベらしくない文体はどんどん自然に均されて固有の文章になってきてるのはありましたね。
前巻の時点ではまだわかりませんでしたが、どう冒険的になってるか楽しみですw
返信する
このシリーズでは、「やれやれ」というキョンの口... (奇天)
2011-05-31 01:00:36
その先にあるものが、新しい何かとまでは感じませんが。

エンタテイメントとしての面白さを確保しながらその上でさらに新しいものを作り出そうとしている、そんなタイプの作家はもちろん少なくはありませんが、ライトノベル系では戦略的に行っている方は少ないように思っています。
その戦略が成功しているかどうかはともかく、そうした試みをやっているだけで注目したくなるのは確かですね。

最近はラノベでも限定版とか多くなりましたが、驚愕の場合は前後編2冊セットで小冊子が付くだけなので、限定版という感じじゃありませんでした。
小冊子も半分は短編で、「やれやれ」に関連したお話ですw
バラで買うより100円高くて、あの小冊子だけでその価値があるとは言えませんが^^;
返信する

コメントを投稿