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感想:『屋上ミサイル』

2010年03月18日 22時54分54秒 | 本と雑誌
屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2009-01-10


伊坂幸太郎はまだ2冊しか読んでいないが、本書が非常に伊坂的であることは感じ取れた。

アメリカ大統領が監禁され、テロ集団に核ミサイルの発射ボタンが委ねられた世界。本書冒頭はそんな非常時にも関わらず、人々はまだ危機感に晒されていない東京から始まる。高校の屋上でたまたま顔を合わせた4人が「屋上部」として屋上の平和を守ろうとする物語。
物語の進行に合わせて犯罪の増加や東京からの脱出といったパニック状態が現れる。一方、屋上部の4人は一見関わりのない事件に首を突っ込みながらそれがやがて繋がっていき急展開を迎えることになる。

伊坂幸太郎は一見無関係に見える様々なパーツを組み合わせ、やがて一つの絵として描き出す絶妙な構成力を武器としている。本書の場合、偶然性がどうしても目に付く。いわゆる御都合主義。ただそれは結果的なものではなく、著者も理解してあえてそうしている面がある。しかし、それは読み手を選ぶことになるだろう。少なくともそこにリアリティはない。
大森望は選評でゲーム的リアリズムという東浩紀の言葉を使って本書を評している。物語的なリアリティの追求ではない、ゼロ年代的な物語構造に従って作られた作品なのは確かだろう。御都合主義に鼻白む場面は何度もあったが、それ自体が本書の評価を貶めるとは思わない。

後半の展開の勢いはむしろ伊坂よりも好ましく感じるほどだった。主人公たちが高校生でその若さがうまく描かれた結果だろう。ただし、その若さは未熟さでもあり、キャラクターの魅力に繋がったようには見えなかった。
ひとつ気になったのは暴力の描き方。暴力を否定しないが、本書では不良的な暴力の価値観を提示しただけでそれ以外の価値観が見えてこなかった。ガキの論理だけが肯定されているような描き方は不快に感じられた。

”戯言”シリーズの模倣のような『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』がやがて独自の世界を築いたように、伊坂幸太郎スタイルから独自性を築いていけるのかどうか。それが提示されるまでは本書の評価も低くならざるを得ない。(☆☆☆)


感想:『傷物語』

2010年03月18日 22時18分15秒 | 本と雑誌
傷物語 (講談社BOX)傷物語 (講談社BOX)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2008-05-08


『化物語』の続編にして前日譚。主人公、阿良々木暦が春休み吸血鬼と出逢った物語。

私にとって『化物語』の魅力の大半が戦場ヶ原ひたぎによって構成されているということを実感した作品とも言える。戦場ヶ原というキャラクターの発見が『化物語』全体を貫いていたからこそ他の西尾作品と比べても楽しむことが出来た。彼女と出会う前の物語である本書は、主人公阿良々木暦というキャラクターが前面に現れていて、そのキャラクターがゆえにイライラとした感情を呼び起こされた。

西尾維新の代表作”戯言”シリーズへの評価にどうしてもついて回るゼロ年代的主人公像がある。「りすか」でも2巻以降はその傾向が強まっている。『刀語』は例外となっているが、それは主人公の内面を極力描かなかったから出来たことだった。
『化物語』でも「するがモンキー」でそれが顕著に現れていたが戦場ヶ原の登場によってギリギリ回避された。
しかし、本書には彼女は現れない。

結局、主人公の内面に微塵も共感できない。ヒロイン羽川翼は内面が存在しない記号的なキャラクター。忍野メメという狂言回しの存在で最後まで読ませた作品ではあるが、『化物語』で味わった楽しさはなかった。
西尾維新らしい文体が少し精彩を欠いた印象を受けたが、たまたまなのか、狙ってなのか、この一冊では判断できない。その点も楽しめなかった一因と言える。

偶然同時に読んでいた『シュガーダーク 埋められた闇と少女』が設定がよく似通っていて比較してしまった。文章の腕ではもちろん西尾維新が抜きん出ているが、キャラクターの内面としては新井円侍の方が好感を持って読めた。
西尾のゼロ年代型主人公に対して、新井の主人公は古いタイプのものだっただからだが。10年代型の主人公像は更に共感できない方向へ進んでしまうのか、それとも揺れ戻しのようなものがあるのか気になるところだ。(☆☆☆☆)




これまでに読んだ西尾維新の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』(☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女りすか』(☆☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女 りすか2』(☆☆☆☆)
クビシメロマンチスト―人間失格・零崎人識』(☆)
クビツリハイスクール―戯言遣いの弟子』(☆☆☆☆☆)
サイコロジカル〈上〉兎吊木垓輔の戯言殺し』(☆☆☆)
サイコロジカル〈下〉曳かれ者の小唄』(☆☆☆)
ヒトクイマジカル―殺戮奇術の匂宮兄妹』(☆☆)
ネコソギラジカル(上) 十三階段』(☆☆)
ネコソギラジカル(中) 赤き征裁VS.橙なる種』(☆☆)
ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い』(☆)
新本格魔法少女りすか3』(☆☆)
零崎双識の人間試験』(☆☆☆☆)
零崎軋識の人間ノック』(☆)
化物語(上)』(☆☆☆☆☆☆)
化物語(下)』(☆☆☆☆☆☆)
刀語 第一話 絶刀・鉋』(☆☆☆)
刀語 第二話 斬刀・鈍』(☆☆☆☆)
刀語 第三話 千刀・鎩』(☆☆)
刀語 第四話 薄刀・針』(☆☆☆☆☆)
刀語 第五話 賊刀・鎧』(☆☆☆)
刀語 第六話 双刀・鎚』(☆☆☆☆)
『刀語 第七話 悪刀・鐚』(☆☆☆☆☆)
『刀語 第八話 微刀・釵』(☆☆☆☆)
『刀語 第九話 王刀・鋸』(☆☆☆)
『刀語 第十話 誠刀・銓』(☆☆)
『刀語 第十一話 毒刀・鍍』(☆☆☆☆☆)
刀語 第十二話 炎刀・銃』(☆☆☆☆)