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杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

連続殺人鬼 カエル男 ネタバレあり

2023年07月12日 | 
中山七里(著) 宝島社文庫

口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。
著者について(「BOOK」データベースより)


第8回『このミステリーがすごい!』大賞の最終選考に『さよならドビュッシー』と共にダブルエントリーされたことで話題を呼んだ今作は、刑法39条(心神喪失者の行為は罰せず、心神耗弱者の行為はその刑を減軽する) の是非を問う社会派ミステリーです。

ヒポクラテスシリーズや犬養隼人シリーズ に登場する埼玉県警捜査一課の古手川和也 と上司の渡瀬 の初登場作品のようですが、ヒポクラテス~の法医学研究室のメンバーとのどこかコミカルなやり取りの温かさと違い、今作の古手川刑事は、ひりつく痛みを全身から発しています。
彼が警察官になった理由や内に抱えている自責の念が赤裸々に描かれていて、先にこちらを読んでいたら良かったかな😅 

いきなり全裸で吊るされた若い女性の遺体が発見されるという、かなりショッキングな幕開けです。通報者の新聞配達員が、遺体をスマホで撮影した画像をネットに挙げるという愚行がまさに現代を象徴しているようで寒々とします。

遺体の傍にはひらがなで書かれた稚拙な犯行声明が残されていました。監察医の光崎教授や、犯罪心理学の権威・御前崎宗孝らは犯行の異常性を指摘します。警察は猟奇殺人として捜査を始めますが、第二、第三と犯行が重ねられていきます。
二番目は老人が圧し潰され、三番目は子供がバラバラにされ・・まるでカエルを弄んで殺すようなやり口から、犯人はカエル男と呼ばれて世間を恐怖と混乱に陥れていきます。

埼玉県警に寄せられた2000を超えるタレ込みの中から、過去に性犯罪や殺傷事件を起こし、飯能市に土地勘がある者をピックアップした容疑者リストの中から、古手川は幼女暴行殺害で捕まったものの、カナー症候群と診断され不起訴となり医療少年院に送られ、現在は社会復帰して保護司・有働さゆりの保護観察下にある当真勝雄を訪ねます。

さゆりの音楽療法を受け、歯科医院で雑用をしながら穏やかに暮らす当真を知り、さゆりの奏でる音(楽)に心の深奥を揺すぶられ、また彼女の息子の真人にも好感を抱き始めた古手川でしたが、そのわずか数日後、真人がカエル男の第三の犠牲者となります。
真人が苛められていた現場を目撃して我を忘れて相手(小学生)を脅した古手川には、かつて親友が苛めを受けていたのを見て見ぬ振りをした結果、親友に傷つけられ、彼に自殺されるという過去がありました。

渡瀬は、3件とも飯能市内で名前の五十音順に殺人が行われていると気付きますが、記者会見の席で埼玉日報の尾上記者もこれに気付いて指摘したため、市民の間で恐慌が広がります。更に第四の殺人が起きるに至って、次は自分や家族が狙われるかもしれないという恐怖から、異常犯罪虞犯者リストを求めた市民が飯能警察署に押し寄せ暴徒化していきます。窮鼠猫を噛むとばかりの自己防衛本能がやがて破壊と暴力のための行動に変っていく恐ろしさを、過激な暴力描写でこれでもかと見せつけてくるのには引いてしまいますが、平和ボケの日本では絶対あり得ないと言い切れないところにうすら寒さを感じてしまいます。
暴徒を鎮めるために渡瀬が行ったのは偽の火災発生を知らせるアナウンスとスプリンクラーの発動です。まさに頭を冷やせ!です😁 もっと早くやって欲しかったぞ

当真の務める歯科医院にも市民が押し寄せているとさゆりから連絡を受け、彼の保護に向かった古手川でしたが、そこで被害者たちの共通点に気付きます。そうなると犯人は彼しかいないわけです。自分の推理が間違いであって欲しいと祈るような気持ちで当真の部屋に入った古手川はそこで決定的な証拠を発見しますが、戻ってきた彼に徹底的に痛めつけられます。日頃の気弱そうな姿はなく、どこにそんな力がと思うほどの怪力と獣性を顕にする彼に、既に暴徒化した市民相手に怪我を負っていた古手川は追い詰められていきます。間一髪で救出された古手川でしたが、この場面も思わず飛ばし読みしたくなりました。😱 

事件解決の報告をするためにさゆりを訪れた古手川でしたが、リクエストした曲を弾く彼女の演奏に違和感を覚えます、その正体が当真が犯人とした時の違和感と気付いた時、さゆりの様子が一変。完全防音な密室の暗闇の中で更なる暴力シーンが繰り広げられるに至って、これはバイオレンス作品だったのか?と😞 普通、短期間にこれだけの暴力を受けたら常人なら再起不能ですぞ。今度こそ絶体絶命な古手川君ですが、またまた渡瀬に助けられて九死に一生を得ます。

さゆりの動機が、家のローン費用返済のために息子の生命保険金狙いであり、無差別猟奇殺人を装って犯罪被害者給付金をも騙し取ろうとしていたというのは何だかな~~。更に真人の体の痣は母親であるさゆりが虐待していたというのだから唖然とします。

渡瀬が古手川を伴って訪れたのは御前崎教授です。さゆりは府中の少年院=関東医療少年院に収容された過去があり、その時の矯正スタッフのリーダーが御前崎で、彼から薦められたピアノで才能を開花して社会復帰しており、更に当真も御前崎が担当していたことから、さゆりが当真の保護司として推薦されていたのです。

以上の理由からの報告かと思いきや、渡瀬は自分の妄想と断り、さゆりもまたある人物に操られていたと語ります。それは3年前に一人娘と孫を(後に)精神障害と診断された17歳の少年に殺された御前崎だと。 彼の本当の目的は、犯人の少年を無罪にした4人目の被害者の人権派を名乗る弁護士を殺すことだったのです。そのためにさゆりを再び虐待してナツオ(カエル男本人の独白として折々に登場する名前がさゆりを指していたとは!!)の人格を呼び戻すという残酷な仕打ちをしていました。

我が子を愛せず借金返済のために殺すことを厭わないさゆりも、身内の復讐のために何の罪もない者まで犠牲にする御前崎も常人の感性からかけ離れています。

では無罪となった当真は純粋な被害者なのでしょうか?
小説の最後の一文でその思いは打ち砕かれます。そして渡瀬が古手川に語った「因果応報」が間違いなく(現状、法で罰することのできない)御前崎の身に降りかかるだろうことに救われる気がすることに、少し引いてしまうのです。
それにしても、最後は渡瀬の一人舞台となるのは、作者の手抜きな感が否めないんですが😵 

犯人が二転三転するどんでん返しの手法はこの作者の特徴でもあるようですが、わかってみれば、確かに伏線は随所に散らばっていました。
ナツオというカナ名から男だと思い込まされていたり、診察券や銀歯などの歯科受診に繋がる共通点、鍵盤を叩く力強い指、息子への苛めに対して客観的過ぎる対応などなど、巧妙に仕込まれているんですね。
だからこそ、種明かしになると展開に強引さが目立つのが残念な気がしたかなぁ。
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