杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ただいま神様当番

2023年07月16日 | 
青山 美智子 (著) 宝島社(刊)

ある朝、目を覚ますと腕に大きく「神様当番」という文字が!突如目の前に現れた「神様」のお願いを叶えないと、その文字は消えないようで…?「お当番さん、わしを楽しませて」幸せになる順番を待つのに疲れたOL、理解不能な弟にうんざりしている小学生の女の子、SNSでつながった女子にリア充と思われたい男子高校生、学生の乱れた日本語に悩まされる外国人教師、部下が気に入らないワンマン社長。小さな不満をやり過ごしていた彼らに起こった、わがままな神様の奇跡は、むちゃぶりなお願いから始まって―。ムフフと笑ってほろりと泣けて、最後は前向きな気持ちになれる。5つのあたたかい物語。(「BOOK」データベースより)


5つのお話の主人公たちは、毎朝同じ時間に「坂下」バス停を利用する5人の乗客です。顔見知り程度の彼らですが、ある朝急に「神様当番」に任命されるんですね。バス停に一番乗りした日に「おとしもの」と書かれた付箋が付けられた品物を思わず持って来てしまった翌朝に神様は現れます。それは、限定版のCDだったり、憧れの腕時計だったり、最新型のワイヤレスホンだったり、急に雨が降り出した時の傘だったり、一万円札だったり、それぞれが一番欲しがっていたものです。

朝目覚めると、左腕に大きく「神様当番」と書かれ、「神様」を名乗るお爺さんの願いを叶えないと腕の文字が消えないと言われます。小さな勾玉となったお爺さんは左腕に出入り自由で、その左手は持ち主の思いとは無関係に勝手な行動をし始めます。でもその行動は本人が心の中で本当はそうしたいと考えていたこと。つまり神様とは自身の本心なんですね。神様は本人の体験を通じてそのことに気付かせようとしていたのです。

物語が進んでいくにつれ、単に同じ時間に同じバスに乗る顔見知りというだけでなく、それぞれに会話が生まれ次第にその輪が広がっていきます。咲良の勇気ある行動を見て尊敬の念を抱く千帆、直樹が菊子の誕生祝いの花束を作ってもらった花屋の店員はリチャードの住むアパートの大家の娘で、咲良が作った指輪を買ったカップルの彼氏は直樹の同級生だったり、咲良が友だちになったのが喜多川葵だったりなどなど、それぞれがとても自然な形で繋がっていました。

1 水原咲良(OL)
印刷会社の事務員で、人気アイドルグループ「キュービック」のファンの咲良は、自分に自信が持てずに、いつかは自分にも楽しいことが来ることを夢見て楽しくない日々を過ごしていました。楽しいことが自分に起きるのを待っていた咲良ですが、バスの中で、妊婦に席を譲らない男性を自分の左腕がむんずと掴んで立たせてしまい咲良を驚かせますが、バスを降りた時その男性が「気が付かなかった、ありがとう」と礼を言って立ち去るエピソードがきっかけとなり、待つだけでなく自分から行動しようという気持ちになっていきます。 素直に相手の言葉を受け止めて自分の行動を見つめ直し始めた咲良は、喜多川葵という友人と新たな趣味を得るのでした。

2 松坂千帆(小学生6年生)
出来の悪い弟の勝(スグル)に始終苛々させられている千帆は、出来の良い弟が欲しいと思っていました。ある日ピアノ教室にスグルと同い年の男の子が入ってきます。礼儀正しく上品な服装の彼が弟だったら良いのにと思ってしまった千帆でしたが、先生が大切にしているリアドロ人形を触って壊してしまった彼が千帆に罪を被せたことに衝撃を受けます。夕食で大好きな唐揚げも少ししか食べられなかった千帆に気付いて心配してくれたのはスグルでした。スグルは学校で飼っているウサギの一匹が元気がないことにも気付いていました。ウサギのことも姉のことも大好きだからこそよく見ていたのです。そのことを用務員さんに指摘されて気付いた千帆が一緒の当番の男の子(ガタイが良くて強そう)の前で思わず泣いてしまった時、姉が虐められていると誤解したスグルが決死の形相で上級生である男の子に立ち向かおうと駆け付けてきます。その姿を見て改めて千帆スグルルのことを最低だけど最高の弟だと思ったのでした。
千帆に濡れ衣を着せた男の子がそのまましらばっくれずに母親に話して謝ってくれます。そのことをお母さんから聞かされた千帆は自分の正直な気持ち(お姉ちゃんではなく千帆って呼んで欲しい)を話すことができました。お姉ちゃんだから弟の面倒を見なくてはという自他の圧力がちょっと重かったんだよね。でもスグルが生まれた時「これからはお姉ちゃんって呼んで」といったのは千帆だったみたいだけど😁 

3 新島直樹(高校生)
リア充に憧れるナオキですが、実際は友だちも出来ず、高校生になってやっと買ってもらったスマホで始めた飼い猫の「オクラ」の写真をツイートしているフォロワーもたった一人。いつもツイートに「いいね」をくれるアザミのことが気になりながらも、リアルで会う勇気もなく、バーチャルだから良いのだと自分を誤魔化していました。同級生の中田君は成績も良くクラスの人気者で綺麗な彼女もいてまさにリア充に見えて羨ましく思っていました。そんなナオキが拾ったのは最新式のワイヤレスホン。ところが翌朝現れた神様から「リア充」のお願いをされてしまいます。(ちなみにこれまでも神様の出現で拾った品物は消えちゃうんですけどね。)
左手の勝手な行動でアザミとリアルで会うことができたナオキでしたが、自分のことを良くみせたくてバスケ部のレギュラーだと嘘を付いたため、試合を見に行きたいと言われて困惑し、話を逸らしてしまいます。そんなナオキを見てアザミは自撮り画像を「盛って」いたことで嫌われたのだと勘違いしてしまいます。振られたと落ち込むナオキにリア充だと思っていた中田君は、必死に努力して今の自分があり、それで彼女と付き合うことができたと話し、ナオキを励まします。努力もせずにただリア充を願っていたナオキは、完全な人なんていない、不完全だからこそ自然なんだと気付きます。アカウントも消してしまった彼女にもう一度会いたくてナオキは二人だけに通じるツイートをします。正直に自分がついた嘘を告白して謝ったナオキの腕からあの4文字は消えていました。

4 リチャード・ブランソン(大学非常勤講師)
昔隣に住んでいた日本人夫婦がきっかけで日本が好きになり、イギリスからやってきたリチャードは、大学で英語の非常勤講師をしていますが、授業に耳を傾けるどころか乱れた日本語が飛び交う学生たちの姿に失望します。学食で、学生たちが自分の授業はつまらないと話しているのを聞いてますます意欲を失った彼は、一年の契約が切れたらイギリスに帰ろうと考えます。そんな彼の前に現れた神様の願いは「美しい言葉で話をしたいでした。
太文字の「神様当番」をクールと思ったり、神様とのどこかずれた会話にクスっと笑わされ、異国で感じる戸惑いにはっとさせられたり・・・リチャードはとても真面目な人で、だからこそ自分の感情を出せずにモヤモヤを溜め込んでしまったのね。
面倒見の良い大家の娘から「怒っているとか悲しいとか、そういう気持ちは一番しっかり伝えなくちゃだめだよ。その後にちゃんと笑うためにもね」と言われたリチャードは、左手の助けもあり、不真面目な態度の学生たちを前に自分の気持ちをはっきり言葉に出して伝えます。翌日、反抗的な態度だったハヤトから、思わぬ告白と謝罪を受けたリチャードは、自分こそが彼らを思い込みで見ていたのだと気付くのです。相手と心のこもった言葉を交わすこと、「スピーク」ではなく「トーク」がしたかったリチャードの願いはこの日叶ったのね。

5 福永武志(零細企業社長)
小さな会社の社長をしている「俺」に神様は「偉くなりたい」とお願いします。これまで必死に働いて自分の会社を立ち上げ人を使うようになった彼は、作業服を脱いでスーツを着る人生=偉くなることを望み、神様が左腕に入ったことで自分が神になったと勘違いするのですが、従業員に離反されると疫病神扱いするのが可笑しかったです。憤慨し途方に暮れる彼を妻は鷹揚に励まします。ただ一人残った女性事務員の喜多川葵から誘われたストリップショーで愛和ネネのステージを見たことで、彼の心境に変化が生じます。
自分独りで築いてきたと思っていたのは間違いで、周囲が支えてくれたからこそ今があるのだと気付いたのです。左手が勝手に受注した仕事をするため、葵を伴い久しぶりに作業服を着てエアコンの取り付けに向かった家で、仕事を始めた頃の気持ちを思い出した彼は、その家の主婦が天井の電球を取り替えたくても自分でするのが怖かったことを知り、いつもトイレを借りに来るお婆さんの本当の理由に思い至ります。
初心に還った彼は、ストリップバーで知り合った大企業の社長の正社員の誘いを断り、妻(経理担当)と葵と共に裸一貫から始めようと話し合います。
果たしてお婆さんは家のトイレの電球が切れたのを替えることができず暗いトイレに入れずに我慢していました。電球を取り替えて灯りがついた時の嬉しそうな顔を脚立の上から見た彼は、自分が既に「高いところからの景色」を見ていたことに気付くのです。

神様が宿った左手は、その持ち主が本当はやりたかったことをします。
憧れて真似して学んで自分を生きながら自分のものにしていくうち、自分も誰かの前に何かを落としていくと語る神様、深いです😳 だからこそ神様なんだね。5人の願いを叶えた神様は今度はどこに現れるのかな😀 





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