杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ファンタスティックMr.FOX

2012年02月04日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2011年3月19日公開 アメリカ=イギリス 87分

野生のキツネ、Mr.Fox(声:ジョージ・クルーニー)は盗みのプロ。日々の仕事は、農家からニワトリやアヒルを失敬すること。妻のMrs.Fox(声:メリル・ストリープ)から妊娠していると告げられた秋のある日。2人でひな鳥をいただこうと企んでいると、うっかり罠にかかってしまい、絶体絶命のピンチに陥る。農家の主人に捕えられた檻の中で泥棒家業から足を洗うことを誓うMr.Fox。そして12キツネ年後。ガゼット紙の記者として働くMr.Foxは、Mrs.Foxと12キツネ歳になる変わり者の息子アッシュ(声:ジェイソン・シュワルツマン)の3人で暮らしていた。今の生活にそれなりに満足しているMrs.Foxに対して、42キツネ歳になったMr.Foxは、貧乏な穴ぐら生活に飽き始めていた。見晴らしのいい家を買って、もっといい暮らしがしたいという欲求にかられたMr.Foxは、丘の上に立つ大木の家を購入しようとする。しかし、アナグマの弁護士バジャー(声:ビル・マーレイ)は大反対。丘の反対側には意地が悪く、薄汚く、醜い3人の農場主が住んでいるということが、その理由だった。彼らの家から丸見えの大木一体は極めて危険な地域だという。それでもMr.Foxはバジャーの忠告を無視して家を購入、大木へ引っ越してゆく。そして、これをきっかけにMr.Foxの泥棒稼業が復活。野生の本能が目覚めたMr.Foxは、フクロネズミの管理人カイリー(声:ウォーリー・ウォロダースキー)を巻き込んで、3人の農場主たちの飼育場から昔のように獲物を盗むことに熱中する。獲物を盗まれた農場主たちの怒りは絶頂に達し、キツネVS農場主の穴ほり合戦の火蓋が切って落とされた。果たして、彼らは無事逃げきれるのだろうか……?(goo映画より)


原作はロアルト・ダールの「すばらしき父さん狐」。小さい頃から原作のファンだったというウェス・アンダーソン監督によるストップモーション(コマ撮り)アニメです。
動物たちは二足歩行で人間のような体型で洋服を着ています。作品全体がオレンジ・黄・ベージュといった秋色トーンで統一されているのも特徴的でした。

ヒーローでありながら弱さも合わせ持つセクシーな父さん狐の声はジョージ・クルーニー芸術性に優れた現実的で忠実な妻狐にメリル・ストリープの落ち着いた声が似合っていました。他に体育コーチのスキップ(オーウェン・ウィルソン)ネズミのラット(ウィレム・デフォー)やエイドリアン・ブロディもカメオ出演(でもどの役かわからなかった・・調べたところリックキティ役でした)

Mr.Foxは妻の妊娠を機に泥棒家業から足を洗いますが、憧れの家を買い人間のそばに引っ越したことで、鶏を狩るという狐としての野生本能に目覚め、妻との約束を破って泥棒を再開してしまいます。
ところが相手が意地の悪い3人の人間の農場主のビーン(マイケル・ガンボン)、ボギス、バンスたちだったため、彼らの反撃に遭ってMr.Foxは尻尾を失い、家である大木を倒され、トラクターを使って根こそぎ丘を掘り返されたことで一帯の動物たちも巻き添えで窮地に立たされてしまいます。

一方息子のアッシュは、尊敬する父さんに近づこうと努力するのですが、体も小さく運動能力もパッとしない自分自身に苛立っています。さらに父親の病気のためにMr.Fox家に預けられた従兄弟のクリストファソン(エリック・アンダーソン)が優秀で父さんのお気に入りになったことも気に入らず、何かと従兄弟に意地悪をします。いわば思春期の難しい年頃のようです。

さて、地上を包囲され、地下に逃れたMr.Foxたちですが、自分の欲望で始めたことが家族や回りに跳ね返ってピンチを招いたことを後悔・反省するのかと思えば、人間たちの裏をかこうと画策するあたり、ただものではないね
彼は仲間に呼びかけ、農場主たちの裏をかいて彼らの食料を根こそぎ奪ってしまうのですが、それはますます怒りに火を注ぐ結果を引き起こします。全ての原因は自分にあることを悟ったMr.Foxは自分が犠牲になることで皆を救おうとするのですが、尻尾を取り返そうと出かけた子狐たちのうち、クリストファソンが捕えられてしまったことで、彼らは逆に一致団結し、子狐を助けようと作戦を練るのでした。

動物たちの救出作戦は成功し、アッシュとクリストファソンも仲良くなりますが、状況は依然地下生活を余儀なくされています。しかしMr.Foxのこと、今度は農場主たちの巨大スーパーに忍び込み・・・というラストは強かな動物たちの様子を映します。

善き父親として家庭人としての役割と野生動物としての誇り、どちらもMr.Foxには大切です。妻もそんな夫を理解しています。Mr.Fox一家や隣人たちの姿は人間に置き換えることもできます。また農場主たちのなりふり構わぬやり方は環境破壊を風刺しているようにも見えました。
児童文学ですが、子供だけでなく、いえ、大人だからこそ感じることの多い作品かも

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真夏の方程式 

2012年02月03日 | 
東野 圭吾(著) 文藝春秋(刊)

夏休みを伯母一家が経営する旅館で過ごすことになった少年・恭平。仕事で訪れた湯川も、その宿に滞在することを決めた。翌朝、もう一人の宿泊客が変死体で見つかった。その男は定年退職した元警視庁の刑事だという。彼はなぜ、この美しい海を誇る町にやって来たのか…。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。(「BOOK」データベースより)


恭平と知り合ったことで、彼の伯父が営む旅館に宿をとった湯川が事件に巻き込まれる中で、少年と深く交流することになります。無愛想な湯川になつく恭平の姿を通して湯川という人物の本質が見えてくるようでちょっと微笑ましくもありました。湯川がこの地にやってきたのは海底資源開発事業デスメック側から調査を依頼されたからで、環境保護活動をしている宿の一人娘の成美に警戒されますが、湯川自身は科学的な興味しか持ち合わせていません。ただ、彼女と関わることで小説の舞台である玻璃ヶ浦の海の素晴らしさを理解しますが

旅館の経営者である重治と節子夫婦とその娘の成美の間には過去に重大な秘密があります。
もし、その最初の時点でこの夫婦が本心を打ち明けあうことが出来ていたら、今回の事件は起きなかった筈です。けれど、目の前にある幸せを逃したくない、愛する者を苦しめたくないという強い思いを誰も非難することはできないのです。とても悲しいことではあるけれど・・。

物語は登場人物たちそれぞれの視点で交互に綴られていきます。
『容疑者Xの献身』の後のお話のようで、謎解きの結末も共通点がありました。
一酸化炭素中毒という死因に対するトリックについては物理的な専門性は見られませんでしたが、恭平と行う「自由研究」で楽しめるからいっか

今回の被害者については「砂の器」を連想させます。自分の贖罪のために開けてはならなかった扉を開けようとしたことが事件の発端であり、独りよがりの好意がさらなる悲劇を生んでしまったからです。

結局当事者たちは真相に気付いても確かめるのが恐くて前に進めず、湯川や草薙、内海たちも公にせずに胸に秘めることになります。真実を明らかにすることが必ずしも幸福に繋がらないという着地点には少し疑問も残りますが、湯川が恭平へ示した未来へのアドバイスが良かったので良しとしようかな。

『今回のことで君が何らかの答えを出せる日まで、私は君と一緒に同じ問題を抱え、悩み続けよう。忘れないでほしい。君は一人ぽっちじゃない。』(文中より)

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J・エドガー

2012年02月01日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2012年1月28日公開 アメリカ 137分

人生の終盤に差し掛かったFBI長官・ジョン・エドガー・フーバー(レオナルド・ディカプリオ)は、部下(エド・ウェストウィック)に命じて回顧録を書き取らせる。記憶はFBI誕生以前へと遡り、彼の表の経歴が語られるとともに、その裏側の野望、企み、葛藤、苦悩が次第に明らかにされていく……。約50年もの間、アメリカで大統領さえ及ばない強大な権力を手にし、アメリカ中のあらゆる秘密を掌握し、国さえも動かしていたという事実。8代の大統領の誰もが彼を恐れた。それが、ジョン・エドガー・フーバーFBI初代長官だった・・・。


フーバーは、20代でFBI前身組織の長となり、以後、文字通り死ぬまで長官であり続けました。今日の科学捜査の基礎を確立し、犯罪者の指紋管理システムを作りあげた業績は賞賛に値します。FBIを子どもたちの憧れの的に押し上げた英雄です。しかし彼には常に黒い疑惑やスキャンダラスな噂があったようです。映画ではそれについても3人の人物を通して深く掘り下げていました。

エドガーに多大な影響を与えたのは何といっても母親アンナ(ジュディ・デンチ)のようです。彼女はエドガーを厳しく且つ慈しんで育て、息子は母の賞賛を得んと努力し典型的なマザコンとなりました。アンナが彼の性癖を察して、決して息子の自尊心を傷つけず、さり気なく、でも決然と釘を差すシーンが見事です。

また、副長官であり公私にわたりエドガーを支えたクライド・トルソン(アーミー・ハマー)の存在があります。映画の中で2人は恋人として描かれます。母に忠告されたエドガーが妻帯を考えているとクライドに告げた時の諍いが、逆に2人をより強く結びつけ、生涯を互いに捧げる決意をさせたように映りました。

どうやらエドガーはバイだったようで、初めてのプロポーズは秘書のヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)でした。それも3度デートしただけで即決だもんなぁ仕事が恋人だと断られても「では私の個人秘書になって欲しい」と申し込み、ヘレンも了承するのですから、互いに似たところがあったのでしょう。そして彼女はまさに生涯にわたり忠実な秘書として仕え、最後の機密情報の処分も彼女に任されるほどにエドガーから信頼されていました。

私はこのエドガーという人物は好きになれませんでした。強烈なエリート意識の塊りで傲慢なくせに臆病で、国家を守るという絶対的な信念を持ってはいましたが、そのためには法を曲げることも厭わないというのは狂信者の危険思想だと思うのです。暴力には暴力を持って対抗するというのは左翼であろうと右翼であろうと同じ穴の狢に見えるのです。自分と異なる意見を受け付けない、聞く耳を持たないというのはとても危険なことだと思います。

エピソードの一つにチャールズ・リンドバーグ( ジョシュ・ルーカス)の愛児の誘拐事件が登場します。全米を揺るがした凶悪事件を踏み台に、エドガーは自分と組織に都合の良い体制を着々と作り上げていきました。

また銀行強盗の逮捕シーンも出てきます。『パブリック・エネミーズ』で登場するデリンジャーの事件では、手柄を部下から取り上げるような狡い面も描かれていました。両作品の劇中で、どちらの主人公(フーバーとデリンジャー)も映画館で報道ニュースを観る場面があるのですが、立場の正反対な(長官とギャング)2人を(監督も違うのに)同じシチュエーションで描いているのが面白いです。

大統領を始めとする要人たちの秘密を調べ上げて作った極秘ファイルを盾に、エドガーは長官の座に居座り続けましたが、彼の考える「正義」とは「彼に都合の良い世界」と同義語のように感じました。

そもそも人物自体に魅力は感じなかったのにこの映画を観たのは、監督がクリント・イーストウッドだったから。そしてやはりフーバー自身には共感も好感もなかったけれど、監督が単にこの人物を賞賛するために作ったわけではないことにはな気持ちになりました。

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