杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

あぜ道のダンディ

2012年02月09日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2011年6月18日公開 110分

北関東の地方都市。50歳になった配送業の宮田淳一(光石研)は、大学浪人中の俊也(森岡龍)と高校3年生の桃子(吉永淳)と3人暮らし。妻は39歳で他界、子どもたちとの会話も殆どなくあってもかみ合わない。職場でも無愛想で同僚(藤原竜也)に話しかけられても、めったに返事をしない宮田の唯一の楽しみは、仕事を終えた後、親友の真田(田口トモロヲ)と居酒屋で酒を酌み交わすこと。最近胃に不調を覚え、亡き妻と同じ胃ガンだと思い悩む宮田は、子どもたちには弱みを見せられず、真田に悩みを打ち明ける。そんな中、俊也と桃子が東京の私立大学に合格。4月には家を出て、東京で新生活を始めることになった。子供たちと思い出を残したいと娘を女子高の前で待ち伏せたり、息子とゲーム対戦するために携帯ゲーム機を購入するのだが、一緒にプリクラを撮ろうと言い出せずに終わったり、買ったゲーム機が息子のと対応してなかったり・・。見かねた真田は俊也を遊園地に誘い、二人きりで話をする。子供たちも本当は父親の気持ちを分かっていたが、素直にコミュニケーションがとれずにいたのだった。そして子供たちが東京へ旅立つ日が来た・・・。


とにかく不器用で無骨な父親です。同僚に話しかけられたら返事くらいしても良いのにと思っちゃうし、親友の真田に対しても子供に対してもいきなり怒り出すあたり、ちっちぇえなとも思ってしまいます。通勤時、宮田は自分を競馬馬に見立てて自らに鞭を当てます(実際はお尻のあたりを叩くだけですが)。観るのは好きだけどお金がないので馬券は買いません。
癌だと思い込み、自分の遺影用の写真を拡大プリントして子供たちの部屋に忍ばせたりします。誤解だとわかるとほっとして真田の前で泣き出します。キカイ音痴なくせに店員に聞かずに買ったゲーム機は息子のものに対応していなくて、結局真田と2人で対戦しています。

・・・宮田という人物は、多分とっても等身大な父親像なんだよね、それはもう悲しいくらいに。だからこそ観ていて歯痒くなっちゃうのかも。

子供たちも最初は父親に日常の挨拶もしないイマドキの生意気なやつらに見えます。だけど・・・ちゃんとわかってるんだよね~~。父親の性格もその経済状態も。桃子は援交誘われても乗らないし、逆に友だちと一緒の大学だからというだけで選んだ東京での大学生活に疑問を感じ父親にすまないと思うような真面目な女の子でした。

父親の介護をして看取り、子供ができないことで妻とうまくいかなくなり別れた真田にとって、宮田の家族はとても近しい存在です。だから宮田を見かねて俊也に「君のお父さんはダンディだよ。見た目はかっこよくないけど、心は渋いんだ。君も男ならわかってやってほしい」ともっともらしく説教しますが、言われるまでもないのです。俊也が住まいに選んだのは桃子のセキュリティ万全なマンションとは大違いの二昔くらい前の貧乏学生が住んでいたような古いアパートだもんなぁ
(でもさ・・そんなに離れてるんかい?兄妹の住まい。都内なら一緒に住めばいいのに私学の学費と住居費、お父さんの稼ぎじゃ無理っぽいんだけどな)

子供たちの新居に荷物を運び入れて戻ってきた宮田がいつもの店のいつもの席で、真田を前に泣くんです中学時代共に苛められっ子だった2人は、共に長い年月をかけて友情を深く結んできたんだってことがよくわかるシーンです。子供たちとの別れに際し、宮田は真田の、お気に入りで彼自身へのご褒美で買ったという帽子を借ります。自分のダンディズムを貫くためにどうしても必要だったのです。心情を考えると何だかこちらも切なくなります。

宮田のダンディズム
・男は弱音を吐かない
・男は見栄をはる
・男は陰ながら思い遣る

大きな事件が起こるわけでもなく、子供たちが家を出て行くまでの数ヶ月を淡々と描いている中で、父として子供としての相手を思いやる気持ちがこれまた淡々と映し出される作品です。

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