杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

J・エドガー

2012年02月01日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2012年1月28日公開 アメリカ 137分

人生の終盤に差し掛かったFBI長官・ジョン・エドガー・フーバー(レオナルド・ディカプリオ)は、部下(エド・ウェストウィック)に命じて回顧録を書き取らせる。記憶はFBI誕生以前へと遡り、彼の表の経歴が語られるとともに、その裏側の野望、企み、葛藤、苦悩が次第に明らかにされていく……。約50年もの間、アメリカで大統領さえ及ばない強大な権力を手にし、アメリカ中のあらゆる秘密を掌握し、国さえも動かしていたという事実。8代の大統領の誰もが彼を恐れた。それが、ジョン・エドガー・フーバーFBI初代長官だった・・・。


フーバーは、20代でFBI前身組織の長となり、以後、文字通り死ぬまで長官であり続けました。今日の科学捜査の基礎を確立し、犯罪者の指紋管理システムを作りあげた業績は賞賛に値します。FBIを子どもたちの憧れの的に押し上げた英雄です。しかし彼には常に黒い疑惑やスキャンダラスな噂があったようです。映画ではそれについても3人の人物を通して深く掘り下げていました。

エドガーに多大な影響を与えたのは何といっても母親アンナ(ジュディ・デンチ)のようです。彼女はエドガーを厳しく且つ慈しんで育て、息子は母の賞賛を得んと努力し典型的なマザコンとなりました。アンナが彼の性癖を察して、決して息子の自尊心を傷つけず、さり気なく、でも決然と釘を差すシーンが見事です。

また、副長官であり公私にわたりエドガーを支えたクライド・トルソン(アーミー・ハマー)の存在があります。映画の中で2人は恋人として描かれます。母に忠告されたエドガーが妻帯を考えているとクライドに告げた時の諍いが、逆に2人をより強く結びつけ、生涯を互いに捧げる決意をさせたように映りました。

どうやらエドガーはバイだったようで、初めてのプロポーズは秘書のヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)でした。それも3度デートしただけで即決だもんなぁ仕事が恋人だと断られても「では私の個人秘書になって欲しい」と申し込み、ヘレンも了承するのですから、互いに似たところがあったのでしょう。そして彼女はまさに生涯にわたり忠実な秘書として仕え、最後の機密情報の処分も彼女に任されるほどにエドガーから信頼されていました。

私はこのエドガーという人物は好きになれませんでした。強烈なエリート意識の塊りで傲慢なくせに臆病で、国家を守るという絶対的な信念を持ってはいましたが、そのためには法を曲げることも厭わないというのは狂信者の危険思想だと思うのです。暴力には暴力を持って対抗するというのは左翼であろうと右翼であろうと同じ穴の狢に見えるのです。自分と異なる意見を受け付けない、聞く耳を持たないというのはとても危険なことだと思います。

エピソードの一つにチャールズ・リンドバーグ( ジョシュ・ルーカス)の愛児の誘拐事件が登場します。全米を揺るがした凶悪事件を踏み台に、エドガーは自分と組織に都合の良い体制を着々と作り上げていきました。

また銀行強盗の逮捕シーンも出てきます。『パブリック・エネミーズ』で登場するデリンジャーの事件では、手柄を部下から取り上げるような狡い面も描かれていました。両作品の劇中で、どちらの主人公(フーバーとデリンジャー)も映画館で報道ニュースを観る場面があるのですが、立場の正反対な(長官とギャング)2人を(監督も違うのに)同じシチュエーションで描いているのが面白いです。

大統領を始めとする要人たちの秘密を調べ上げて作った極秘ファイルを盾に、エドガーは長官の座に居座り続けましたが、彼の考える「正義」とは「彼に都合の良い世界」と同義語のように感じました。

そもそも人物自体に魅力は感じなかったのにこの映画を観たのは、監督がクリント・イーストウッドだったから。そしてやはりフーバー自身には共感も好感もなかったけれど、監督が単にこの人物を賞賛するために作ったわけではないことにはな気持ちになりました。

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