杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ニセ札

2010年07月12日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2009年4月11日公開 94分

終戦直後、緑の山と清流に抱かれた小さな村。古くから和紙の産業で知られていたが、戦後の物資の少ない中、人々は貧しい生活をしていた。小学校では、軍国主義の本を処分したので、子供たちが読む本もない。ある日、小学校の教員、かげ子(倍償美津子)のもとに、教え子の大津(板倉俊之)からニセ札作りの計画が持ちかけられる。最初はつっぱねたが、知的障害者の哲也(青木崇高)を引き取り育て、村人の苦労も知っているかげ子は、村の名士、戸浦(段田安則)の説得で腹を括る覚悟を決める。

キム兄(木村祐一)の長編監督デビュー作です。
軍国主義に染まった本や習字を焼く場面で始まる冒頭はそれまでの価値観が崩壊して放心するかげ子の心境を映し出しています。殆ど本のない図書室と物語のラストの図書室の状況の対比が見事です。

軍人として生死の境を生きてきた戸浦が国を相手にした勝負としてニセ札作りに積極的に加わった気持ちも、生徒が貧しさゆえに進学を諦めて働きに出なければならなかったり、学校に満足に本もない状況から犯行に加わるかね子の気持ちも、しっかり伝わってきます。

最初から胡散臭い大津の裏切りは実は情婦のみさ子(西方凌)の示唆。けれど小笠原(三浦誠己)に捕まり殺されちゃうんですねぇ。で、あっけなく死体が発見されてしまって、村に警察がやってくる。焦って未完成の「作品」を使うことで発覚しちゃうというのは、おそまつなように思えるけれど、寒村で名も無い人々の犯罪ということを考えれば、当然な帰着なのかもしれません。洋画のようなスピード感やプロっぽさは微塵もないのが逆に新鮮でリアリティがあるかも。

にせ札作りの途中、川原でピクニック&記念写真の場面があり、メンバーの写真館主・花村(木村祐一)、紙漉き職人・喜代多(村上淳)らと笑顔で語らう姿は実に楽しそうで充実感に溢れているのが面白いの。

法廷でのかね子の発言こそがこの作品の肝です。
知的障害のある哲也が飛ばすお札で作った紙飛行機や自分で書いた「お札」の乱舞に群がる傍聴席の人々の様子はまさに拝金主義を皮肉った結末だと思います。

金儲けではなく貧しい村人のために計画され、ほかならぬ村人たちによって出資された前代未聞の犯罪は、お金とは何かを鋭く、かつユーモラスに問いかけていました。

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