杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

歩いても歩いても

2010年07月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2008年6月28日公開 114分

ある夏の終わり。横山良多(阿部寛)は妻ゆかり(夏川結衣)と息子あつし(田中祥平)を連れて実家を訪れた。開業医だった父(原田芳雄)とそりの合わない良多は失業中ということもあり、久々の帰郷も気が重い。姉ちなみ(YOU)の一家も来て、老いた両親の家には活気が溢れる。得意料理を次々こしらえ振舞う母(樹木希林 )と相変わらず家長としての威厳にこだわる父。ありふれた家族の風景だが、今日は、15年前に亡くなった長男純平の命日だった・・。


台所での母と娘の何気ない会話から始まる物語は、まな板の上で野菜を切る包丁の音や茹で上がった枝豆をザルに入れて水切りする音、塩を振る音、豆を出してご飯に混ぜる様子など、日常のありふれた、でも見るからに美味しそうな音と画で溢れています。

一方、電車の中の良多たち夫婦の会話で、彼らにとってはこの帰郷があまり気の進まないものであることがわかります。それはそりの合わない父の存在に加えて現在失業中であるという良多の負い目や、子連れの再婚であることに気を回すゆかりの緊張が関係しているようです。

実はこのお母さん、良太の結婚相手が再婚であることを快くは思っていないので、表面的には和やかで親しそうにしながらも、言葉の端々にそうした思いが現れちゃってるんですねぇ。嫁としてはなんとも気詰まりな滞在なわけですが、ゆかりさんは不満を胸のうちに仕舞ってなかなか出来た嫁をしています。

更に、久々の家族の集まりが、亡くなった兄の命日の墓参りのためであること、死の原因が、海で溺れかけた少年を助けたことだったことなどが明らかになっていきます。
跡継ぎと期待されていた兄に対する両親の思いの深さは親として理解できるのですが、助けられた少年が成人した後も毎年命日に訪問することを半ば強要する母の心の奥にある暗い思いには、情の怖さを感じました。でも・・・自分が同じ立場ならこのお母さんを非難はできないかも

兄にばかり期待が集まって拗ねちゃってたみたいな良多の複雑さも伝わってきますし、姉夫婦のちょっと打算の入った同居の申し出を、良多が遊びに来にくくなるだろうという親心からも浮け渋る母の思いとか、本当に何気ないやりとりのなかに、個々の感情が見え隠れする場面に、家族というものの愛しさ、厄介さ、残酷さが浮かび上がる構成が見事です。ずっと変わらない家族の絆。でも年月とともに否応なく変わっていく家族の繋がり。懐かしいような物悲しいような複雑な思いが残りました。

タイトルは坂と階段の多いロケーションを人生に例えたのでしょうか?両親の思い出の曲として出てくる「ブルーライトヨコハマ」の歌詞にも引っ掛けているのかなぁ。

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