杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ハケンアニメ!

2023年01月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2022年5月20日公開 128分 G

連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳(吉岡里帆)。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が…。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理(柄本佑)は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」だけど日本中に最高のアニメを届けたい! そんなワケで目下大奮闘中。最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴(中村倫也)監督の復帰作だ。王子復活に懸けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)…しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら “ハケン=覇権” を争う戦いを繰り広げる!!
その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?(公式HPより)


辻村深月がアニメ業界で奮闘する人々の姿を描いた小説「ハケンアニメ!」の映画化です。監督は「水曜日が消えた」の吉野耕平。
劇中に登場するアニメは「テルマエ・ロマエ」の谷東監督や「ONE PIECE STAMPEDE」の大塚隆史監督ら実際に一線で活躍するクリエイター陣が手がけていて、梶裕貴ら人気声優が多数出演しています。

アニメの覇権=業界トップを取るため奮闘するアニメ業界。地方公務員からアニメ業界に飛び込んだ斎藤瞳は、期待の夕方枠に抜擢されて王子千春監督のアニメ「運命戦線リデルライト」と視聴率を争うことになりますが、やる気が空回り気味の新人女性監督の風当たりは強く、彼女を推薦したチーフプロデューサーの行城は、ビジネス優先のスタンスで、宣伝のために瞳を振り回し製作に集中させてくれず、この作品に全てをかけていた彼女のストレスは溜まっていきます。

王子監督は、デビュー作「光のヨスガ」以来8年間スランプに陥っており、今作が復帰作です。瞳は貧しい家に育ち、「魔法なんてあるはずない」と醒めた目で友だちが遊んでいるのを眺めているような夢も希望も持てない子供でした。大人になって「光のヨスガ」を見て、子供の頃にこのアニメと出会っていたら救われたかもしれないと思うようになり、自分も見ている人に魔法をかけるような作品を作って、昔の自分と同じような思いをしている子供たちに届けたいと思って業界に入ったのです。

一方の王子監督は姿を消していて、担当チーフプロデューサーの有科は、局と製作の間に立たされ頭を抱えていました。
王子と瞳のアニメ対談イベントの当日、ギリギリで姿を現した王子に「お前、ふざけんな!」と有科のパンチが!(でも彼は彼なりにプレッシャーと懸命に戦っていたのですが)
上っ面の質問を重ねる司会者をよそに、アニメへの熱い思いを語る王子に「負けません、ハケンを取ります」と真っ向勝負を挑んだ瞳。

初回放送日が迫る中、作画の修正や色彩や背景の調整、脚本の練り直しに撮影、声入れと多くのクリエイターたちが関わっていく様子が映し出されます。アニメ監督ってその全てを統括していくんですね。

瞳は、行城が話題集めのために連れて来た主人公トワコの声を担当しているアイドルの郡野葵が、自分の思い通りに演じてくれないことに苛立ち、何度もやり直しをさせて泣かせてしまいます。次第に孤立し心身ともにボロボロになって自分を追い詰めていく瞳。

トウケイ動画、斎藤瞳監督作品「サウンドバック 奏の石」とスタジオえっじ、王子千春監督作品「運命戦線リデルライト」。初回視聴率こそ同率1位でしたが、回を追って差が開いていきます。やる気を出して制作陣に細かく指示を出す王子と比べ、もやもやした気持ちを抱える瞳の迷いは作品にも影響していくんですね。

ある日、偶然王子と会った瞳は彼に「声優のことで悩んでるでしょ?心を開かないとエヴァは動かないよ」と助言されます。エヴァってエヴァンゲリオンのことだよね。
葵のSNSを見た瞳は、葵がアニメの舞台を訪ねて彼女なりにトワコの声を探そうとしていることを知ります。PRに引っ張り回す行城の真意が、瞳の才能を信じひとりでも多くの人に作品を届けようとしていることもわかってきます。作品を作っているのは自分だけではないのだと改めて気付くのです。

王子は、最終回で主人公の死を描きたいと有科に話しますが、「ゴールデンタイムのアニメで主人公の死はあり得ない」と局側はにべもありません。しかし、彼の才能を誰よりも信じている有科は、「主人公を殺してもいいです。でも、局と戦えるだけの武器をください」と王子に託し、急な変更に製作会社に頭を下げ走り回ります。
彼女もまた、王子の「光のヨスガ」に衝撃を受けたひとりで、彼の作品を多くの人に届けたいという情熱を持っているのね。

「サウンドバック 奏の石」が盛り返しをみせるなか(葵の声が主人公のトワコに命を吹き込んだのです)、瞳も最終回のシナリオを変更しようとします。地球を守るためにロボットに乗って戦う物語ですが、音を捧げることで動くロボットは、トワコの音だけでなく記憶も奪うのですが、最終回で全て取り戻す予定の結末を変えるという彼女に現場は騒然となり「今更無理」と反対します。その時、行城が「うちは大手です。だからこそ、目先のハケンより10年後も残る作品を作りたい。」と瞳に何を伝えたいのかと問います。「大事なものを失っても新しい大事なものはこれから築いていけばいいと伝えたい」と答えた瞳に、現場はひとつにまとまります。

最終回、ハケンをとったのは、王子の「運命戦線リデルライト」です。主人公には「どんなにみっともなくても、望まれなくても生きてやる。ひとりにはさせない」と、王子が伝えたい想いを込めたセリフが。「サウンドバック 奏の石」は2位でしたが、瞳は近所の子供たちが「サウンドバックごっこ」で遊んでいるのを見て、誰かの胸に刺さる作品を残すことができたと満足でした。

王子が、一番の理解者で支え続けてくれた有科に「結婚してあげてもいいけど」というエピソードは彼なりの感謝の気持ちと照れですかね。それに対して「はぁ!?」と反応する有科が面白かったです。でも案外良いカップルになりそうだけど。

視聴率ではハケンを逃しましたが、DVDの売り上げで1位を取った「サウンドバック 奏の石」に行城が小躍りする姿が「ドクターX」の神原(岸部一徳)と重なって見えました😝 

普段知ることのない業界の裏側を覗いているような作品で、前半の瞳の姿がちょっとイタかったけれど、自分しか見えていないヒロインが、作品は関わっている人全手で作り上げるものだということを再認識する成長物語でもあり、アニメに対する情熱が感じられるお話でもありました。

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