月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

腹腔鏡下子宮全摘出手術 当日

2012-06-19 18:41:19 | 腹腔鏡下 子宮全摘術


6月18日<月曜日> 腹腔鏡下子宮全摘出手術 当日

ここに暮らしてすでに5日間が経とうとしている。
今はどんなきれいなファッションビルや、おいしい食べ物屋さんより、
ここが一番落ち着く、安心できる場所になっている。
「安全地帯」といえばいいのか、
信頼できる人たちに見守れていて、
誰一人私を傷つけないところであるような気がする。

そろそろ手術当日のことを振り返っておこうと思う。
昨日まではもう思い出すのさえ、心ためらい、辛かったことだったけど。
今日でやっと過去のこととして、語れるそんな気がしたからだ。


6月18日の手術当日。
朝6時過ぎた頃、
白衣の看護師さんが浣腸を持ってきてくれた。

「すぐにトイレに行きたくなると思いますが3分間は絶対に待ってくださいね」

私は、3分きっちり待ったらすぐにトイレへ。予想外というべきか、想定内というべきか、
液体だけが便器にいきおいよくこぼれ、私はしまったと思ったのだった。

7時からは点滴。
私は急いでパジャマを脱ぎ、水色の手術着をまとい(着物のように4カ所を紐で縛るタイプ)、
携帯された紙パンツをはき、緑色のベストを着用。

点滴をしてもらう前には全ての準備が整って、窓の外の雲の流れをずっとみていた。
その日の空も、昨日と同じく灰色で、雨が落ちいたかどうか、病室からはわからない。
おそらく今にも落ちそうな気配だったと思う。

7時30分。
点滴をもって看護師さんが現れる。
それまで、「アルイネードウォーター」という栄養ドリンクを2本補給。
スポーツドリンクにフルーツジュースが含まれているような味。
200~300mlを飲んでも1時間程度で胃を通過し、
アルギニン・亜鉛・銅などといった手術時や傷の治りに必要な栄養成分がこのドリンクには含まれるという。

さあ点滴だ。普通点滴を入れる時には、たいてい失敗されることが多いというのに、
その日、何か事を起こすたびに「よいしょっ」と
独り言のかけ声をかける、ちょっとだけあひるさんに似た色白の(中堅の)看護師さんは、
慎重に何度も腕をポンポンと叩いて、血液の流れを確認して、
「動くのよ、この血管ったら、あら」
といいながら、潔く血管の上をゴムのように曲げられる針で貫き、上手に点滴をいれてくれた。

Iphoneで音楽を聴きながら、出発前のブログを書く余裕がまだ私にはあった。
そこへ、夫が到着。


9時5分前。
エレベーターであひるの看護師さんと一緒に5階の手術室まで行く。

扉があくと、同じく9時に手術する女性が対面で座っていて、その人も安定した表情で笑みを交わしあった。

あなたの名前は、誰ですか。なんの手術でここへ来られましたか。
とマニュアルどおりの質問を受ける。
「○○○○です。腹腔鏡下子宮全摘出の手術できました」と正確に私は答える。

9時
「用意できました」と、いう声で手術室の扉があき、私はいさましく手術室に入る。
不思議と緊張はしなかった。

佐伯愛先生が、眼鏡の奥でやさしく微笑まれていて、私は
「よろしくお願いします」と頭を下げ、横を過ぎる。
佐伯先生の後方に、大野木先生がたっておられた。
やはり同行の医師は、松本部長ではないのかと、一瞬、落胆。

「はい手術台にあがって!」
自分の力で手術台へ上がる。

勇気ある~!と
拍手したいほど勇ましい私である。
手術台は狭く、大きな丸い電気。
手術室の景観はじっくくりとみる余裕はなかったが、
魚肉冷凍室のようなメタリックで、
ひんやりとした壁で一面が覆われていたように思う。

「はい麻酔がかかります。ねむたくなりますから、眠くなる前に大きく深呼吸。麻酔が入ってきました」
そういわれるのを聞きながら、麻酔にかかってしまい、
そのまま臓器も、停止状態となった。

11時40分
「○○さん、終わりましたよ。目をあけてください、わかりますか」
という看護士さんの声だ。
私は少し目を開けたが、そのまますぐに閉じ、次に目をあけると、見覚えのある部屋。
1214号室だった。

母と夫が、ニコニコ笑ってどう?といった表情でこちらをみていたと思う。
私は部屋の清潔な匂いと、いつもの代わらないよく知っている母と夫の姿に安心して、うつらうつら。
思い出したように目をあけては、閉じる。
再び目をあけては、見渡して、また閉じる。

意識が朦朧としていたいせいで、あまり痛みはわからない。

ただ、酸素マスク、心電図が指の先につながれ、痛み止めの点滴につながれ、
お腹の管(腸の汚物が流れるドレーンという名の管)、それから尿の管につながれていた。
おまけに、血栓予防のために足のマッサージ機、
(ビジネスクラスの飛行機に乗った時に受けたようなマッサージ機)
につながって、眠ったり起きたりしていた。


「そろそろお水を飲んでみて」。
けれど、吐きそうな気がして拒否する。

「じゃあ、今度は飲んでみようか」

案の定気分が悪くなり嘔吐してしまった。

痛み止めの点滴のせいか、不思議なほど痛みは全く感じられない。
でも息をするのも苦しく、しんどいような、ぐらぐらと不安定な感覚に襲われ、
それが怖いので、やり過ごそうと瞳をすぐに閉じる。

「そろそろ私、会社に行きます」と夫の声。

瞳を閉じる。

「じゃあ私もそろそろ、いても何もできないし…」と母。

いったい今は何時なんだろう。
夕方なのかしら、と思いながらまた眠る。

1時間おきに看護士さんが来て、血圧と体温を正確に測ってくれる。
誤って、点滴をさしている腕を下にしてしまい、
何度もピーピーと点滴の機械から音が漏れ、
そのたびに看護婦さんがナースステーションからすぐ走ってにきてくれる。

そうやって昼の12時から翌日の朝まで過ごす。

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