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15時になったので宿にチェックインする。
冷房が効いて、湖の深いところにいるように静かなロビー。宿帳を記載し、美しい寒天菓子と煎茶をいただく。鼈甲玉(べっこうぎょく)というこの宿のオリジナルなお菓子。透明が柚子、黒いのが黒糖だ。
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ご主人が挨拶にきてくれた。若く、威張らない腰の低い方。な、なんて丁寧な。部屋は本館の2階で、ベッドのある部屋には机と、座卓がある。小さな畳の間も。洋室だが木のしつらいで、和める。洗面所をあければ、すぐ湯量の豊富な源泉掛け流しの檜のお風呂で、由布院岳からの透明な湯が蛇口から、どうどうとあふれている。
風呂場からも部屋からも、いちょうの木がすぐそこまで来ていた。
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私とNは金鱗湖のまわりを散歩することに。
亀の井別荘の、天井桟敷と鍵屋(みやげもの屋)が入る「亀の井ガーデン」、お蕎麦を食べた「湯の岳庵」のすぐ裏手に。
由布岳は、なだらかでおっとりしている、杉が多い。金鱗湖に陰翳を写し、青々とした水彩のように平か。
湖にはオレンジや黒の鯉がたくさんいて、グレーの稚魚が口をぱくぱくさせて餌を欲しがっていた。ティラピア(外来種)もいる。
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天祖神社へ参拝した。夕方のせいか、陰が深く、神さまがおわします暗く荘厳な雰囲気。わたしとNは手をあわせ、無事、由布院についたお礼と、2020年の抱負を述べた。
それから十勝そば湯川、ぬるかわ温泉など、田舎風情の景色を歩き、亀の井別荘まで。時間にして約40分。浴衣に着替えて、丹前を羽織り、楽しみにしていた談話室をちらり除いて、珈琲で一服……と。
扉を引くと、ハシゴ付きの壁一面の書庫だ。想像以上、往年の作家たちの初版がずらり。
一冊の本(円地文子 旅の小説集)を手にとり、ここにすごく籠りたい気持ちを抑えて、後ろ髪ひかれながらお風呂へ。
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泉質は、やわらかく、湯あたりしそうにない。由布岳からの山水をそのまま沸かしたような清純な湯。しかも、庭園の真ん中にぽかんと鎮座し、半円になった透明ガラスからも亀の井別荘の青々とした芝の庭が望め、これまたよかった。
風呂上がり、浴衣を着て、Nと1階のレストラン「螢火園」へ下りる。
客人は最初、私たちだけだったが途中で金婚式のご夫婦、40代くらいのご夫婦(旦那様がワインがお好き)、福岡からバスで来た眼鏡の素朴な奥様とインテリ風の旦那様の4組が15分刻みで揃う。白いテーブルクロスの席はソーシャルディスタンスもしっかり!窓からは、美しい松の庭がみえ、ブルーライトの灯りが海のように映っている。
この日は辛口の日本酒を1合、お願いする。
「葉月の献立」だ。
・車海老 春巻 花オクラの天ぷら
・豆とアスパラ、白和え
・地元フルーツトマトをつかったジュレ掛け
・季節の造り(イカと鯛)
・甘鯛 清汁仕立て
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・若鮎 酒塩焼き
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・万願寺と茄子 鼈甲餡かけ
・おおいた和牛 炭火焼き
・かきあげそば
・ご飯 おとも香の物(ゴーヤの漬物がおいしい)
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・かぼすのゼリーなど デザート (お茶)
「風の畑から供する」。これが宿の食テーマという。奇をてらわない素材本位の味つけ。炭火で焼いたおおいた和牛(ぶんご牛肉の4等級以上を使うとか)は歯をたてれば柔肌のように崩れおち、肉質は濃く、乳の匂いが微かにした。特に天ぷらと、万願寺と茄子 鼈甲餡かけのお出汁のひき方が、ホッとしてよかった。シンプル、がいいのだ。
夜は「BAR山猫」で夏のカクテルでも、と考えていたが、冷酒がおいしかったので、もう酒はよい。満足してしまっていた。ひたすらに21時からの談話室が楽しみである。
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