月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

ZOOMオンライン小説講座を受講した

2020-06-24 14:21:00 | コロナ禍日記 2020

 

 ある日。5月11日(月曜日)晴

 

 朝7時に起きる。10分の瞑想。朝食にはビゴのフランスパンを包丁で細めに切り、ナイフにたっぷりキリ(kiri)のチーズを取って塗り、自家製の夏蜜柑ジャムをのせて食べる。紅茶にはムジカのディンブラを選び、ミルクティーで。

 

 午前中は、コラムの記事を書く。

 2時からZOOM講座。主催は小説家でライター、医学博士の寒竹泉美さん。昨年6月に取材をさせてもらってから、脚本を担当された演劇を見にいかせていただくなど、何度か顔を合わせていた。きょうはFacebookメンバーを中心に「オンライン小説講座練習会」を開くという。

 12名のメンバーさんの中に、知り会いのライターさんが3名いた。画面越しながら、手を振りたくなるほど、妙な懐かしさがこみあげる。

 

 自己紹介のあと、講義(小説を書くステップ)、ワークという習わしである。

 大事なのは、現実世界とのつながりを想像すること。「ゴジラが、現実に現れたらどうなるかを徹底的に考え抜いているから面白いのだ」と寒竹氏。

 ワークは以下だ。

  • 物語の主人公を思い描く。(5分でエイヤッとつくる)。
  • その主人公は火曜日の夜ごはんは、誰と何を食べていますか?
  • 神様がひとつ願いを叶えてあげよといったら、主人公は何を願いますか

 次々と課題をこなし、チャットに移して、メンバーで共有する。

 私が妄想したのは、64歳くらいの女性。名前はローズ。舞台は鄙びた東北の温泉地。蔵を改装した奥に細長い、ウナギの寝床のような古民家で(土間から上がっていくような場所で)私立図書館を営んでいます。ここは、亡くなった作家の本だけを所蔵しています。

 ローズは、ある日、不思議な出来事に遭遇します。

 1940年代の往年の作家(男性)が、自分の本を誰がどんな風に読まれているのか、それとも今はすでに化石のように見捨てられてしまったのかを知りたくて図書館を訪れます。深夜3時、ローズは、往年の作家が貸し出し本のリストを真っ暗な部屋で読んでいるのに出くわすのでした。(これが主人公にかける魔法)。物語に奥行きを育む仕掛けです。

 

 さてローズの図書館は、水曜から土曜日まで開いています。

 ローズには恋人(10歳若い、造船関係の設計エンジニア)が四国・松山市にいて、日曜日から火曜日は飛行機で松山へ飛び、恋人と過ごしていることが多いのですが。火曜日の晩は、だから恋人とイタリアンレストランで過ごしていて、この日はめったになく赤ワインに酔っぱらってしまい、店を出たあと、白壁を借景に川にそって歩き、松山美術館を通り過ぎ、ちょうど柳の下あたりに差し掛かったところで、往年の作家がローズの図書館へ会いにやってきたことを彼に話してきかせます。

「へえ、凄いことじゃないか」驚く、恋人。ふたりは、この作家について思い出す限りのことを告白しあい、いつのまにか、自分たちの生き方に重ね合わせて語り始め、議論へと発展していきます。意志と想いがぶつかり合う、そんな瞬間です。唇をかむローズに、恋人は、「ちょっといいか」といい、突然、ローズの唇の端にそっと自分の唇をよせたのでした。

 

 というような妄想を私は描いていき、チャットに記述します。

 次は、当日のメンバーの中からコンピューターがランダムにペアを組みます。自己紹介のあと、自分たちの主人公を紹介し合った後で、ワーク開始。

 同じルームになったキャラは実はケンカをしています。何が原因なのか、どんなケンカなのかを想像(推理)して、ふたりで話し合ってみてください。次に共同で物語を完成させてください、といったものでした。

 私のペアは、昨年お仕事でご一緒させていただいたライターのEさんでした。

 Eさんは、食品メーカーの若手社長(実業家)を妄想しており、ちょっぴり人見知りで不器用な面を持ちながらも、ヒット商品を次々と生み出す実業家を主人公にしていました。ひと月、数百億を叩き出す凄腕とのことです。

 ある日。社長は、旅先で蔵の構造にふとひかれてローズが経営する個人図書館に導かれて入ってきます。が、そこは古い小説ばかりで自分が思い描いているビジネス書がない。2部屋だけみて「ああ、これはもう自分には用がない」と見切り、図書館を出ようとしたところで、ローズに引き留められます。

「あなたはなにを探しているの? せめて最後まで閲覧してかえっていかれたらどうでしょう。2階には少しですが、ビジネス書のコーナーもございますの」

「2部屋みたら十分。いや、棚の1段目で、この図書館の趣味趣向を自分は理解した。ここには自分が探していた本はおそらく1冊たりともないだろうから」

「あら。お目当ての本を探したいのなら、大型の書店かあるいは、インターネットの森を捜索なさったら十分ではありませんか。この図書館なら、あなたの存在意識と往年の作家たちの想いが交錯し合い、きっと想像を超えるあなたの運命の本と出会えるはずだわ。出会うのは、あなたと偉大なる作家。私は場を提供し、本を貸し出すただの傍観者です。気になさらずに、最後まで見ていってください」

「あいにく、私はあなたの妄想図書館と付き合っている時間はない。申し訳ないが失礼する」

(……とけんかに発展していく)こんな筋書きです。

 

 おもしろかった! きっと時間を短い時間の中で、集中して妄想するのが楽しかった。

 ZOOMが終わるや、関西国際空港へNを送迎しなければ!きょうはいよいよNが12日の滞在を終え、東京へ帰る日だ。

 

 途中、空港線の高速道路を走る車の中でlineが入る。参加したメンバーの、あるライターさんから、

 「やっぱりネット上でお会いするのと、顔を合わせるのは違いますね。会いたくなりました」というようなメールを頂戴した。20分の間、lineをいったりきたり。デジタルの文章で、有意義な会話をかわせ、よかった。私も新しい喜びを発見した。

 

 こちらは、5月中旬の関西国際空港。





 

 廃墟のようであり、映画のセットの中を歩いているよう。人が消えた空港。

 自分が浮いているような変な感覚をうける。便数は、約20便から一日4便に減便されていた。

 照明を落とし、薄暗い中、地上係員が2名ほど暇そうに腕をくんで憂鬱そうな顔でぼんやりしていた。明るいのはNばかり。彼女は異国へ一人旅たってしまう気がした。

 

 帰宅してすぐ。7日めの#ブックカバーチャレンジの原稿を書いた。

 晩ごはんは、あじのフライと人参の酢ずけ黒胡椒風味、キャベツの塩炒め、トマトとレタス、クレソンのサラダ、枝豆のボタージュ。赤ワイン2杯。

 

7日間ブックカバーチャレンジ】7日目!(最終日)

 



 ラストは(型破りに)、時間のない時にも読みやすい短編千早茜さん「あとかた」、ジュンパ・ラヒリ「停電の夜に」を供します。

 

 (中略)

 「あとかた」は、1つめの物語が次の物語を誘い、登場人物が別の役割を担って現れる連作。現代の恋愛はこうなのか、と衝撃をうけた一冊だ。男と女の空虚はやるせなくて、肝心なものがみえにくい。冷めた眼の中に諸々をうつしとり、それでも明るく淡々といきてみせる、そういった絶望と孤独の中にある恋愛を描いている。

 「停電の夜に」は、ただただ素晴らしい。哀しみと喜び、愛と切なさが波のように寄せては返す、しみじみと。なにも起こらない日常。たった一つの文節にもすでに物語が詰まっている。それは柴田元幸さん翻訳のレベッカ・ブラウン(著者)にも通じるものだ。

 

 ちなみに千早茜さん、朝日新聞デジタル&TRAVELのエッセイ「いつかの旅」で出会い、デビュー作の「魚神」で度肝をぬいた若手の作家。書く文章は濃密だ。「自分は書くことと読むことが一緒にできない」と仰っているように、作家の集中力は凄いので。読み手もアフリカの孤島でページをめくるような気持ちで背中に汗しながら、迸る情熱を受け止めることになる。

 

 

 



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