月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

春の夜散歩

2021-04-11 00:11:00 | コロナ禍日記 2021
 
 


 
 
 

3月9日(火曜日)

 

 起きてすぐ、(昨晩お風呂で読んでいた)向田邦子氏の「胡桃の部屋」の続きを読みおわる。心を打たれた。エッセイよりも、向田邦子が濃厚だ。朝から酔っぱらった。向田邦子の(作品の)色香に。この人の爪のアカほどの才能があればと天を仰ぐ。

 

 気を取り直してヨガ、瞑想を10分。20ページ分の色校のチェック。無事、昼すぎに今号の入稿を終える。

 

 お昼は、一昨日にしょうゆと酒、みりん、にんにくとショウガのみじん切りに漬け込んでいた鶏肉を、小麦粉とパン粉をつけてカラリと揚げて食べた。付け合わせは種々のグリーンを交ぜたサラダ。にんじんスープ(昨晩の残り)。

 

 夜8時まで仕事をして、夜の散歩。気持ちいい、むーっという虫や生き物の息が私の耳まで聞こえてくる。地からわき上がってくる、春の気配。暗い夜道ながら、ちっとも怖くない。いつも通る道の途中の軒下に、紅垂れ桜ならず、垂れ桃がさがっている。花の下までいって、近づいて匂いを香る。桜とは違う、甘々しい花粉のにおい。見上げれば、傘になって花筋が自分に降っていた。30分歩いた。久しぶりだ。10分の時よりも、体の深部まで夜の気配が浸透したようだった。