月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

薄墨の空と、だんじりの祭典

2012-10-17 00:01:47 | どこかへ行きたい(日本)



先週の日曜日は、夕ごはんを食べてから名塩八幡神社の「秋の例祭」に出掛けた。
10時を少しまわっていたとおもう。




前日にも綿菓子やりんご飴などの屋台がズラリと並んだというが、この日は朝早くから8台のだんじりに、紙と塩をまいて清め、木之元八幡神社を出発して名塩八幡神社までの間にある7町を曳きまわし、いよいよ祭はクライマックスにさしかかっていた風であった。

私たちが住むニュータウンとは異なって、このあたりは不思議なほど薄墨の闇が深い、秋の夜である。

川面から吹く清涼な風は冷たくて、自然の息吹を感じる。

土曜日から日曜にかけて、
朝も、昼も、夕方も、台所仕事をしていても何をしていてもずっと聞こえていた大小の太鼓や篠笛、お囃子が、1歩1歩と近づいてきている。
そう思うだけで、心臓の鼓動が早くなって、心なし小走りになった。

あ、いたいた!
薄闇に浮かび上がる深紅のだんじり!すごい木組が古く、神聖。かっこいい!






男衆は、だんじりを曳きながら、皆、顔に力を込めて闘志を燃やしている。

蘭学通りにこだまする、
「ヨイサー」「ヨイサー」の掛け声も高らか。
迫力ある祭典、というよりは町を守る姿勢のようなものが伝わってくるなあ。

鎮魂の祈りのようである。

「何時くらいまで、だんじりを曳くのですか」
「そうやな、12時半くらいまでは続くよ。例年そうやからな」

すごい、明日が月曜日だから早めに切り上げましょうよ、とか誰一人言わないのが旧町だなぁ。

こんな風にドキドキする鼓動と期待感をいっぱいに募らせて、ニュータウンから旧町へ降りてき

そして、
初詣やどんとや、お盆の送り火行事や、例祭などをなんの手伝いもせずして愉しませてもらえるなんて、
申し訳ないやら、ありがたいやら、である。(有馬温泉も近い)

だんじりの後を歩いていると、国道178号線の真ん中で
突然として、お囃子などの音を控えめにし、車や街の雑踏に背をむけたかと思うと
思い切って舵を切り直し
Uターン!
ほんとうに一瞬だったが、私はこの時に「現代」と「江戸」の交差点にたったような気がした。

はっぴを着た男衆がふたりで交通止め、その後にズラリと並ぶ長蛇の車の列がこっけいにというべきか、
暴力的に視界に映った。

この町のだんじりは、どうやっても
アスファルトやコンビニが似合わない。

そう、だから
「現代」の営みから逃げるようにして
古い町並みが続く旧町である和紙の町に、再び、今度は遠慮がちにお囃子を響かせ
だんじりはゆっくりと帰っていった。
薄墨の深い静かな町の祭典へ。