12月15日(木)朝6時、佐久間ダムの奥にある竜頭山(りゅうとうざん1351m)に向かう。
前日、病院のベットで酸素の補給を受けながら途切れ途切れに話をした。
「明日は静岡県の高い山に登って来るよ」
[ハイ キ・ヲ・ツ・ケ・テ]
山が好きになったから登る・・・今日はそうではない。格別な思いで山登りを決めた。
入院することになる数日前に[もうすぐ喋れなくなる・・・コワイ]「傍に居て」と執拗に叫んで
いたが、「大丈夫だよ 喋れるよ」と軽く受けて流していた。
しかし今そのことが現実のこととなって一日毎に会話が難しくなっていく。
・・・あの時に何故もっと労わってやれなかったのか、優しくしてやれなかったのか
自責の念が消えない。
そんな思いを吹っ切るには何かに没頭出来る状況に身を置くしかない。
それには登ったことのない知らない山がイイだろうと、以前、Fさんに頼まれていた
「竜頭山」の地図があるので、ここに行くことにした。
家から1時間20分で現地着(7時20分)。ナビを設定して8時丁度に平和(ひらわ)登山口に
子供連れでも歩けるほど良く整備されていて、鎖場も梯子もない安全な山だが急な登り坂が
延々と続くいわば体力テストのような山でした。
それでも「青なぎ」と呼ぶところから右と左に道が分岐していて、右は中級者、左は初級者の
道標があり、往きは右、戻りは左の初級者コースを逆から下りてくる周回ルートが一般的とか。
中級者コースと言っても「本宮山」よりもオトナシイ道程で“山に登る”と言うにはおこがましい。
只、800mを越すと急に風がピューピューと強く吹き付ける地形になって、鼻水が垂れ
涙も出て両方とも千切れて飛んで行く。 耳が冷たく痛いので、ここから防寒手袋と防寒帽に
服装を整えて一気に頂上へ・・・・・・とはいかなかった。
休み休みで何とか頂上に辿り着いたら3時間20分とは・・・・歳相応としておきます。
遠くに富士山を見て、疲れも家のことも忘れる自分だけの一時を贈って貰ったと思えた。
ナント!頂上は“スーパー林道”が開通していて「車いすトイレ」や別荘のような立派な
避難小屋まであって、拍子抜けの感が強い。
戻りは「ほおずき平」と云う頂上公園を横切って初級者コースを駆け下りる。
途中で転倒して手の小指の関節が外れた が、曲げ直したらポキって音がして直った。
(でも、そのあと腫れて痛い)
往きには気付かずに渡った鉄橋が、戻りに見たら壊れて落ちそう
“通行危険”の処置をして無事下山した。下山時間は2時間でした。
→
いつもそうしている様に、登った山の「石ころ」を記念に拾って来るが、今日は格別の
感慨を持って拾って来た。 帰途に病院に寄ってこの石を見せて、まだ歩けた頃に
二人で登った箱根の「明神ケ岳」の話をした。
顔に笑みが出て「はァ・・・ァ」と声にならない声で喜んでくれた。
そしてその後ハッキリ聞き取れる声で[カエッテ・キ・タ][「カエッテ・キ・タ][「・・・キ・タ]
[カエッテ・キ・タ]と瞬きをしない目で姿を探して迎えてくれた。
自分の生きる命の時間を縮めるかのようにして与えてくれた今日の山行。
何度も何度も「ありがとう」の独り言を言いながら記念の石を置いて病院を出た。
このブログを書いてる今(12月18日)はもう声が出ない。
でも僅かに唇が動いて何か言っているのだが・・・目は姿を追えないようだ。