12月30日、YYDのY山さんが日和田での岩トレを計画しました。前回の日和田岩トレで4級+のルートをリードすることの重要さに気付いてくれたようです。A宮さんも同様です。さらに、登攀的な沢にも行きたいと思っているS藤さんも加わって、目的意識の高いメンバーでの岩トレが実現したのです。
という訳で、あらためて4級+のオンサイト能力を持つことの大切さについてまとめておこうと思います。
* * * * * * * * *
僕はこれまでも何度も「一人前のクライマーの資格は4級+のオンサイト能力」だと言って来ました。 それには理由があって、1980年代にアメリカからのフリークライミングムーヴメントが及んでくる以前の日本では4級+まではフリーで登攀し、 それ以上困難な岩場は人工登攀でという考えが主流でした。 ですから、日本の岩場(谷川、滝谷、劔、北岳バットレスetc.)の有名な人気ルートであるクラシックルートはほとんどが4級+までのフリールートなんです。
それは沢登りでも同様で、滝の登攀はフリーでは4級+までの滝がほとんどです。 しかも、沢登りにはフリークライミングムーヴメントの影響は現代に至ってもさほどありませんから、尚更です。
つまり、4級+のオンサイト能力を身に付けると、登山の世界(沢登りや岩登りや岩稜バリエーション)が突然大きく広がるんです。
YYDは沢登りの会です。 沢屋はクライマーです。 沢登りは奥深く、多様な能力を成長させ、素晴らしい経験を与えてくれます。 沢登りの会ですから、岩登りトレーニングをするのは当たり前。 どの程度上達すればいいのかなんて、上限はありません。 どこまでも上手くなればいいのです。
でも、目指すべき最低限のレベルはあります。 それが「一人前のクライマーの資格は4級+のオンサイト能力」ということだと、僕は考えています。 このレベルを、YYDの皆さんは到達することがかなり困難なレベルだと感じておられるメンバーが多いように思います。 でも、それはまったくの誤解です。
僕も以前に所属していた山岳会で、30代、40代、50代、60代の方々に極々初心者の段階から教えて来ました。 無所属の20代の若者にも幾人も教えて来ました。 そんな経験から言えることは、普通の素質があれば、誰でも一人前のクライマーに成れるということです。
60歳で初めて岩登りをした女性がいました。 高齢だと、確かに成長は遅いです。 でも、続けることによって、確実に伸びていくことも確かなんです。 この女性とは彼女が65歳の時に若者たちも含めて一緒に谷川の一ノ倉沢南稜を登攀しました。 劔の源次郎尾根にも一緒に登りました。
そのレベルに到達すれば、誰もが感じることだと思いますが、4級+のオンサイト能力なんて、さほど高いレベルではないのです。 先ほども言いましたが、これは最低限の目指すべきレベルなんです。 意識高く継続さえすれば誰でも到達できる程度のレベルなんです。
F沢さんも集中的にクライミング練習始めてから3ヶ月ほどで一人前のレベルに到達しました。 誰でも、あれほどに熱中集中すれば到達しますよね。 あの熱中こそが才能ですよね。
最近になって、Y山さんとA宮さんが4級+のオンサイト能力目指して行動し始めました。 それにS藤さんも加わって来ました。 皆、沢登りが大好きなんです。 もっといろいろな沢に行きたい。 安全に遡行するために登攀力を伸ばしたい。(登攀力が高まると遡行スピードが上がります) 個人にとってもYYDにとっても正しい選択だと思います。
* * * * * * * * *
●12月30日、日和田岩トレ
この日だけ奇跡的に最高気温が10℃を越える岩トレ日和になってくれました。 朝イチはまだ岩が強烈に冷たかったですけど、徐々に岩も温まって来ました。
Y山さんとA宮さんが組んで前回の復習から始めています。 A宮さんが男岩右端の3級ルートをリードするようです。
僕はS藤さんと組んで、S藤さんのリードトレーニング。 男岩南面ばかりを5本リードしてもらいました。 僕はすべてフォロウのみ、楽させてもらいました。
・左ルート3級
・左下から右上への対角線ルート3級
・中央凹角~クラックルート3級+~4級-
・南面右端の最上部から左のクラックルート4級-
・左下垂壁から左最上部直登ルート4級
S藤さんは最初はザイルワークのいろいろなことが曖昧になっていましたが、回数を重ねることで定着して行ったようですね。 ザイルの結び方などは家で確認、練習しておいてくださいね。
それでは、写真を見てもらいながら、岩トレの様子を紹介します。
▲9:31。1本目は男岩南面の左ルートです。とくにルート名はなくて、左側の易しい箇所を選んで登るルートです。3級ですね。
▲9:33。この写真も1本目のルートです。ここではプロテクションのヌンチャクの間隔が開き過ぎていました。落ちると、グラウンドフォールしてしまう可能性がありました。そうそう、最初のプロテクションをヌンチャクではなくて、カラビナ1枚で取っていました。それぞれの危険性をすぐに説明しました。
▲10:06。ATCでの懸垂下降をしてみたいというので、教えてあげました。滑りにくいと言うので、次からは慣れた8環に戻していましたけどね。僕のシングルザイルは古くて11ミリなので、ATCに入れるのが本当にきついんです。一般的にはATCでの懸垂の方が滑りがいいはずなんですけどね。
▲10:28。2本目は左下から右上への対角線ルートです。この日のように岩場が空いている時しか出来ないルートどりですね。これも3級ですから、なんなくこなしました。
▲11:17。3本目は男岩南面中央のルートです。下半分は凹角になった箇所を登ります。最上部は写真でS藤さんがいる場所のクラックを登ります。昔のガイドブックにはこのクラックを4級+としていましたが、そんなにはありません。3級+~4級-だと思います。最近(と言っても20年ほど前)のグレーディングはデシマル表示になっていますが、やっぱり5.5になっています。そんなにはありません。5.2~5.3くらいだと思います。
ここで5.3とか5.11とか表記されているデシマルのグレーディングを説明しておこうと思います。
これはアメリカで生まれたグレーディングで、最初の数字のクラス5は技術的なクライミングが必要なことを示しています。ちなみにクラス1はただ歩くだけのハイキングで、クラス3あたりからはクライミングの要素も出て来ます。クラス4からはザイルが必要とされますが、クラス4ではプロテクションは必要ないレベルです。クラス5はザイルも使い、プロテクションも必要となります。5.0から5.1・・・・5.7・・・5.12というふうに、より困難度は増し、上限はありません。クラス6もあるようですが、命がけの登山に相当するようですね。
RCCⅡ(第二次ロッククライミングクラブ)は日本で決められたグレーディングです。UIAA(国際山岳連盟)のグレードにほぼ準拠しています。
1級:まったく易しい(三点確保不要)
2級:易しい(三点確保を要す)
3級:ややむずかしい(ザイルの確保を要す)
4級:むずかしい(やや高度のバランスを要す)
5級:非常にむずかしい(高度のバランスを要す)
6級:極度にむずかしい(極度に微妙なバランスを要す)
級に上限はありませんが、5級以上のルートはデシマル表記することの方が多いですね。
RCCⅡとデシマルのグレード対照はなかなか微妙な難しさがあると思います。
ただ、RCCⅡでは3級からザイルが必要とされていますし、デシマルではクラス5からプロテクションが必要な本格的クライミングになります。つまり、3級を更に細分化したうちの3級-と5クラスの最も易しいグレードの5.0が同じグレードを表わしていると考えて、間違いはないと思います。3級-=5.0です。
UIAAとデシマルの対照表はよく目にしますから、RCCⅡとデシマルの対照表もそれに準拠させてもいいと思います。人によっては、UIAAの1級を5.2相当としていることがあったりします。でも、これは明らかな間違いです。何故なら、クラス5はザイルが必要な技術的なクライミングですし、1級は三点確保が不要な岩場ですから。さらに、5.7がUIAAの5級だとしている例も多くあります(5級+としているケースもありますが)。ですから、下記のように決めても大きくは間違っていないと思います。
3級-=5.0 3級=5.1 3級+=5.2
4級-=5.3 4級=5.4 4級+=5.5
5級-=5.6 5級=5.7 5級+=5.8
6級-=5.9- 6級=5.9+ 6級+=5.10a
RCCⅡで6級とグレーディングされたフリールートがそもそもあまりありませんから、6級の対照はあまり意味がないと思います。
▲11:17。S藤さんが昔の本では4級+(5.5)とされているクラックを突破していきます。でも、実際はそんなに難しくありません。3級+~4級-(5.2~5.3)くらいだと思います。
▲12:30。4本目は南面右隣りの緩傾斜からスタートします。A宮さんが朝一でリードしたルートです。でも、それだけでは易しい(3級)ですから、最後は左の岩場のクラックを登ります。4級-くらいでしょうね。S藤さんはここも見事にオンサイト! A宮さんもこの日リードしたそうです。
▲12:33。S藤さんが左の壁のクラックを登り始めたところです。
▲13:24。最後5本目は男岩南面左下の垂壁からのルートです。垂壁がやや難しく4級(5.4)あると思います。S藤さんは少し苦労していましたが、登って行きました。核心部では僕にも写真を撮る余裕がありませんでしいたから、S藤さんはもう最上部にまで登ってしまっています。
▲13:27。最上部のちょっとハングした岩を超えていくS藤さん。
これで、この日のS藤さんのリードトレーニングは終了です。5本リードしました。立派なもんです!
S藤さんがどのルートを登っている時だったかは忘れましたが、Y山さんとA宮さんは日和田山の山頂まで散歩して来ました。
▲14:20。戻って来たY山さんは早速男岩南面右端の3段フェースルート4級+のリードに挑戦しました。4級+とは言われていますが、僕の感じ方では5級-あると思います。単独で5.9のルートを練習していた年配の男性も、聞いていたようで、5級-に賛同してくれました。
▲14:21。まだ1段目のフェースの手前です。今いるあたりも意外と嫌らしいんですよ。
▲14:22。1段目のフェースが一番の核心部。プロテクションも取れたので、思い切ってチャレンジできます。
▲14:24。左手で、少し甘いホールドを掴み、両足を可能な限り上に上げます。この写真の足の位置で大丈夫だと思います。この写真ではY山さんの左足太股あたりのアンダーホールドを掴んでいた右手を、この写真の位置まで移動させます。その間の2秒間ほど左手の甘いホ-ルドで体を保持しなければなりません。右手でそれなりにはしっかりしたホールドを掴めば、しばし安定します。もっと安定させるために、左手を右手のそばに移動させます。右手の左上部に移動させられればベスト。ガバホールドがあります。
▲14:24。それから右足をちょっとだけかかるスタンスに載せ、左足を大きく上げれば1段目のフェースは終了。Y山さん、見事越えていきました!
▲14:30。3段のフェースのうち、2段目は比較的易しいんです。でも、3段目は難しい。右端の凸凹した岩を使えば簡単なんですが、僕はここでもカンテは使わないことにしています。僕の身長で思い切り体を伸ばすとやっと掴める場所に、まずまずのホールドがあります。それを使って登ることにしています。Y山さんもそうやって登って行きました。
Y山さんが初めて4級+(5級-だと思いますが)のルートをリードしました。RPです。(※RPとは?=レッドポイントとは2度目以降のリードトライで完登、あるいはトップロープで登ってみた後でリードして完登することを言う)
Y山さんが一人前のクライマーのスタート台に片足を載せたと言えるでしょう。もう1本4級+をリード(可能ならオンサイト)したら、スタート台に立ったと言えるでしょう。それから先は何本も4級+をリードして、一人前のクライマーに急激に成長するだけです。ここからは速いと思いますね。
▲14:40。Y山さんが上の終了点にいますから、この状況を利用して、S藤さんがフォロウすることにしました。
▲14:46。1段目のフェースを登ろうとしましたが、初めてのチャレンジではやっぱり難しく断念しました左へ移動し、易しい所から上へ向かいました。S藤さんはすでに5本のルートをリードしていますから、疲労がかなり蓄積されていたんだと思います。まあ、ゆくゆくは3~4級ルートを10本くらいリードした後でも、これくらいのフォロウは楽勝であって欲しいですけどね。
▲15:06。いよいよA宮さんがこの3段フェースルートをリードチャレンジします! 勇気がありますね! リードするとなると、1段目フェースの下部も結構緊張しますよ。
▲15:10。1段目のフェースのプロテクションは取れました。見ている側としても、そのプロテクションが取れるまでは緊張します。
▲15:16。A宮さんは身長がY山さんや僕よりも高いので、この写真の右手のホールドは比較的楽に掴むことが出来ます。何度もこの写真の位置からチャレンジしました。見ている者としては、足さえ上がれば簡単に登れるように見えたのですが、これ以上は登れませんでした。残念! でも、次回には確実にリード出来ると思います。
▲15:23。A宮さんは降りて来ましたから、残された3本のヌンチャクを回収しなければなりません。それもあって、皆が僕に「リードして」と言うんです。あまりやる気はなかったんですが、やってみることにしました。3本プロテクションを取っているので、最初の核心部までは安心です。
▲15:24。まだ気楽に登っています。足元のスタンスが見えにくいので、手で触って確認しながら登ります。
▲15:26。最初の核心部に到着しました。今、僕の右手はアンダーホールドを掴んでいます。左手で2秒間ほど耐える間に右手を頭の上のホールドに移さなければなりません。それは上手く出来ました。1段目のフェース突破です。2段目は問題なく突破しました。
▲15:31。3段目のフェースです。ちょっとだけチョンボしましたが、まあOKでしょう。
▲15:38。上でザイルを懸垂下降にセットして、下降しながらヌンチャクの回収をしました。これでこの日のトレーニングは今度こそすべて終了です。
2021年12月30日はY山さんにとって記念すべき日です。クライマーとしてターニングポイントとなった日です。この日から一人前のクライマーに向かっての確実な歩みが始まるんです。早く本物の一人前のクライマーになってください。それにこの基準はあくまでも僕が思う最低限の一人前の基準ですから、もっともっとハイレベルなクライマーになってくれることを信じています。
A宮さんは所用があってそのまま帰りましたが、残りの3人は飯能の居酒屋さんで打ち上げました。山の話、山岳会の話、山仲間の話、山や岩の話、話題は尽きることがありません。飲み、喰いしながら、こんな楽しい話が出来るなんて、本当に幸せなひと時です。
S藤さんは7時(だったかな?)までに都心へ戻らなければならないようなことを言っていたはずですが、最後まで一緒に居てくれました。大丈夫だったのかなぁ?