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おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書120「水が消えた大河でーJR東日本・信濃川大量不正取水事件ー」(三浦英之)現代書館

2010-10-10 18:24:06 | つぶやき
 日本でも有数の大河・信濃川。かつて新潟市の河口付近を見たことがあったが、悠然と流れていた。上流の上田では、千曲川のほとりにたたずみ、長野では梓川の清流に出会ったこともあった。
 しかし、その長い流れの中、新潟県十日町付近ではすっかり枯れ果てて、魚も棲めないような環境になってしまっている、そのことを初めて知った。原因が、JR東日本で用いられため発電用のダムによるものだ、それも不正に水量を調整し(あたかも規定通りに下流に放水しているかのようにデータを改ざんしていた!)下流の水の流れを干上がらせていたことが暴露された。
 都会の我々が恩恵を受けている電車の運行、特に近年の冷房化などによる電力消費量の増大に伴って、この信濃川中流のダムから不正に取水が行われていたのだ。まして、クリーンエネルギーを得るものにし、環境にやさしいことを売りにしている企業が、地元の自然環境を徹底的に破壊していたという事実に驚かされた。
 この書は、その一部始終を追った、迫真のドキュメント。筆者は、朝日新聞の社会部記者。自ら、カヌーを通じて川や海などの自然に親しんでいたという。そうした目線が生きているようだ。「信濃川をよみがえらせる会」の活動を中心に描いてはいるが、自らの実感として、生き物としての(反対に、死んでしまった)川という自然をとらえていこうとしている。
 長期間にわたる粘り強い地域住民の運動、自然環境保護への国民の意識の変化が大きく事態を変えさせ、特にJR東日本の(会社ぐるみの)不正取水の発覚によって、ダム機能を停止した。それによって、かつてのように信濃川の流れが取り戻された。
 そこにいたるまでの経過を徹底した当事者への取材を通して明らかにしている。
 今、再び取水が始まっているが、魚道の整備や流れの増加によって、サケの遡上が確認された、というエピローグがそれまでの地元の方々の努力が垣間見られて、心温まる印象を持った。
 現在、筆者は、朝日新聞に「五線譜」というコラム風の記事を担当している。当事者に自らをなぞらえて、その歴史や思いに迫る、というコンセプトは健在である。
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