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初年兵時代 6 ~悪夢~

2010年08月16日 | 人生航海
ようやくして、本隊に復帰したが、そこではまだ、大きな動きはなかった。

それから、数日過ぎた頃に、隊内でも古年兵が両手を掲げて見せ「どうも日本軍は、これらしいぞ」と広まった。

そして、敵の飛行機が日本軍敗戦のビラを空から落とすようにまでになった。

それでも、中隊長は、隊全員に訓示を行い「日本軍はまだ戦争に負けていない。敵のデマにのるな」とビラの回収に躍起となっていた。

さらに、各民家を廻り、ビラの回収を命じたのである。

そんな事をしても何の役に立たず、遂には、当時に南方軍最高司令官であった寺内元帥の戦闘行為の停止命令が発せられた。

事実上、戦争は終結したのであるが、それ以後は、中隊は、大きな問題を背負わされる事になったのである。

国際法違反を恐れた上層部の命令で、多くの違法ガス弾を舟艇で海洋放棄することになり、その役目が、私達の船舶隊に課せられたのである。

船舶工作隊であった為に、各部隊から終戦処理として、その後当分の間、秘密に海洋投棄を行う事になったのである。

その為、各部隊は、毎日、ガス弾を運び込み、大発艇や小発艇に積んで、沖の船台から海中に捨てた。

その現場を見られないように、各所で見張りの舟艇を配置して厳重に監視した。

しかし、そんな事とは露知らない現地の漁船が漁に出ていたが、監視船に見つかれば、絶対に見逃してはいけないという命令があったのである。

その船台に連れて来られたら最後で、幾ら可哀想と思っても、命令を曲げられないと云って殺害をしたのである。

何の罪もない漁師達を、初年兵達に命じて、無理に縛って弾薬庫とともに海中に突き落としたのである。

罪のない命を奪った・・軍刀で試し斬りとばかりに阿鼻叫喚と化した地獄図絵でもあった。

突然に捕われて命を奪われた人達の中には、その直前に何かを観念したのか、諦めて、静かに目を閉じて、両手を合わせる人もいた。

それほど、哀れで、可哀想に思ったことはなく、当時の私達新兵は、何も出来ず、何の術もなかったのである。