そこから聖岳を見上げることができた。泰然として大きかった
←8月17日から続く
8月18日(水)晴れのち曇り夕立ち
聖光小屋6:10-6:40西沢渡-6:55廃屋-7:35「1400㍍」-9:24「2000㍍」-10:15「2200㍍」-11:00薊畑12:45-13:05聖平小屋(小屋泊)
きょうは薊畑を経て聖平小屋まで行く。聖岳を登るのは次の日の予定だ。出発地点の便ケ島の標高は980㍍で、薊畑が2400㍍だから標高差1400メートルを登る。
3時を過ぎると、がさごそと準備をしている気配が伝わってくる。4時半には明るくなり出発していった人がいた。
きょうの行動時間は6時間ほどだ。あわてて出発していくこともなく、遅くとも9時までに出ても十分間に合うのだが、山は早出が原則であり、次々と出発されるとこちらも落ち着かない。5時に起きだし、朝食をとったら6時には準備ができてしまった。そうなると出ざるを得ない。
気になることがあった、体調が万全ではないのだ。きのうの車の中でずっと頭が重く、なんか気分が悪かった。かみさんは「熱中症にかかったのよ」という。たしかに思い当たる。家を出る前の日の16日はこの夏一番の暑さだった。ふとんに横になっても汗が噴き出す。寝られなかった。
調子が悪かったらゆっくりいけばいい。時間はいやというほどたっぷりあるのだ、と自分に言い聞かす。水を1.5リットル持ってさあ出発だ。
6時10分、便ケ島出発。熊に注意!の看板あり。カウベルを鳴らしながら行く。
西沢渡まではゆるやかな登りなのだが、水平道と思えるほど快適な道が続く。
暗い樹林の中に赤い花が咲いている。
6時40分。登山口から30分ほどで西沢渡に着いた。向こう岸に渡る。木の橋が渡してあるが、荷物用のかご渡しがあった。かみさんはこれに乗って綱をひっぱったがなかなか前に進まない。あきらめたようだ。
6時55分。営林署の廃屋。広い建物だ。かつて人が住んでいただけあって、その気配を感じてしまい、なんとも不気味だ。
廃屋をすぎるといよいよ急登になる。薊畑まではこんな具合かなと覚悟を決める。体調がいまひとつと自覚しているわりには快調だ。ゆっくり行こうよといいながらもトップのかみさんは先行者を抜いていく。ちょうと速いんじゃない。ゆっくりだと疲れちゃうのよ。まるで私へのあてつけだ。
7時35分。1400㍍地点到着。
蒸し暑い。汗が出る。すぐに頭に巻いたタオルがぐっしょりだ。ときどき絞らないといけないくらい汗が出る。登山道にはいたるところに「滑落注意」の看板がある。道のどちらか一方が切れているのだが、私のような高所恐怖症でも注意しながら通過できたのだから99%の人は問題ない。
9時24分。2000㍍地点到着。
登山道の両わきに花は少ない。ズダヤクシュが涼しげだ。
展望はまったくなく、樹林の中をひたすら高度をかせぐ。
10時15分、2200㍍地点到着。ここからがいけなかった。ばてたのである。心配していた通りだ。10歩進んでは歩みを止めて休む始末。かみさんには先に聖平小屋へ行ってもらう。この日の最高点の薊畑の2400㍍まであとわずかだ。時間はたっぷりあるのだからゆっくり行こう。すぐにかみさんの姿が消えた。絶好調のようだ。
荒い息遣いが続く。先のほうが明るくなり空が見えてきた。もうすぐのようだ。お花畑も出てきた。
11時。薊畑に到着。かみさんの姿はない。ばてたといいながらもここまで5時間で来た。上等だ。ザックが4,5個置いてある。空身で聖岳を目指している人のものだろう。
この薊畑からの眺めは格別だ。青空が広がり、目の前に聖岳が大きくそびえている。あれが頂上か。明日にはあそこに立つ。
振り返れば、上河内岳をはじめとする南アルプス南部の山並みが続いている。なんとも気持ちがいい展望だ。ばてた体も急速に回復した。さてどうしようか。まだ正午前だ。ここから小屋までは20分ほどだ。いま行ったところでなにもすることはない。それならしばらくこの景色を見ていたほうがよほどいいに決まっている。
しかし、あれほどいい天気だったのに、急速にガスが広がり、あっというまに周囲の景色を飲み込んでしまい、まったく見えなくなってしまった。聖岳の山頂部もガスに隠れてしまった。それでも気持ちがいいし、便ケ島からは次々とやってくるから話し相手に困らない。
1時間ほどいてそろそろかなと腰を上げて向かうまもなく、下からかみさんが登ってきた。小屋の宿泊手続きを済ませ、昼御飯を展望のいい薊畑で食べようと登ってきたのだという。それならというので私もまた薊畑に戻り昼飯を食べた。
結局は腰を上げたのは12時45分で、1時間45分も長居してしまった。
薊畑から小屋までの道もお花畑が続く。多くの種類が咲いている。あまり期待していなかっただけにうれしいものである。道々ひとつひとつ撮ったのだが、顔なじみの花ばかりなので省く。
聖平を見下ろしようになる。降り立って左の木道を行くとじきに小屋だ。
14時ぐらいだろうか。いきなり夕立があった。大粒の雨だ。小屋の前はテント場で、この雨では撤収の時が大変だろうと同情してしまう。というのも、このところ泊まり山行は避難小屋かテントばかりをやってきたから大変さがよくわかる。
小屋は立派だ。サービスがよく、働いている人も好感が持てる。小屋泊まりなんて久しぶりだからなんとも勝手が違った。夕飯も朝飯も出てくる。なにごとも自分でやらねばならないこれまでのスタイルとは違う。
この日は宿泊者は少なく、寝る場所もかなりゆったりできる。ただトイレが遠かった。夜中に起きだしていくのが面倒だ。しかし我慢にも限度がある。ヘッドランプを点けて用を足して戻ってくるとすっかり目が覚めてしまう。
久しぶりの小屋泊まりは快適だった。ただこんな小屋泊まりに慣れてしまうと「オレはテントに戻れるのかな」と心配になる。
あすはできるだけ早く出発したい。聖岳を登ってから上河内岳を経て茶臼小屋まで行くからだ。夕飯を食べてしまうとあとは横になるだけである。
→(続く)あした19日は聖岳登山
(1)南アルプスの奥深き山へ (2)便ケ島から聖平小屋へ
(3)聖岳から上河内岳を経て茶臼小屋へ (4)茶臼岳から光岳を経て易老渡へ