三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(5)

2024年02月07日 | 死刑
④犯罪抑止効果

平野啓一郎『死刑について』は死刑の犯罪抑止効果を否定しています。
犯罪の抑止効果に対する懐疑も強くあります。すでに多くの研究が、死刑制度には、終身刑などの刑罰に比して、犯罪抑止の特別な効果がないことを示しています。

「拡大自殺」と呼ばれているが、死刑制度がある国では、人生に絶望している人が通り魔的な殺人を犯し、「死刑になりたいからやった」と述べる事件が起きている。
抑止効果がないどころか、むしろ死刑制度があることが無差別犯罪を誘発する原因にさえなっている。
本人が死刑になることを願って事件を起こしている場合、死刑という刑罰は意味をなさない。

アムネスティ「死刑廃止 - 死刑に関するQ&A」に、死刑が犯罪の抑止効果があるかないかについて書かれています。
国連からの委託により、「死刑と殺人発生率の関係」に関する研究が、たびたび実施されています。最新の調査(2002年)では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。そのような裏付けが近々得られる可能性はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されています。(略)
フランスの統計でも、死刑廃止前後で、殺人発生率に大きな変化はみられません。韓国でも、1997年12月、一日に23人が処刑されましたが、この前後で殺人発生率に違いが無かった、という調査が報告されました。また、人口構成比などの点でよく似た社会といわれるアメリカとカナダを比べても、死刑制度を廃止していない米国よりも、1962年に死刑執行を停止し、1976年に死刑制度を廃止したカナダの方が殺人率は低いのです。つまり、死刑制度によって殺人事件の悲劇を封じ込めることは、できないのです。
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/qa.html

「死刑囚表現展」のアンケートに「近年、死刑になりたいから罪を犯した、という事件を見聞きするたび、死刑は犯罪の抑止力になっていないのだなあ、と感じます」と書いている人がいます。

間接自殺という言葉があります。
死刑望む「間接自殺」
1986年から昨年までの裁判報道で被告が「死刑になりたかった」と述べた成人事件は少なくとも33件ある。
86年から昨年までの裁判報道によれば、少なくとも8人の成人の被告が、残りの人生を刑務所で過ごしたかったと述べている。(毎日新聞2024年1月27日)
https://mainichi.jp/articles/20240127/ddm/001/040/127000c

厚生労働省の令和3年度自殺対策に関する意識調査
「本気で自殺したいと考えたことがある」と答えた者は27.2%。
「今までに「自殺したいと思ったことがある」と答えた者の中で、「最近1年以内に自殺したいと思ったことがある」と答えた者は34.9%。
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000887631.pdf

つまり、約8%の人が1年以内に自殺したいと思ったことになります。
有権者数は約1億人ですから、8%は800万人です。
そのうちの何人かが「誰かを道連れにしよう」と考えても不思議ではありません。
実際、1999年に起きた下関通り魔殺人事件の加害者は自殺未遂を4回したそうです。

一審で死刑判決を受けた被告が控訴せずに確定することがしばしばあります。
これも一種の自殺でないかと思います。
死刑制度が犯罪の抑止になるとは思えません。

⑤メディアの影響

メディア報道について平野啓一郎さんは批判的です。
長く親しまれているドラマやアニメなどには、勧善懲悪の物語が多く、そのことが正義をめぐる考え方に長年、影響を与えてきました。

フィクションの中では、リンチによる殺人が肯定的に描かれることがある。
結局のところ、私たち一人ひとりの倫理の中に、殺人に対する例外的な許可の感覚を与えています。

高倉健の任侠映画がそうですが、悪者退治が一番の見せ場になります。
悪いことをした奴は殺されて当然というストーリーがあふれています。
悪い奴らは手段を選ばずに成敗され、被害者の恨みが晴らされたと、私たちはカタルシスを感じます。

勧善懲悪という場合、自分は善の側に立っていると思っているわけです。
それは戦争でもそうで、戦場では何をしてもかまわないという意識につながるように思います。
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