ラッパーの伝記映画であるF・ゲイリー・グレイ『ストレイト・アウタ・コンプトン』やベニー・ブーム『オール・アイズ・オン・ミ-』を見ると、出てくるラッパーたちに攻撃性や暴力性を強く感じます。
金遣いが荒いのに、妙にしみったれ。
自信たっぷりしゃべりまくって、相手を威圧する。
けんかっ早く、すぐにキレて手を出す。
2PACは刑務所で年を取った受刑者に「自分は一生ここを出られない。50秒の判断で50年を無駄にするな」と諭されます。
でも、その受刑者も次の場面でナイフで人を刺す。
2PACにしても、出所後も切れやすい性格は変わらず、すぐに殴ったり、銃をぶっ放します。
デス・ロウ・レコードの社長は金を盗んだと言って、社員をボコボコにする。
それを見ている2PACがイヤな顔をしたように思いましたが、似たようなことをしてるわけで、当然だと思ってたかもしれません。
社会に抗議し、世界を変えるとか人を導くとか言っても、これじゃ暴力と金による支配じゃないかと思います。
どうしてそんなに暴力的なのか。
ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト『その問題、経済学で解決できます。』に答えかもしれないことが書かれてありました。
シカゴハイツ第170学区は、50%がヒスパニック系、40%がアフリカ系の生徒。
90%以上は食糧配給券を受け取る貧しい家の子供で、中高生の50%が中退する。
シカゴの暴力が吹き荒れている32校のうち、一番平穏になった学校でラッパーのカニエ・ウェストのプライベート・コンサートを開くことになった。
賞を勝ち取った高校は生徒の約70%がヒスパニック系、30%がアフリカ系。
平穏の校風委員会を作り、出席率を改善すること、学校の中だけでなく校外でも暴力事件を減らすという目標を決め、40%も非行が減少した。
子どもたちが本当にほしいと思っていたものは、コンサートではなく、「安全に勉強できる場」だと『その問題、経済学で解決できます。』は言います。
危ない学校の子どもたちは勉強に集中できない。
殺されるかもしれないという恐怖で頭がいっぱいだから。
銃撃が起きると出席率が50%に下がる。
学校の近くで発砲事件があったら、やる気のある子どもが命の危険をさらしてまで学校に行くだろうか。
2PACが高校のころ(?)、引っ越したその日に痴話ゲンカから目の前で人が殺されます。
犯罪の発生率が高く、銃による死亡が多い地域で生まれ育っていれば、ヤワだったら生きられないことを身をもって学ばざるを得ません。
大阪ダルクの倉田智恵さんがこんなことを話しています。
危険にさらされるとわかっているのに寄ってしまう。あとで「危ないよ。気をつけや」と言われても、「なんで? やさしそうじゃない」と聞いたら、「なに言うてんの。経歴見てごらん。ちゃんと書いてあるじゃない」と言われて、初めて「えっ」と思うんですね。
人を痛めつけるような攻撃性を持っている人がわからないんですよ。それはなぜかというと、そういう暴力にさらされて育ってきたから。恐さというものを身体が遮断してきているから、暴力的な人がわからない。感覚的にわからないんですよ。暴力を受けてない人はわかるんですね。「なんか恐いな、この人は」とか。
なぜかダメ男とばかりつき合う女性がいますが、こういうことかと思いました。
2PACも、どう見てもヤバイ男と親しくなります。
倉田智恵さんは、とにかくイヤだと思ったら離れられる距離感を保つことが大切だと言います。
しかし、一人では難しいと思います。
「おかしいよ」とか「やめたほうがいい」と言ってくれる人がいないといけません。
もっとも、高校の同級生だったジェイダ・ピンケット=スミスの忠告を2PACは聞こうとしませんでしたが。