三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(4)

2024年01月30日 | 死刑
②死刑をめぐる世界の状況 平野啓一郎さんは世界では死刑制度がどうなっているのかを知るべきだと、『死刑について』で語っています。
他国の状況なども視野に、国際社会の中で議論していくことが大切です。
ヨーロッパで作家やアーティスト、出版関係者などと話をしていると、当然のごとく死刑制度に反対している。
死刑廃止が実現すると、死刑を望む声は死刑制度があった時よりも弱くなっていく。
深刻な犯罪が起きても、死刑にすべきだという発想自体が出てこない。

「死刑囚表現展」のアンケートに「死刑廃止論者の方々についても、なんて罪深い団体なのだろうと各メディアで廃止を訴えている様を見掛ける度に死刑囚と同等に罰してもらいたい程の気持ちになります」と書いている人がいます。
しかし、死刑を廃止している国のほうが多いのですが。

アムネスティによると、2022年、すべての犯罪に対して死刑を廃止している国は112か国です。
死刑制度は存続しているが、死刑執行が停止している事実上廃止の国を含めると144か国。
存置は55か国。
7割の国が廃止、もしくは事実上の廃止です。

1985年、欧州評議会は「平和時における死刑を廃止する」という欧州人権条約第六議定書が発効。
2003年に発効された第十三議定書には「あらゆる状況下での死刑の廃止」が謳われ、第1条に「死刑は、廃止される。何人も、死刑を宣告または執行されることはない」と明記されています。

OECD加盟国では、アメリカの一部の州と日本だけが死刑を執行しています。
アメリカでも23州が廃止し、3州が停止しています。
いくつかの州は19世紀半ばに死刑廃止を決めているそえです。
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/DP_2022_country_list.pdf

死刑存置国は中国、北朝鮮、イラン、ベラルーシなど、独裁国家、強権国家が多いです。
その一方で、最高刑が有期刑という国もあります。

2011年、ノルウェーで69人が殺された事件がありました。
ノルウェーの最高刑は懲役21年です(人道に対する罪は30年、軍事犯罪のみ終身刑)。
判決は禁錮最低10年、最長21年でした。

宮下洋一『死刑のある国で生きる』に、2009年、スペインで介護施設の職員が11人の入所者を殺した事件について書かれています。
27人が死亡しているが、そのうち16人は死因が解明できなかった。
裁判で加害者は患者たちの「死を助けるためだった」と証言している。
しかし、11人全員が終末期患者だったわけではない。

津久井やまゆり園事件の植松聖死刑囚と同じことをしたわけです。
判決はスペインの最長刑である懲役40年の刑だった。
仮釈放でもっと早く出られるかもしれない。

③死刑や死刑囚の情報を公開しない
日本では密行主義といって、刑務所などの刑事施設や刑罰の執行状況などの情報をなるべく公開しないのが法務省の政策なんだそうです。
死刑や死刑囚に関する情報も公開しません。

その点を平野啓一郎さんも『死刑について』で批判しています。
死刑執行がどのように決められ、どのように行われているのかなどの情報の開示がなされていないため、多くの人にとって死刑はどこか抽象的に受け止められています。

死刑に関する情報公開は不十分で、死刑囚や執行の情報が制限され、第三者のチェックがない。
死刑が確定すると、家族と特に許可された外部交通者しか面会・文通はできない。
死刑囚がどういう状態(心神喪失など)かわからない。
執行の状況、執行の順番はどういう基準かなどわからない。
拘置所のどこに死刑場があるかもわからないし、死刑場を見せない。
絞首刑が残虐かを判断する資料がない。

「死刑囚表現展」のアンケートに「静かな環境で絵を描いたりすることの違和感をとても感じる。きっと充実している時間を持っているのだろう」と誤解している人がいます。

死刑囚がどういう生活をしているか、私たちは直接知ることはできません。
石川顕「東京拘置所の視察報告」(「FORUM90」VOL.188)に、国会議員3名が東京拘置所を視察したことが書かれています。
他の収容者との会話、接触、交流を完全に遮断する方策が至るところで見受けられた。異動する時、運動、入浴、診察、面会など、常に監視のもと、他者と接することも話すことも動植物との触れ合いもない。外の景色も見られず、孤独を強いられる生活が続く。

死刑囚には多くの制約があります。
絵を描くのでも、色鉛筆は削り器の刃物が問題となって使用不可、クレヨンや水彩絵の具も使用できない、など。

死刑囚は監視カメラで24時間監視されており、夜も電灯が点いています。
心情の安定という名目でなされていることが、逆に精神を不安定にさせることになっています。

宮下洋一『死刑のある国で生きる』を読むと、アメリカの死刑囚のほうがましだと思えてきます。
テキサス州刑事司法省のHPで死刑囚の情報を見ることができる。
刑法犯情報、姓名、生年月日、人種、出身郡、死刑執行予定日などが並んでいて、刑法犯情報には死刑囚の顔写真、以前の職業、前科、事件の概要、共犯者、犠牲者の人種と性と、5つの情報が掲載されている。
死刑囚のメディアインタビューは毎週水曜日に許される。

宮下洋一さんはHPを見て、会いたい死刑囚との面会を申請し、処刑まで1か月弱の死刑囚へのインタビューをしました。
面会では刑務官の立ち会いはなく、ビデオカメラ、ICレコーダーの持ち込みが可。
日本と大違いです。
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