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三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

岩瀬達哉『裁判官も人間である』

2021年03月31日 | 

岩瀬達哉『裁判官も人間である』に宮本判事補再任拒否事件について書かれてあるのを読み、この事件は権力者の意向に従わない者を排除し支配しようとする点で、日本学術会議が推薦した会員候補6人を菅義偉首相が任命しなかった事件と同じだと思いました。

裁判官は最高裁の意向に反する判決を出すと、人事で冷遇されて出世は望めなくなる。
たとえば、徳島ラジオ商事件の再審開始を決定した安藝保壽裁判長と秋山賢三裁判官は出世の道を閉ざされた。
原発の再稼働差し止め訴訟でも、原告の訴えを認めた裁判長は退任するか左遷されるかだ。
地裁では国が敗訴しても、高裁や最高裁で判決が逆転することが多い。

そのため、上級審の動向や裁判長の顔色をうかがい、忖度するヒラメ裁判官が多い。
三権分立というが、司法は行政に人事と予算を握られているので、政権の意に従う。

元最高裁長官の矢口洪一は国家と裁判所の関係についてこう解説した。

三権分立は、立法・司法・行政ではなくて、立法・裁判・行政なんです。司法は、行政の一部ということです。


裁判部門は独立していても、裁判所を運営する最高裁の司法行政部門は行政の一部として政府と一体になっている。
政府→最高裁→上司→裁判官
上官の命令は天皇の命令みたいなもんです。

さて、宮本判事補再任拒否事件です。
1969年、石田和外が最高裁長官となる。
自民党の中に、最高裁の裁判がだんだん左傾化してきたという声が出た。
政府と連携した司法のために、内閣と同意見の最高裁長官を起用する必要があった。
佐藤栄作首相にとって願ってもない適任者である石田和外は、裁判所をハト派からタカ派に切り替えるための旗手だった。

1969年、北海道夕張郡長沼町に航空自衛隊のナイキ地対空ミサイル基地を建設するため、農林大臣が森林法に基づき国有保安林の指定を解除。
これに対し、反対住民が処分の取消しを求めて行政訴訟を起こした。

長沼ナイキ基地訴訟を担当したのは、青年法律家協会裁判部会のメンバーである札幌地裁の福島重雄だった。
8月4日、平賀健太札幌地裁所長は平田浩民事部統括に住民側の主張を退けるよう示唆する内容のメモを届けた。
8月14日、平賀健太所長が福島重雄裁判長に、住民側の訴えを退け、国側の主張を認めるよう求める書簡を届けた。
裁判に対する不当な干渉であり、裁判官の職権の独立を侵害する平賀書簡がマスコミで報じられた。

9月13日、札幌裁判所で裁判官会議が開かれ、平賀所長への非難決議が全員一致で採択された。
地裁の裁判官が裁判官会議で所長を厳重注意したことに、最高裁だけでなく、高裁長官たちも激高した。

石田長官は書簡流出の犯人を捜し、青法協を裁判所から排除しなければならないと肚を固めた。
若手裁判官たちをこれ以上増長させないとともに、平賀書簡問題を収めるため、スケープゴートとされたのが青法協の中心メンバーの宮本康昭判事補である。

憲法の規定により裁判官の任期は10年で、任期終了ごとに内閣によって再任されるかどうか判断される。
1971年、64人の裁判官のうち、宮本康昭だけが再任拒否された。
再任拒否の理由は人事上の機密として発表されていない。

青年法律家協会員裁判官は350人から3年後に200人になり、10年後には青法協裁判官部会は消滅した。
青年法律家協会員へのブルーパージは多くの裁判官を心理的に支配し、その影響はいまに引き継がれている。

日本学術会議の任命拒否問題はもうニュースにはなっていません。
学問への政治介入がこれからさらに深まっていくことでしょう。

今の政府は国会を軽視しており、立法も行政の支配下に置かれつつあります。
武田良太総務相が3月19日の参院予算委員会で、答弁に向かう総務省幹部に「記憶がないと言え」と指示しました。
辞表を出すのかと思っていたら、いまだに大臣のままです。

2017年に安倍内閣が野党の臨時国会召集要求に3カ月以上応じなかったことは憲法違反だとして国家賠償請求訴訟が起こされました。
3月24日、東京地裁の判決は違憲性を判断せず、原告側の訴えを退けました。

トランプ前大統領の支持者が連邦議会議事堂に乱入して占拠した事件は、国家の中枢へのテロですから、2001年の同時多発テロと同じだと思います。

ワシントン・ポストによると、トランプは大統領在任中に、嘘または事実と誤導させる主張を3万573回もしているそうです。
嘘が積み重ねれば真実になります。
トランプは人権侵害の差別発言をたびたびしていますが、それにも慣れてしまいます。

ゆでガエル理論といって、カエルを熱湯の中に入れると、すぐに飛び出すが、水に入れて徐々に熱すると、カエルはゆでられていることに気づかずに死んでしまうという話があります。(これは作り話で、実際にはカエルは逃げようとする)
私たちは知らぬ間にゆでられているのかもしれません。

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清水寛『日本帝国陸軍と精神障害兵士』

2021年03月24日 | 戦争

イラクやアフガニスタンから帰還して精神を病むアメリカ軍兵士は少なくありません。
『光あれ』(1946年)はジョン・ヒューストン監督のドキュメンタリー映画ですが、町山智浩『最も危険なアメリカ映画』によると、冒頭の字幕に「負傷兵の二割が精神に問題を抱えた」と出ているそうです。
軍の映画であり、本物の兵士を記録しているので実際のことなのでしょう。
第二次世界大戦においても大勢の帰還兵が精神的に病んでいたとは知りませんでした。

では、日本軍兵士はどうなのかと思い、清水寛『日本帝国陸軍と精神障害兵士』を読みました。
陸軍の精神障害兵士(知的障害兵士も含む)を対象とする専門病院である国府台陸軍病院の『病床日誌』(カルテ)約8000人分が残されており、そのうち知的障害および精神神経症の患者約1300人分について症例を分析・考察しています。

傷痍軍人精神療養所は1940年に開設され、2004年には84人が入院している。

知的障害など兵役不適合の壮丁が徴集された。
日清戦争以前の1891年、「読書算術ヲ知ラダル者」が受検壮丁17919人中4766人、26.6%おり、「稍読書算術ヲ為シ得ル者」を加えるなら全体の60.7%となる。

日露戦争直後の1906年では、「読書算術ヲ知ラザル者」は受検壮丁399393人中33564人、9.9%、「稍読書算術ヲ為シ得ル者」を加えると27.6%を占めている。

軍隊において軍紀等違犯を繰り返し、通常の処罰をしても効果がない者などを対象として、1902年に陸軍懲治隊(1923年に陸軍教化隊と改称)が作られ、少なからぬ知的障害兵士が陸軍懲治隊に編入された。

1911年、陸軍懲治隊に収容されていた兵士50人に対し、医学の立場から調査が実施された。
それによると、44人が病的異常者であり、そのうち17人が痴愚、9人が魯鈍で、その26人のうち、20人は家庭環境が劣悪である。
人形と赤児の区別がわかりませんと答える者、1円以上の勘定ができない者、従兄弟の意味を知らない者、2月が何日あるか知らない者など。
彼らは私的制裁という暴力によって状態が悪化している。

戦争の拡大は陸海軍兵力の急速な拡大をもたらした。
1931年には27万8000人、1937年は130万人を超え、1941年には240万人を上まわり、敗戦時には716万5000人にもなっていた。

現役徴集範囲も急速に増加し、1933年の現役徴集率は徴兵検査受検人員の20%だったが、1938年には40%を超え、1939年には50%となった。

1944年には徴兵適齢が満20歳から満19歳に引き下げられ、徴兵検査受検者は倍増し、徴集率は77%に達した。
敗戦時、満17歳以上45歳以下の男子総数は約1740万人だから、4割以上が軍に動員されていた。

さらに、1945年6月、義勇兵役法が制定され、男子15歳から60歳、女子17歳から40歳の全員が義勇兵役の対象にくみ込まれた。

現役兵の徴集率の増加は、予備・後備役・補充兵役の動員の増加によるものであって、軍隊内の現役兵の占める比率は1944年末で40%、1945年には15%だった。
徴集率の増大は軍隊に劣弱兵士を混入させる要因となった。

軍隊内の精神障害には、戦争のために発生するものと、入営以前から精神障害があったが、徴兵検査では判明しなかったものとがある。

諏訪敬三郎(国府台陸軍病院長)「戦争後期に在隊兵の精神検査を実施し、累計54157名に及んだが、その約2%に広義の精神異常を発見した。然もその一部、総人員に対する比率0.62%は要入院或は兵業に堪えない程度の者であった」

浅井利勇(国府台陸軍病院軍医)「比較的選ばれたものを集めた部隊、補充兵を主にした部隊で差があり、精神薄弱は3~4%に達するところが多く、防空部隊では非常に少なく0.73%に過ぎない。(略)昭和19年には壮丁について日本人81282名について実施した結果50点満点中平均30.7点、15点以下6258名全壮丁の7.9%において智能の低いものが発見された。特にこの成績で特記することは、みかけ上の体格のよい甲種合格グループに智能の低いものの含まれる比率の大なることである」


『病床日誌』の知的障害患者484人を入院年度で見ると、1937年度が4人、1941年度が48人、1944年度が157人、1945年度が81人と、戦争の激化にともなって増えている。
精神年齢は3歳3か月から12歳7か月まで。

症例を読むと、九九ができる、ある程度漢字が読める人もいるし、生年月日を知らない、自分の名前が書けない人もいる。
理解力が劣る、言語が不明瞭、動作が鈍い、表情に乏しいなど。
本来なら徴集されるべきではなかった知的障害をもつ壮丁が、特に戦争末期において兵員としてかなり動員されており、中には甲種合格の者もいる。

戦争神経症は、戦時に軍隊内に発生した神経症の総称である。
戦争神経症が注目されたのは、第一次世界大戦で軍隊内で多数のヒステリー患者が発生したことによる。

第二次世界大戦での精神障害の中で戦争神経症の占める割合は、日本21%、ドイツ23%、アメリカ63%である。
この差は、社会文化的な背景、軍隊のあり方、戦闘様式などが関係している。

『病床日誌』戦争神経症のヒステリー患者374人中、罪責感は31人。
戦争神経症の分類
①戦闘行為での恐怖・不安によるもの
②戦闘行為での疲労によるもの
③軍隊生活への不適応によるもの
④軍隊生活での私的制裁によるもの
⑤軍事行動に対する自責感によるもの
自分の采配ミスから部下を死なせてしまった、不注意で戦友が撃たれた、銃器をなくしたなど。
⑥加害行為に対する罪責感によるもの

山東省デ部隊長命令デ民ヲ殺セルコトガ最モ脳裏ニ残ッテイル
特ニ幼児ヲモ一緒ニ殺セシコトハ自分ニモ同ジ様ナ子供ガアッタノデ余計嫌ナ気ガシタ


国府台陸軍病院に収容された患者は症状の重いごく一部の患者にすぎず、数字に現れない多数の戦争神経症患者がいたはずである。
日露戦争以来、軍隊と知的障害兵士との関係は、主として非行・犯罪問題の面からとらえられ、懲罰の対象として取り上げられることが多かった。

戦後も戦傷病者特別援護法に基づいて入院している精神障害者が大勢いることに驚きました。

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永江朗『私は本屋が好きでした』(2)

2021年03月18日 | 

古谷経衡さんへのインタビューが永江朗『私は本屋が好きでした』にあり、これが面白い。

ネット右翼はなぜ反米に向かわないのかという質問の答え。

それは、ネット右翼というのは思考力が低いから。彼らは自分の基礎的な歴史についての知識がないので、だれかに依存しないではいられないんです。産経新聞や『正論』など既存の保守は親米右翼です。ネット右翼は産経新聞や『正論』を読んではいないんですけど、そこに寄稿している人が動画とかで言っていることに依存する。櫻井よしこさんはじめ、ネット右翼が寄生する言論人は親米ですよね。いまの保守派主流。そうじゃない人もいますよ。西部邁さんとか。でも西部さんだと難しすぎる。「アプリオリとか言われてもわからないですから(笑)。


在日特権という幻想はどこで生まれたのかという質問の答え。

ゼロ年代に入って同和対策特措法が終了しますよね。そのとき『別冊宝島』で『利権の真相』が出ます。ネット右翼はあれと混同していますよね。あそこで書かれていた、関西での行政と団体の癒着―住宅費を払っていないとか、特別な融資があるとか、冠婚葬祭の費用を市役所が出すとか、運転免許の取得費を出すとか―それをぜんぶ在日コリアンに置き換えたのが在特会の主張です。と在日は根本的に違うものなんですけど、そのへんがわかっていない。
そもそもネット右翼には西日本のことがわからない。関東ですから。ネット右翼が東京と神奈川に集中しているのは、本当のことを知らないからです。在日コリアンのことものこともなにも知らない。なにも知らない東京の中産階級がネット右翼の主体なんです。(略)
ネット右翼の人たちは驚くほど西日本のことをしらないですよね。逆にいうと、ネット右翼って西日本にはあんまりいないんですよ。だって、言っていることが嘘だってわかっているから(略)
ネット右翼というのは首都圏の中産階級、あるていど時間とお金に余裕のあるサラリーマンとか主婦とかが多い。初めてネットで在日特権なんていう言説に触れてカルチャーショックを受ける。在日コリアンと触れあったこともないし、身近に朝鮮学校も存在しないし、地区も存在しないというところで育つと、「やっぱりなんかあるんじゃないか」と思う人もいる。


日本礼賛本、自画自賛本について。

本当に強い人間は強さを言わないのと同じです。バブルの時代の風俗を見ていくと圧倒的に自虐ですよね。「日本人はマナーも悪い」と、いま中国に対して言っているのと同じことを当時は言っていた。(略)かつて(のSF)は日本が破滅していくパターンが多かった。それは自信があったからです。それが人間の心理でしょう。
いまはどう見ても衰退しているので、自国を賛美しないといけない。(略)
誇らなければいけないというのは、どこかに後ろめたさがあるからでしょうね。日本が衰退していくという数字がありますから。

日本は素晴らしいという日本礼賛本はヘイト本の裏返しで、日本礼賛本が売れるのは日本の状況が悪いから。

林真理子さんのセウォル号沈没事故を受けての言葉(日本人賛美)が武田砂鉄『紋切型社会』に、引用されています。

あえて戦時中の新聞みたいなことを言わせてもらうけれども、船長にしてももし日本人ならこんなことはしなかったと思いますよ。乗客をすべて見捨てて、まず自分がまっ先に逃げる船長などということは規律と責任を何より重んじるわが国ではあり得ない。偏見と言われてもいい。日本人なら絶対にあんなことはしません。(「週刊文春」2014年5月1日号)

このように日本人を礼賛していますが、ソ連が満州に侵攻すると関東軍が逃げ出したり、部下を置いて逃亡した中将がいたりします。

ちなみに、安倍首相が立ち上げた日中歴史共同研究で、南京事件について日本側座長の北岡伸一東大教授は「虐殺があり、基本的な責任が日本側にあった」ことは日本側も認めています。
https://www.afpbb.com/articles/-/2677989

古谷経衡さんによると、ネトウヨの中心層は40代で、ヘイト本読者は70歳前後。
ネトウヨは知性に劣り、自分で考えることができず、書物を読みこなすことができないから、ヘイト本も読んではおらず、わかりやすい右派の言説に寄生する。
永江朗さんは、ヘイト本を買う客は中高年の男性が多く、50代以上、あるいは30代以上で、知識層は少なくないが、学生はヘイト本にほとんど関心を持っていないと書いています。

しかし、安田浩一さんが高校生や大学生に講演した感想ではネトウヨ像はまた違ったものです。

偏差値が高い学校ほどネトウヨが多いんですよ。たとえばだれでもは入れるような偏差値レベルの学校だと、わりと聞いてくれているんですよね。(略)ちょっと偏差値の高い学校だと、ぼくが批判されることも多い。「安田さん、ちょっと待ってくれ。あなたは在日差別はいけないというけれども、その原因を考えたことがあるのか。在日がいかに日本人を差別してきたか知っているのか」と言って彼らが持ちだす事例が、まさにネットや嫌韓本で書かれていることなんですね。明らかにネットやヘイト本の影響を受けているんです。


ネットで引用・援用されるロジックをヘイト本が供給している、つまりヘイト本単体としてみるのではなく、その影響を含めて考えなければいけないと安田浩一さんは言う。

いま在日コリアンに向けてヘイトスピーチする人びとの心の底には、日本がどんどん落ち目になっていくことへの焦燥感や恐怖感と、東アジアに対する根拠のない優越感と侮蔑感とが混在している。彼らは自分が被害者だと思っている。そして、それを刷りこんでいるいるのがマスメディアだと安田さんは言うのだ。


満たされない現状を認めることができず、事実に基づかない主張をすることはヘイト本だけの問題ではなく、スピリチュアル本、健康本、疑似科学本、歴史修正主義本なども同じだと思います。

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永江朗『私は本屋が好きでした』(1)

2021年03月10日 | 

ネトウヨ本・雑誌の広告を見るたびに、こんなのを読む人、信じる人がいるのか不思議に思います。
それで永江朗『私は本屋が好きでした』を読んでみました。(永江朗さんはネトウヨ本ではなくヘイト本としています)

なぜヘイト本は売れるのかというと、本が売れなくなったということがある。
書籍の単行本の初版はせいぜい数千部程度で、芥川賞をとったことのあるような名の知れた作家の本でも、初版は4千部から6千部ぐらい。
初版1万部以上というのはかなり人気のある作家。

出版社が取次に卸すのは本体価格の66~72%程度。
取次のマージンは7~9%ぐらい。
本屋の粗利はだいたい20%から25%ぐらいなので、1000円の本を売って得られるマージンは200円ちょっと。
1000円のドリンクのマージンは800円だから、ドリンクのほうがずっといい。

1980年の新刊発行点数は2万7709点だったが、2018年は7万1661点に増えている。
これにムックやコミックなどを加えると10万点前後になる。

1975年から2015年の40年間で、書籍の発行点数は3倍以上に増えたが、1年間に売れた書籍の冊数はほぼ同じ。
雑誌の販売金額・販売部数はピーク時の1990年代の後半に比べると3分の1にまで落ち込んだ。
書店数は2001年の2万1000店から半減した。

書籍の平均返品率(金額ベース)は約4割。
大手出版社は返品を2割ぐらいと見込んで価格や初版部数を決める。
中小出版社は3割、4割と見込む。
大手は発行点数が多いので、ヒット作で埋め合わせることができるが、中小の場合はその確率が低いため。

出版社は経営が苦しくなると本をたくさん出そうとする。
つくった本を取次に納入すればお金になるから。
本屋は経営が苦しくなると、どんどん本を返品する。
返品すればお金が戻ってくるから。

本屋は自分の好きな本をそろえると思ってましたが、ほとんどの書店は取次から配本される本を並べるだけだそうです。

ハラスメントとは「悩ますこと、いやがらせ」などの意味で、harassは古フランス語のharer(犬をけしかける)からきている。

ヘイト本を永江朗さんは「差別を助長し、少数者への攻撃を扇動する、憎悪に満ちた本」と定義します。

ヘイト本は「嫌韓反中本」と呼ばれることもあるが、誤解を生じる恐れがある。
中国や韓国を批判する本とヘイト本とは違う。
中国政府の政策や中国共産党への批判、あるいは毛沢東についての批判などは、どういう立場で書かれたものであれ重要である。
しかし、中国政府や韓国政府と、中国人一般・韓国人一般を同一視するのは間違っているし、ましてや中国や韓国にルーツをもつ人を攻撃するのも間違っている。

安倍晋三を批判したからといって、それを「安倍ヘイト本」とは言わない。
なぜなら、そこで批判しているのは安倍政権の政策や安倍晋三の思想であり、安倍政権や安倍晋三個人への差別を助長し、攻撃を扇動するものではない。

政府や政策への批判はかまわないが、その人の意思では変えられない属性(性別・民族・国籍・身体的特徴・疾病・傷害・性的指向など)を攻撃する言葉は、批判ではなく差別。

ヘイト本は「在日特権がある」「韓国と北朝鮮が日本に攻めてくる」「中国が日本を則ろうとしている」といった幻想の上に成り立っている。

ヘイト本が巧妙なのは、タイトルや見出しも含めて、一見すると韓国政府の政策を批判したり、韓国社会を批判しているかのように装いながら、「韓国人だからダメなのだ(そして韓国にルーツをもつ人もダメなのだ)」と思わせるように書かれているところです。


ヘイト本を作る出版社はイデオロギーからではなく、売れるから出すのがほとんど。
ヘイト本を刊行する出版社は、経営陣も含めてそっち方面の従業員が多い出版社もあれば、講談社や小学館、新潮社、文藝春秋のような大手出版社からも出ている。

編集者も売れるからという人が主流で、ヘイト本の読者をバカにしている。
排外的な考えを持ち、内容を信じている人もいるが少数派。
このことはヘイト本が一部の出版社や編集者だけの問題ではないことを示している。

編集者、取次の従業員、書店員は与えられた仕事をこなすだけで、仕事の意味について考えようとしない出版界はアイヒマンだらけ。

嫌韓・反中を煽り煽られる日本人と、反ユダヤ人を煽り煽られるドイツをはじめとするヨーロッパの人びとが似ていると感じるのだ。
在特会が主張する「在日特権」なるものは虚構だ。(略)しかし、でっちあげであれなんであれ、「不当に利益を得ているヤツがいる」「彼らを許すな」と焚きつけられ、燃え上がる人びとがいる。しかも彼らのなかの少なからぬ人びとは正義感に駆られ、それが正しいことだと信じている。(略)人は目のまえに共通の敵があらわれるとにわかに徒党を組み、興奮し、理性を失い、熱狂し、陶酔する。学校のイジメと同じだ」
「人は騙されやすい。騙されやすいからこそ、差別は拡大されやすく、憎悪は扇動される。そこに火をつけ、燃料を供給するのがヘイト本だ。
いま、欧米のイスラム教徒や中東出身者が「自分もテロリストと混同されてひどい目に遭うのではないか」と怯えるように、あるいは、KKKの亡霊に怯えるアフリカ系アメリカ人たちのように、在日コリアンは不安な日々をすごしている。自分や家族が傷つけられるのではないかと。幼い子供をもった人は胸がつぶれる思いだろう。


ヘイト本を「仕事だから」と割り切って作る編集者、営業する担当者は公害企業の従業員や経営者と似ている。
古河鉱業の従業員は足尾銅山鉱毒公害についてどう考えていたのか。
チッソの従業員は会社が出す廃液が水俣病を引き起こすことをどう考えていたのか。
東電の従業員は原発事故と放射性物質による汚染をどう考えているのか。

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植松聖「人を幸せに生きるための7項目」

2021年03月01日 | 問題のある考え

「FORUM90」vol.174に、死刑囚表現展2020のことが載っています。
神奈川新聞に「植松死刑囚が作品出展」という記事がネット掲載され、マスコミの取材が殺到、1985人が来場し、369人がアンケートに記載したそうです。
https://www.news-postseven.com/archives/20201107_1610493.html?DETAIL

植松聖死刑囚は「人を幸せに生きるための7項目」を出展しています。

死刑囚の表現展様
大変御世話になっております。この度は、より多くの人間が幸せに生きるための7項目を提案致します。僭越ながら、御高覧頂けましたら幸いです。
安楽死
意思疎通がとれない人間を安楽死させます。また移動、食事、排泄が困難になり、他者に負担がかかる場合は尊厳死することを認めます。
大麻
大麻は嗜好品として使用・栽培することを認めます。楽しい草で「薬」と読みます。約250種類の疾患に効果があり、簡潔には、楽しい心で超回復させます。
カジノ
カジノ産業に取り組むため、小口の借金を禁止します。支払い能力を超えると理性を保つことができません。その現金は幻影で、実際にはありません。
軍隊
軍隊を設立し、男性は18歳から30歳までに1年間訓練することを義務づけます。「鉄は熱いうちに打て」それと同様に人間も、まだ精神が柔軟なうちに、厳しく試練を与えられないといけません。
SEX
婚約者以外と性行為をするなら避妊することを義務づけます。性欲は間違った快感を覚えてしまうと、相手を深く傷つける犯罪になります。
一、避妊をする 二、清潔にする 三、相手を慈しむ
美容
美は善行を産み出すため、整形手術は保険を適用します。しかし、整形しても子どもは遺伝子を受け継ぐので、交際前に報告します。
環境
深刻な環境破壊による地球温暖化を防ぐため、遺体を肥料にする森林再生計画に賛同します。人糞を肥料にしなければ農作物は育ちませんし、遺体を肥料にしなければ森林破壊は止まりません。
長文を拝読頂き誠に有難うございました。
乱文乱筆ご容赦下さい。お身体を何卒ご自愛願います。
二〇二〇令和二年七月十九日 植松聖

驚いたのが、アンケートの感想に植松聖死刑囚を賛美するものがあること。

私は、植松聖死刑囚の作品を目当てとして今回の展示会に足を運ばせていただきました。確かに彼がやった事は殺人という犯罪です。しかし、彼の主張である「意思疎通がとれない人を安楽死させる」という提案を完全に否定することはできません。様々な考えがあることは承知していますが、日本は外国に比べ、このような制度が確立されていません。そのため、植松死刑囚は自ら「ダークヒーロー」となり革命を起こしたかったのではないでしょうか? 政府の皆さんには、植松を死刑にするだけでなく、「生命のあり方」を今一度考え直していただきたいと思っております。(10代)

既存の倫理観にとらわれ、メディアの偏向報道により、その考えの深さを知られていない、植松聖さんの言葉を拝見することができ、よい経験となりました。これからも、このような立場の人々の表現・言葉を見せていただける機会があると嬉しいです。(20代)

(略)植松聖さん、たくさんの人を殺してしまったけれど、この7項目をよんでもおかしいとは思わないし、共感できる所ばかりです。革命家の方なんだと感じます。アートを通じて命ある限り表現して欲しいと思います。(30代)


月刊『創』編集部編『開けられたパンドラの箱』に載っている「より多くの人間が幸せに生きる為の7項目の秩序」では説明文はこのようになっています。

1.安楽死
仮に、貴殿が大きな事故にあい会話、移動、食事もできず糞を垂れ流す身体になります。元気な頃の貴殿はどうするべきだと考えますか?
私は自殺スイッチを押すべきだと考えております。他人に迷惑をかけて不幸にするのであれば、やむを得ない選択です。同意がなくては安楽死できないのでは困ります。
死の決断を家族に委ねることは、大きな心理的負担になることが想像できます。心失者になれば自分で判断できませんので、全ての人間が死を認めなくてはなりません。
逆に、金はいくらでも支払うので、何があっても延命して欲しい場合に同意書にサインをするようにします。
覚悟をもつことで、より有意義に人生を過ごせるはずです。
2.大麻
(略)
大麻を認めると生産性が落ちると誤解もありますが、生産性が落ちる理由は〝気温〟です。脳は電気信号で働き、電気信号は冷却された方が鋭く発信され、熱による歪みは信号を遅らせてしまいます。「大麻」と「麻薬・覚せい剤」の違いを、より明確にするべきだと考えております。
3.カジノ
(略)
4.軍隊
(略)
5.SEX
性欲は、食欲と睡眠欲に並ぶ生命の三大欲求ですが、性欲だけは間違った快感を覚えてしまえば、それは相手を深く傷つける犯罪になります。
ただ、改めて何を教えるべきか私も分からないことが多々あるのですが、
一、絶対に避妊をする。
二。身なりを清潔にする。
三、陰部を舐め続ける。(性行為前に10~30分)
この三項目を男子学生の皆様にお伝え致します。
6.美容
ブサイクであることは、美しい人間には想像もつかない程の不幸です。それだけで心ない揶揄や嘲笑の的となる存在です。
美しければ笑顔で向えられますし、自然と表情が明るくなり、すぐに友人ができます。「毛嫌いする」というように、目から下の毛は邪悪であり、ブサイクはできる限り改善すべき病気です。
しかし、整形しても子どもは本来の遺伝子を受け継ぎますので、交際前に改善の有無を報告します。
美は人生最大の欲求で、美を求めることは正義と考えております。
7.環境
(略)
アフリカ大陸では人糞を肥料にする知識が根づいていない為に農作物が元気に育ちません。そして、人類は遺体を肥料にする知識が根づいていない為に農作物が元気に育ちません。そして、人類は遺体を肥料にする知識が根づいていない為に森林破壊を止めることができません。
人間を自然のサイクルに戻す必要がございます。


真面目なのかふざけているのかわからない提案です。
これを読んで、「この7項目をよんでもおかしいとは思わないし、共感できる所ばかりです」と言う人がいることが信じられません。
安楽死についてですが、本人や家族の同意なしに命を奪うことを認めていたらどうなるか、想像できないのでしょうか。

もちろん、否定している感想もあります。

インターネット上で植松死刑囚の思想に共感をよせる人々が増えていることに危惧を感じる。まるでナチズムのカリカチュアだ。(20代)
(略)人が人の命の必要性を裁いてしまうことは、それこそ植松死刑囚と同じようなものの考え方だと思います。もっと一人ひとりが死刑制度の是非について考えていくにはどうしたら良いか、考え続けたいです。(20代)


佐高信『日本は誰のものか』に「自分はどこかおかしいのではないかと考えている人間はまだ大丈夫。危ないのは、自分はおかしくないと思っている人間だ」とあります。
そのとおりだと思います。

コメント
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