三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

コロナ陰謀論(3)陰謀論とは?

2021年06月28日 | 陰謀論

新型コロナウイルス否定論やワクチン有害論自体が陰謀論だというわけではないと思います。
コロナ陰謀論は単にワクチンの危険性を訴えているのではありません。

陰謀論とは、出来事や事件を背後で操っている人・組織(ユダヤ人、フリーメーソン、ディープ・ステート、ビル・ゲイツなど)がいるという荒唐無稽な主張です。
ワクチン接種に反対する人の中には、そうした人や組織が世界を支配しようと陰謀をたくらんでいると考えている人たちがいます。

陰謀論の定義です。

特定の個人ないし組織があらかじめ仕組んだ筋書き通りに歴史が進行したという考え。(呉座勇一『陰謀の日本中世史』)

 

反知性主義者たちの肖像」(『日本の反知性主義』)「陰謀史観というのは、どこかにすべてをコントロールしている張本人がいるという仮説である。(内田樹「反知性主義者たちの肖像」『日本の反知性主義』)


陰謀論者はあらゆるものに決まったパターンが存在すると信じ、隠された意味を読み取ろうとします。
自然現象も人為的に起こされたと陰謀論者は考えます。(東日本大震災は地震兵器によって起こされたなど)

何事にも偶然はない。
あらゆる出来事は意図的に発生する。
陰謀を画策する者たちは正体や活動を隠蔽する。
表面上は清廉潔白に見えても無害だという保証にならない。
そうして、陰謀論を作り上げるわけです。

もっとも、ある組織が実際に裏で操って事件を起こす場合があります。
たとえば、グアテマラのアルベンス政権、チリのアジェンデ政権を倒した軍事クーデターは、資金を出し軍事援助をしたCIAが黒幕です。
歴史修正主義者にとって、南京事件や慰安婦問題、関東大震災での朝鮮人虐殺などはデマであり、反日勢力が日本をおとしめるための陰謀だと考えるでしょう。
陰謀論か事実か、その見極めは簡単ではありません。

呉座勇一『陰謀の日本中世史』に、秦郁彦『陰謀史観』にある陰謀論の特徴を紹介されています。

①因果関係の単純明快すぎる説明
陰謀論は、ある出来事が起こるには複数の要因があるのに、一つの要因に単純化して説明するので、単純明快で分かりやすいことが多い。
実際はさまざまな要因が絡み合って半ば偶発的に起こる。
コロナ禍は何者かによって作り出された。

②論理の飛躍
状況証拠しかないのに、自分の憶測や想像で話を作っていく。
ワクチンの接種には秘密の目的が隠されている。
コロナ陰謀論は、Youtubeで見た、ブログに書いてあったなど、根拠がはっきりしません。

③結果から逆行して原因を引き出す
結果から逆算して説明し、事件によって最大の利益を得た者が真犯人だと決めつける。
たとえば、アメリカはペリー来航以前から日本を支配しようとしたなど。
突然、未知の伝染病が世界中に広まることはおかしい。

④挙証責任を批判者側に転嫁する
陰謀論は明確な証拠に立脚していない。
そのことを批判されると、「証拠となる資料が廃棄された」、もしくは「隠蔽されている」と逆に非難する。
UFOの実在を信じる人は「UFOが存在しないことを証明しろ」と迫るが、宇宙人が地球に近づく可能性はゼロではないので、存在しないことは証明できない。

陰謀論者「コロナのワクチンを接種すると不妊になる」
河野太郎大臣「ありとあらゆるワクチンが出ると、『打つと不妊になる』という話になるが、全部デマだ」
陰謀論者「不妊にならないことを証明しろ」
なんでもそうですが、100%成り立たないと証明することは困難です。

もう一つ、陰謀論の特徴をつけ加えるなら、つじつまが合わない、矛盾があるということです。
新型コロナウイルスが存在しないのなら、多くの人が肺炎にかかり、死亡する人も多いことをどうやって説明するのか。
ワクチン接種によって何十億もの人にマイクロチップを埋め込むなら、大量のマイクロチップをどこで生産したかのか。
日本で悪魔主義者が子供を3万人も誘拐しているのに、警察庁の統計だと、20歳以下の行方不明者は18000人ぐらい。
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/R01yukuefumeisha.pdf

陰謀論には他にも突っ込みどころはたくさんあります。
でも、陰謀論を信じている人はそうしたことは気にしないと思います。

ロバート・T・キャロル『懐疑論者の事典』は超自然・オカルト・超常・疑似科学などについて書かれた本です。
超自然・オカルト・超常・疑似科学などを信じている人は、証拠や反論を提示してもたぶん時間の無駄だから、読者対象として想定していない。

わたしはいろいろ調べてみて、〝トゥルー・ビリーバー(信じ込んでいる人)というのはみずからの信念のことを批判する議論やデータがあると決まって、重要でないとか、関係がないとか、ごまかしだとか、インチキだとか、権威がないとか、非科学的だとか、不公平だとか、偏向しているとか、了見がせまいとか、非合理的だとか、悪魔的だとみなすものだ〟と確信するようになった。

トゥルー・ビリーバーに陰謀論信奉者を加えてもいいと思います。

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コロナ陰謀論(2)コロナ陰謀論を信じる人数

2021年06月20日 | 陰謀論

新型コロナウイルスをめぐる陰謀論を信じている人はどれくらいいるのでしょうか。

石田雅彦「新型コロナ感染症:「陰謀論」を信じる人は「感染防止の社会規範」を守らない」(2020年6月11日)
オックスフォード大学の研究グループが、地域や性別、人種、収入などが偏らないようサンプリングした成人の英国人2501人を対象に、新型コロナ感染症とその対策について陰謀論に関係したアンケート調査を実施した。約半数の人は陰謀論を信じていなかったが、残りのうち1/4の人はある程度、信じている傾向がみえた。さらに残りの25%のうち、約15%の人は陰謀論に一貫して支持を示し、約10%の人は確固として陰謀論を信じていたという。これらの陰謀論を信じる人は、新型コロナ感染症に関するものだけでなく、ワクチン接種や気候変動などの陰謀論にも支持を示し、制度や社会に対する強い不信感を持つ傾向があった。
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20200611-00182749/

少々わかりにくい文章ですが、コロナに関する陰謀論を信じていない人が50%、ある程度信じている人が25%、支持している人が15%、確固として信じている人が10%だとすると、イギリスではコロナやワクチンの陰謀があることを否定しない人が国民の半数もいることになります。

アメリカの世論調査では、共和党支持者の79%がアメリカ大統領選挙に不正があったと答えている。
共和党の支持者が国民の約4割だとすると、不正があったと信じる人は国民の3分の1です。
https://mainichi.jp/articles/20201121/k00/00m/040/004000c

共和党支持者やトランプ信奉者の多くがワクチン接種への懸念や反発を持っており、共和党員の4割以上がワクチンを接種しないつもりだと答えている。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/04/3-254.php

2020年6月時点で、米国の成人の71%が「コロナ感染拡大は権力者によって意図的に計画された」という陰謀論を聞いたことがあり、25%がそれを「確実に真実」「おそらく真実」と回答している。
https://mainichi.jp/articles/20210516/k00/00m/040/228000c

國枝すみれ「フェイクを信じ、正しい情報に耳を塞ぐ 陰謀論者の思考とは」(2021年5月18日)
・影の国家(ディープステート)が世界を支配しようとしている。
・トランプは彼らと戦っている。
・バイデン大統領たち政財界の悪魔崇拝者、小児性愛者が子供を誘拐している。
https://mainichi.jp/articles/20210516/k00/00m/040/228000c

こうした主張をQアノンはしています。
アメリカ人全体では15~20%がQアノンの主張に「完全に賛同」または「ほとんど賛同」と答えており、単純計算で約5000万人近くになる。
https://www.businessinsider.jp/post-235696

「コロナワクチンに監視のためのマイクロチップが含まれている」と信じている人は9%で、人口換算すると約3000万人になる。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c26fb5afb0ca9adfe35c0e11a9173964641ddfd5
日本ではどうなのでしょうか。

籏智 広太、千葉 雄登「「世の中は狂ってる」ある看護師が“反ワクチン”の陰謀論に染まるまで」(2021年6月8日)

渋谷駅周辺には「ノーマスク」の人たちによるデモが開かれていた。「ワクチンは危険だ!」「テレビは嘘だらけだ!」「新型コロナは科学的根拠なし!」
大きな声をあげ、拳を突き上げる参加者たち。BuzzFeed Newsが目視で数えたところ、300人近くが集まっていた。
未成年と思しき少女たちから、家族連れまで。ベビーカーを押して参加する女性の姿もある。

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/conspiracy-theory-5
日本でもコロナ陰謀論を信じている人はかなりいるようです。

コロナ陰謀論を信じる人が多いのは、新型コロナウイルスの存在を否定し、マスク・緊急事態宣言・時短・自粛などは必要ないと主張し、さらには陰謀論を説く人がいるからです。
その中には、大学教授、医師、ファイザー社の元副社長といった人たちもいます。

もっとも、ファイザー社の副社長はデマだそうです。
籏智広太「コロナワクチンが「不妊症」や「流産」の原因に? 誤情報が世界で拡散。“ファイザー元副社長”が発端に」(2021年5月3日)
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/vakzin-fc-2
おまけにマイケル・イードン氏は副社長ではないし、2011年に退社しているそうです。
https://factual.afp.com/las-falsedades-del-cientifico-britanico-y-exempleado-de-pfizer-sobre-las-vacunas-y-el-covid-19

陰謀論をあおっている人たちが陰謀論を信じているとは限らないようです。
國枝すみれ「最大の問題は「偽情報」 ワクチンをめぐる在米研究者の警告」(2021年2月14日)

峰宗太郎氏(米国国立研究機関博士研究員)は「一般人から科学者までが不確実・不正確な情報を流している」と警告する。(略)
「遺伝子を書き換えられて違う人間になってしまう」「不妊になる」「ワクチンの中にマイクロチップが埋め込まれている」――。世界では今、荒唐無稽な偽情報がSNSやYouTubeで拡散されている。
科学者までもが偽情報を拡散
「まったくの一般人からワクチン研究をしていた科学者まで、いろんな人が偽情報を流しています。承認欲求、ビジネス目的、信者をつくりたい、愉快犯、所属組織への復讐など、目的はさまざまでしょう」。恐ろしいことに、米国立衛生研究所のワクチン研究グループでプロジェクトを率いていた女性までが偽情報発信の中心になっているという。

https://mainichi.jp/articles/20210213/k00/00m/040/122000c

アメリカ大統領選挙の不正を主張する人もそうです。
トランプ派のシドニー・パウエル弁護士は大統領選挙に不正があった、票がすり替えられた、イランと中国が投票機に侵入したと主張した。
シドニー・パウエルに非難されたドミニオン社は約1300億円の名誉毀損訴訟を起したのですが、シドニー・パウエルの弁護団は「(彼女の発言は)政治的方便なのだから一般的な人は信じるわけがない」という主張を展開した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8ef8a0b9d29664d8612807cebfd1b98d78e8145f
つまり、ウソを信じる人がバカなんだと言ってるわけです。

内田樹「反知性主義者たちの肖像」(『日本の反知性主義』)にこうあります。
反知性主義者は、少し時間をかけて調べれば簡単にばれる嘘をつき、根拠に乏しいデータや事例を駆使して自信たっぷりに語る。これほど自信ありげに断言するからには、きっと真実に違いないと人々は推論する。けれども、時間が経つうちに話につじつまの合わないところが出て来る。疑問に思って話の裏を取ろうとする人も出てくる。すると、彼は「そんな話をしているんじゃない」と一喝して、また違う話を自信たっぷりに断言する。こういうことが何度が繰り返されているうちに、人々はどうも彼はその場しのぎで嘘を言っているだけではないのかと思う。

こういった人たちは、嘘をついていることが暴露されたら失うものが多いのがわかっていて、なぜ嘘をつくのか。
本当に不思議です。

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コロナ陰謀論(1)

2021年06月13日 | 陰謀論

新型コロナウイルスを否定し、ワクチン接種を拒否する人が増えているそうです。
私の知人もフェイスブックでそうした主張の投稿をたくさんシェアしています。

たとえば山本太郎さんに「コロナの茶番劇はいつ終わるんですか」と質問しているものです。
https://www.facebook.com/268759603556377/videos/1167675300320872/
「コロナウイルスなんか存在しない」
「PCR検査は数々のウイルスに反応する。陽性反応が出たのをすべて新型コロナウイルスにカウントしている。陽性反応者は新型コロナウイルスの感染者ではない」
「メディアと政府がコロナの騒動を作った」
「厚労省が各自治体に亡くなった人はコロナ感染者にしろ、虚偽の報告をしろと通達を出している」

山本太郎さんは「あなたから出されることにファクトが一つも確認されない」とあっさり論破しています。
こんな説得力のない動画をどうして投稿するのか不思議です。
質問した人は「コロナはただの風邪だ」と言ってた立花孝志さんが感染したことをどう思っているのでしょうか。
https://www.chunichi.co.jp/article/270909

新型コロナウイルスの存在を否定するだけならまだしも、そこに陰謀を主張する人もいます。
「ワクチンで「黒幕が人類管理」「人口削減が狙い」…はびこる陰謀論、収束の妨げにも」(読売新聞2021年5月16日)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210515-OYT1T50339/

コロナ陰謀論とアメリカ大統領選挙での大規模不正がどうして結びつくのか。
福井県議会議員の議会報告(2021年2月22日発行)に驚くべき「事実」が書かれています。
http://www.ss.apdw.jp/pdf/hot102.pdf

アメリカ大統領選挙は共産主義による全体主義をめざすディープ・ステート(闇の支配者)と光りの勢力(トランプ陣営)との戦い。
「トランプ大統領が戦っていたのは、アメリカ大統領選ではなく、地球45万年を支配してきた悪魔崇拝者、闇の勢力だった」
闇の勢力が米大統領選で不正を行ってトランプを落選させた。

悪魔崇拝者の儀式に子供たちが生贄として殺され、性的・肉体的に虐待されている。
毎年、世界では百万人、日本では3万人の子供が誘拐され、行方不明になっている。
世界中の地下には誘拐された子供たちが閉じ込められており、バチカンやホワイトハウスの地下が含まれている。
昨年5月5日、東京ディズニーランドの地下から2千名あまりの子供が救出された。

新型コロナ騒動は、「闇の勢力」が随分前から計画してきたもの。
計画の概要
・まず死亡率が大したことのない新型のウイルスを開発する。
・それをドローンを使って大々的に世界に散布する。
・各国政府、医療機関に指示を出し、あらゆる原因の死者を何でもかんでもこのウイルスによる死者にカウントする。
・マスコミに指示を出し、連日大々的に報道させて恐怖心をあおる。
・ロックダウンを起こし、人間を分断する。
・一度騒ぎを収束させ、その後もう一度パンデミックを起こして、2度目のロックダウンを行う。
・恐怖におののく人々に、ワクチン開発成功の知らせを届ける。
・ワクチンを世界中の人々に強制接種させ、それによって人口の削減と個人の支配を完成させる。

「DNAワクチンは殺人兵器」
ビル・ゲイツは人口を削減する目的でのワクチン活用を明言している。
mRNAワクチンを打つことで、本来持っている自然免疫システムが崩壊し、あらゆるウイルスの侵入に対して免疫細胞が正常に防衛反応しない状態に変異する。

勇気ある医師の発言
「ワクチンは数百万の大量死を招き、人口が半減する」
「ワクチンを打てば、5年以内に死ぬ」

ワクチンを打たせることで何を実現するのか、3つの説がある。
1.ワクチンに毒を入れる、もしくはワクチンの副作用で多くの人を殺す。
2.ワクチンに不妊となる薬を混入し、出生率を減らす。
3.ワクチンにマイクロチップを混入し、人々を管理する。

他にもこんなことが書かれています。
バイデン大統領の就任式はスタジオで録画されたもの。
大統領就任式に出ていた人の多くは役者やゴム人形。
バイデン親子は国家反逆罪で逮捕されており、多分この世にはいない。
テレビに出たバイデンは影武者で、クローンが用意される。
9・11にツインタワーに旅客機が突っ込んだ映像はCG。

1871年、クーデターによってアメリカ合衆国を法人化したワシントンDCという外国法人がアメリカと国民から財産を奪い続けてきた。
バチカンからイスラエルに通じる地下道から発見された金塊は世界のGDPの4年分、3垓円もあった。
ディープステートが世界から搾取していたお金が分配されるようで、日本国民1人当たり6億円と見積もられている。
ベーシックインカムで、1人が毎月数十万円もらえるようになる。

こうしたことが書かれています。
光と闇の戦いについては、大田俊寛『現代オカルトの根源─霊性進化論の光と闇』にあるように、昔から同じような主張がされています。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/m/201401
陰謀論は基本、同じ考えのくり返しなのです。

町山智浩『トランピストはマスクをしない』を読むと、コロナ禍がなければトランプは再選されていたかもしれないと思います。
トランプ支持者がコロナ陰謀論を信じるのはそのせいでしょうか。

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『アンモナイトの目覚め』と『メアリー・アニングの冒険』(2)

2021年06月06日 | 映画

吉川惣司、矢島道子『メアリー・アニングの冒険』によると、化石の発掘は簡単ではありません。

ライム・リージスにある数マイルにわたる崖は海岸線と接しており、大岩がゴロゴロしていて、しかも濡れているので歩きにくい。
頭上から岩が落ちてくることもある。
メアリー・アニングはそういうところを時には1日十数kmも歩いた。

大きな化石は急斜面の崖の中腹から出る。
大きな岩は1m以上はあり、数人がかりでも動かすことはできない。
地層はもろく、化石を壊しかねないので、はしごや足場を組むなどして発掘しなければいけない。
数人を雇って足場を組み、岩を運ぶには十数人を雇う必要があるため、数日分の日当がいる。

フランシス・リー『アンモナイトの目覚め』には、メアリーとシャーロットが化石を掘り出して持って帰る場面がありましたが、あんな簡単なものではないようです。

さらに、化石を観察可能な状態にするために骨の周囲の岩をはがすには解剖学の知識が必要となる。
メアリーは現生生物を解剖して化石と比較し、大学教授と研究者と渡り合っていた。

木箱に梱包し輸送する費用は化石の売却料金に含まれる。
化石が売れても元が取れない場合もあると想像できる。
アニング家の生活が楽ではなかったのは映画でもうかがわれます。

1825年、ロデリック・マーチソン(1792~1871)と妻のシャーロット・マーチソン(1788~1869)がライム・リージスを訪れる。
2人は1815年に結婚、子供はいない。

映画では、メアリーよりかなり年下のシャーロットは独断的な夫の言いなりになっています。
しかし実際は、シャーロットはメアリーの11歳年上。
地質学を学んでいたシャーロットは夫に地質学に関心を向けさせ、夫の経歴や地位が向上することに尽くした。
ロデリックは1831年に地質学会会長になり、1846年にはナイトの称号を得、1866年には准男爵になっている。

1829年、メアリーは地質学会から招請されてロンドンに行き、マーチソン家に泊まる。
映画とは宿泊の目的が全然違います。

マーチソン家には数千通の手紙が残されており、その中にメアリーからシャーロット宛に書いた手紙が3通ある。
よくもまあそんなにたくさんの手紙を長年保存していたものだと思うし、マーチソン家の広さが想像できます。

『メアリー・アニングの冒険』を読んで、シャーロットは夫の名声のために、メアリーは化石を売るために、お互いが利用し合っているように感じました。
映画でのメアリーとシャーロットとの関係は、残念ながらまったくのフィクションらしいです。

1831年と1832年、家族とライム・リージスを訪れたアンナ・マリア・ピニー(18歳か19歳)はメアリーと親しくなった。
若くして死んだアンナ・マリア・ビューはシアーシャ・ローナン演じるシャーロットのモデルかもしれません。

メアリーが30歳のころから化石の産出量が減ってきて、いいものがなかなか見つからなくなった。
しかも、経済恐慌のために化石の価格が下落し、メアリーは経済的に追い詰められた。
1838年に政府から報奨金300ポンドと年金25ポンドをもらうが、生活は相変わらず貧しかった。

メアリーが40代になると、新発見は途絶えた。
1842年に母親が78歳で亡くなる。
ですから、映画は1840年ごろです。

1843年、4フィート3インチのプラチオドンの頭の化石が4ポンド、4フィート3インチのイクチオサウルスが20ポンドの価格をつけている。
この年でメアリーの発掘活動は終わる。

1844年、訪れたザクセン王の一行は、6フィートの完全なイクチオサウルスの化石に15ポンドを要求される。

映画のメアリーは疲れた顔をしており、客にも愛想がなく、不機嫌そうな態度で応対します。
同時代の記録は、メアリーは取りすました衒学的で気むずかしそうな痩せた女と書いたものがありますが、親切で生き生きとした性格と書かれているものもあります。
化石を売ることで生計を立てているのですから、無愛想では食べていけません。
実際のメアリーは、化石を売るためにお世辞をふりまき、観光客に海岸を案内しています。
もっとも、映画で描かれたころは収入が減り、先の見通しも立たなくなっているということもあり、生活に疲れていたのかもしれません。

1945年、胸のしこりに気づく。
痛み止めのため阿片チンキを使う。
1846年、地質学会が年金25ポンドの支給を可決。
ということは、年収100万円程度で生活していたことになります。
1847年、乳ガンで死亡、47歳。

ダーウィンの『種の起源』が出版されのは1859年です。
化石はノアの大洪水で絶滅した生物だと考えられていましたが、自然は長い時間でゆっくりと形を変えるという考えも唱えられていました。
メアリーは化石や古代生物についてどのように考えていたのかと思います。

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