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家屋への入居目的は単に特例の適用を受けるため、生活の拠点と認めず

2023-05-17 09:59:38 | Weblog

特例の適用には注意したいですね。

ご参考に。

【非公開裁決】請求人の本件家屋への入居目的は単に特例の適用を受けるため、生活の拠点と認めず


 請求人が、家屋(譲渡家屋)およびその敷地を譲渡した当時、譲渡家屋以外にも家屋(請求人家屋)を所有していたが、譲渡前の一定期間は、請求人家屋をほとんど利用しておらず、譲渡家屋の所在地を住民票上の住所と定め、専ら譲渡家屋で生活していたため、請求人の生活の拠点は譲渡家屋にあったといえるのであるから、租税特別措置法(平成30年法律第7号による改正前のもの)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定による特例(本件特例)の適用が認められるとして、特例を適用して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人が譲渡家屋を生活の拠点としていた事実は認められず本件特例を適用することはできないとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の取消しなどを求めていた事案で、国税不服審判所は、請求人の主張を棄却する判断をした(令和4年4月5日付、非公開裁決)。

【事実】

(関係法令)

 租税特別措置法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下「措置法」)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項は、個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなった場合には、譲渡所得の金額の計算上、3000万円(譲渡所得の金額のうち同項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が3000万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除する旨規定している。

 また、措置法第35条第2項は、同条第1項に規定する居住用財産を譲渡した場合とは、個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合、または当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなったものの譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなったものとともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡を、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合をいう旨規定している。

(基礎事実)

 イ 請求人は、〇〇、〇〇に所在する家屋(家屋番号:〇〇、種類:居宅、構造:木造かわらぶき2階建、総床面積:109.84㎡。以下、当該家屋を「本件家屋」)およびその敷地を含む土地を、請求人の母から相続により取得した。

 請求人が本件家屋を相続した当時、本件家屋には、請求人の姉が居住していた。

 ロ 請求人は、平成8年10月15日、〇〇および同所〇〇に所在する家屋(家屋番号:〇〇、種類:居宅、構造:木造かわらぶき平家建、総床面積:173.00㎡。以下、当該家屋を「請求人家屋」)を新築した。

 ハ 請求人の姉は、〇〇に死亡し、本件家屋は空き家となった。

 ニ 請求人は、28年4月21日、〇〇ほか1人(以下「本件買主ら」)との間において、本件家屋および本件家屋の敷地(〇〇ほかから文筆。合計面積414.38㎡)を、合計〇〇で譲渡する旨売買契約を締結した。その後、本件家屋の敷地を実測したところ、当該敷地の面積が391.57㎡であったことから、請求人は、28年6月26日、本件買主らとの間において、当該売買契約の売買代金を〇〇に減額する旨変更契約を締結した。

 ホ 請求人は、28年7月13日、本件買主らに対し、本件家屋および本件家屋の敷地を引き渡した(以下、この譲渡を「本件譲渡」)。

(審査請求に至る経緯)

 イ 請求人は、28年分の所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」)について、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、措置法第35条第1項の規定による課税の特例(以下「本件特例」)を適用した上で、確定申告書に記載し、法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件申告」)。

 ロ 原処分庁は、令和3年3月19日付で、本件譲渡に本件特例の適用は認められないなどとして、更正処分(以下「本件更正処分」)および過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」)をした。

 ハ 請求人は、3年6月21日、原処分の取消しなどを求めて審査請求をした。

【争点】
 本件家屋は、本件特例が適用される請求人の居住用財産に当たるか否か。

【請求人の主張について】
 以下の本件家屋の構造および設備の状況並びに請求人の生活状況からすれば、本件家屋は本件特例の対象となる居住用財産に当たる。

 本件家屋には、5つの和室があり、電気、水道を使うことができ、台所、風呂、トイレ等の生活に必要な設備が設置されていた。

 請求人は、26年5月7日から27年2月19日までの間(以下「本件期間」)、本件家屋の所在地を住民票上の住所とし、実際に、本件家屋で就寝し、本件家屋の設備を利用することによって生活していた。

 また、請求人は、本件家屋のほかに、本件家屋から約5m離れた場所に請求人家屋を所有しているが、請求人家屋をほとんど利用しておらず、専ら本件家屋で生活をしていたことからすれば、請求人の生活の拠点は請求人家屋ではなく、本件家屋である。

【原処分の主張について】
 以下の本件家屋および請求人家屋の設備の利用状況並びに請求人の生活状況からすれば、本件家屋は本件特例の対象となる居住用財産に当たらない。

 本件家屋のガスは、20年10月4日に閉栓され、本件家屋の水道の使用量(各2か月分)についても、24年1月から27年4月9日に閉栓されるまで、零㎥ないし6㎥であった。また、24年4月から28年4月までの電気使用量の平均値は、約14.3kwhであるところ、これは、総務省統計局が公表している全国の単身世帯の1か月当たりの電気代の約7%である。

 また、請求人は、本件家屋のほかに請求人家屋を所有しているところ、請求人家屋には請求人の妻が居住していること、請求人家屋に係る24年から27年までの電気およびガスの1か月当たりの使用料金は、総務省統計局が公表している〇〇の2人以上世帯の標準的な金額をいずれも超えていること、請求人が請求人家屋で入浴、洗濯および食事をしていた旨申述していたことからすれば、請求人の生活の拠点は本件家屋ではなく、請求人家屋である。

【審判所の判断】
(法令解釈)

 措置法第35条第1項は、個人が自ら居住の用に供している家屋または当該家屋とともにする土地等を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、その担税力が弱いことから、居住用財産の譲渡につき3000万円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取得を容易にすることを考慮して設けられたものである。

 上記の趣旨に照らすと、措置法第35条第1項に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、譲渡者が、短期間随時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうものと解される。そして、譲渡資産がこれに該当するか否かについては、その者の日常生活の状況やその家屋の利用の実態、その家屋の入居目的、その家屋の構造および設備の状況等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である。

(認定事実)

 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査および審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

 イ 本件家屋の売却に係る仲介の状況

 請求人は、25年頃、知人から、「本件家屋に税金がかかるのではないか」と言われたことを契機として、本件家屋の売却を検討し始めた。そして、請求人は、25年7月5日、不動産仲介業者に本件家屋の売却の仲介を依頼した。

 ロ 本件家屋への入居目的

 請求人は、当審判所に対し、本件家屋への入居目的が本件特例の適用を受け、本件申告に係る税金を安くするためであった旨答述した。

(当てはめ)

 本件特例の対象となる家屋とは、上記(法令解釈)のとおり、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいい、例えば本件特例の適用を受けるための目的で入居したと認められる家屋は、これに当たらない。

 これを本件についてみると、上記(認定事実)のイのとおり、請求人は、本件家屋に入居したと主張する本件期間以前から、不動産仲介業者に本件家屋の売却の仲介を依頼しており、請求人自身、上記(認定事実)のロのとおり、本件家屋への入居の目的が本件特例の適用を受けることにあった旨答述する。そして、実際にも、本件家屋の電気の平均使用料金は、全国の単身世帯の1か月当たりの電気の使用料金に比べ、極めて少ないことからすれば、請求人の本件家屋への入居目的は、単に本件特例の適用を受けるためであったと認められ、請求人が真に本件家屋への居住の意思を持っていなかったことは明らかである。

 以上のことからすれば、本件家屋は、請求人が真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたとは認められないから、本件特例が適用される請求人の居住用財産には当たらない。

(請求人の主張について)

 請求人は、本件期間の本件家屋での生活状況について、本件家屋で就寝、食事、洗濯等をし、1日のうち8割程度を本件家屋で過ごし、残りの2割を請求人家屋で過ごしていた旨等答述し、上記【請求人の主張について】欄のとおり、本件期間において、請求人家屋をほとんど利用しておらず、本件家屋の所在地を住民票上の住所と定め、本件家屋において就寝し、本件家屋の設備を利用することによって専ら本件家屋で生活していたのであるから、請求人の生活の拠点は本件家屋である旨主張する。

 しかしながら、請求人家屋の電気の使用料金が2人以上世帯の平均的な使用料金を超え、ガスや水道についても一定の使用実績がある一方、本件家屋の電気の使用料金が単身世帯の平均的な使用料金と比較して著しく少ない点および水道の使用量にあっては零㎥の月がある点において、請求人の上記答述およびそれに基づく主張は、客観的事実と整合しないし、本件家屋が本件特例が適用される請求人の居住用財産に当たらないのは、上記(当てはめ)のとおりである。

 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

( 税のしるべ電子版)

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