年末が近くなると譲渡事案の相談が増えてきます。
譲渡事案の取得費が不明の場合は
実務的に市街地価格指数を使う場合があります。
事例は大変参考になります。
ちょっと長く、ちょっと固いですが
興味のある方はお読みになって見てください。
【非公開裁決】相続した土地の取得費を市街地価格指数によって算出も概算取得費によるべきと判断
審査請求人は相続で取得した土地・建物を譲渡したことによる分離長期譲渡所得の金額の計算で、
同土地の取得費を市街地価格指数によって算出した上、根抵当権設定登記の抹消登記手続費用を譲渡に要した費用に含めて所得税等の確定申告をした。
これに対し、原処分庁が同土地の取得費は概算取得費によるべきであり、
また、同手続費用を譲渡に要した費用に含めることはできないとして所得税等の更正処分等をしたところ、
請求人が処分の取消しを求めていた事案で、国税不服審判所は原処分庁の主張を認め、
請求人の主張を退ける裁決を下した(令和2年12月15日付、非公開裁決)。
基礎事実
イ 土地について
請求人の祖父は、昭和23年7月2日に自作農創設特別措置法第16条の規定による売渡しにより本件土地を取得し、昭和25年5月10日にその旨の所有権移転登記手続をした。
その後、請求人の祖母は、祖父から相続により本件土地を取得し、その旨の所有権移転登記手続をした。
そして請求人は、祖母から相続により本件土地を取得し、平成14年7月24日に、その旨の所有権移転登記手続をした。
ロ 建物について
請求人の父は、昭和56年4月30日に本件土地に鉄骨造亜鉛めっき鋼板葺2階建の店舗・共同住宅(本件建物)を新築し、昭和57年7月19日にその旨の表題登記手続をした。
請求人は父からの相続により本件建物を取得後、平成12年2月1日に本件建物の所有権保存登記手続をし、同年6月5日に本件建物の一部取壊しを行い、同年9月11日に床面積を変更する変更登記手続をした。
ハ 譲渡について
請求人は平成29年12月6日、買主との間で本件土地および本件建物を●●●●●(非開示、以下同)で売買する旨の不動産売買契約を締結し、同年12月14日、同日を売買の原因とする所有権移転登記手続をした。
なお、本件売買契約書には、本件土地および本件建物(本件物件)の各譲渡価額の記載はなかった。
請求人は本件買主から本件譲渡物件の売買代金●●●●●のほか、固定資産税・都市計画税の清算金●●●●●の支払を受けた。
ニ 根抵当権の抹消登記費用について
請求人は、司法書士に対し、本件土地の一部および建物にそれぞれ設定されていた根抵当権を●●●●●、極度額を1000万円とする根抵当権設定登記の抹消登記手続を依頼し、平成29年12月14日にその対価として●●●●●(本件費用)を支払った。
ホ 請求人は、本件譲渡物件を平成29年12月まで貸付の用に供し、不動産収入を得ていた。
審査請求に至る経緯
イ 確定申告について
請求人は原処分庁に対し、平成29年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限までに提出した。請求人の本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の計算に当たり、その計算内容は要旨次のとおりであった。
(イ)譲渡価格
本件譲渡物件の売買代金に固定資産税・都市計画税の精算金を加算した金額とした。
(ロ)譲渡価額の内訳(本件土地および本件建物に係る価額)
本件売買契約書には、本件土地および本件建物の各譲渡価額の記載がなかったことから、本件建物に係る譲渡価額を本件建物の平成29年分の固定資産税評価額とし、売買契約書に記載した譲渡価額との差額を本件土地に係る譲渡価額とした。
(ハ)取得費
次のAおよびBの合計額とした。
A 本件土地
一般財団法人日本不動産研究所が公表する「市街地価格指数」を用いて、上記ロ)の本件土地の譲渡価額を、請求人が本件土地を譲渡した平成29年9月末現在の九州・沖縄地方の住宅地の指数である62・8%で除した金額に、請求人が祖母から本件土地を相続した平成13年3月末現在の市街地(六大都市を除く)の住宅地の指数である96%を乗じて計算した金額とした。
B 本件建物
請求人の平成29年分所得税等の確定申告書に添付された平成29年分所得税の青色申告決算書(不動産所得用)に記載された本件建物および店舗改装工事の各取得価額の合計額から、償却費相当額を差し引いた金額とした。
(ニ)譲渡に要した費用
本件費用を含めた金額とした。
ロ 更正処分等について
原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査により、令和元年12月13日付で、平成29年分の所得税等の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。
なお、本件更正処分における分離長期譲渡所得の計算に当たり、その計算内容は要旨次のとおりだった。
(イ)取得費
次のAおよびBの合計額とした。
A 本件土地
所得税法60条1項の規定により、請求人は、昭和23年7月2日から引き続き本件土地を所有していたものとみなされること、および請求人から本件土地の取得費に係る費用を明確にする資料の提出がなかったことから、租税特別措置法31条の4を適用して、本件土地に係る譲渡価額の100分の5に相当する概算取得費の額とした。
B 本件建物
請求人が原処分庁へ提出した平成29年分所得税等確定申告書に添付された平成29年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)に記載された本件建物および本件建物の取得費に算入される各費用の平成28年末における未償却残高から平成29年分の減価償却費の額を差し引いた金額とした。
(ロ)譲渡に要した費用
本件費用は、本件譲渡に要した費用とは認められないとした。
ハ 請求人は、更正処分等に不服があるとして審査請求をしたが、後に審判所に対して、本件建物の取得費は、原処分庁が計算した金額が正当である旨、主張を変更した。
争点は①本件土地に係る取得費はいくらか、②本件費用は本件譲渡に要した費用に該当するか否かの2点。
審判所の判断
争点①について
イ 法令解釈
所得税法60条1項は、同項所定の相続等によって取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨規定している。この規定は、同項所定の相続等においては、その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため、相続等による取得者が当該資産を譲渡する時点まで課税を繰り延べることとしたものであり、この規定により、取得者の譲渡所得の金額を計算する際には、前所有者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた前所有者の資産の保有期間に係る増加益も含めて取得者に課税されるとともに、前所有者の取得時期も引き継がれる結果、資産の保有期間についても前所有者と取得者の保有期間が通算されることになる(最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決)。
ロ 認定事実
原処分庁関係資料および当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)祖父および祖母に係る各相続は単純承認で行われた。
(ロ)請求人からは、当審判所に対しても祖父、祖母および請求人が本件土地の取得に要した金額および改良費等の額を直接証明する資料の提出はなかった。
ハ 当てはめ
本件土地は、昭和23年7月2日に祖父が自作農創設特別措置法16条の規定による売渡しにより取得し、その後、順次、祖母および請求人が単純承認で相続を原因として取得していることが認められる。
そうすると、祖父および祖母の各相続の時点では、資産の増加益が具体的に顕在化しないため、各相続の時点における増加益に対する課税が繰り延べられていることとなる。そして、請求人が本件土地を譲渡し、譲渡所得の金額の計算をする際には、祖父および祖母が本件土地を取得するために要した各費用が請求人に引き継がれ、課税を繰り延べられた祖父および祖母の資産の保有期間に係る増加益も含めて請求人に課税されるとともに、資産の取得時期も引き継がれる結果、資産の保有期間についても祖父および祖母の保有期間が通算されることとなる。
しかるに、請求人からは本件土地の取得に要した金額および改良費等の額を直接証明する資料の提出はなく、また、当審判所の調査によっても明らかにならなかったことから、本件土地の取得費の金額の計算においては、措置法31条の4第1項の規定による概算取得費の額をもって本件土地の取得費とするのが相当である。
ニ 請求人の主張について
(イ)請求人は、昭和23年に祖父が本件土地を取得した時点では誕生しておらず、この世に存在しない人間が、本件土地を引き続き所有していたとみなすことは不可能であるから、請求人が本件土地を取得した日は、請求人が祖母から相続した日である旨主張する。
しかしながら、請求人が、祖父が本件土地を取得した昭和23年7月2日から本件土地を引き続き所有していたとみなされることは前記のとおりであることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人がした一般財団法人日本不動産研究所の「市街地価格指数」を用いて算定した推認時価相当額をもって取得費とする方法は、平成12年11月16日裁決で国税不服審判所も合理性があると判断している旨主張する。
しかしながら、上記裁決は、昭和28年1月1日以後に取得した土地の取得費について判断した個別の事例判断であり、前提となる事実関係が異なる本件には当てはまらないものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
争点②について
イ 法令解釈
所得税法33条3項に規定する譲渡所得の金額の計算上控除する資産の譲渡に要した費用の額とは、資産の譲渡のための仲介手数料および登記費用等のように当該資産の譲渡のために通常必要となる直接の費用および当該資産の譲渡の価額を増加させるために当該譲渡に際して支出した費用を指すものと解される。
ロ 検討
(イ)本件費用について
資産の譲渡のために要した費用とは、資産の譲渡のために通常必要となる直接の費用および当該資産の譲渡の価額を増加させるために当該譲渡に際して支出した費用を指すものと解されるところ、一般に、根抵当権の抹消登記手続は、被担保債権の弁済、根抵当権設定契約の解除などに付随して根抵当権が消滅したことを明らかにするために行われるものであり、仮に、その抹消登記手続が事実上、本件譲渡物件の譲渡の前提で必要であったとしても、それ自体で不動産の譲渡価格を増加させるために支出されたものとは評価できず、その費用は本件譲渡物件の譲渡のために直接かつ通常必要な費用には当たらないというべきである。
したがって、本件費用は、譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件譲渡に要した費用に該当しない。
(ロ)請求人の主張について
請求人は、土地建物等の譲渡に要した費用は、架空計上、保有期間の修繕費、固定資産税に該当しない限り、経済社会の一般的常識からいって、その支払根拠が契約書類等で明らかであり、支払の事実が存在すれば、躊躇なく譲渡に要した費用として認めるべきである旨主張する。
しかしながら、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の譲渡のために要した費用とは、資産の譲渡のために通常必要となる直接の費用および当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用を指し、この点に関する請求人の主張には理由がない。
本件更正処分の適法性について
本件土地の取得費は、措置法31条の4第1項の規定による概算取得費の額とするのが相当であり、本件費用は譲渡に要した費用に該当しない。
そして、これらを前提に、当審判所において算出した請求人の平成29年分の総所得金額、分離長期譲渡所得の金額および納付すべき税額は更正処分等の金額といずれも同額であると認められる。
したがって、本件更正処分は適法である。
(2021年11月24日 税のしるべ電子版)
譲渡事案の取得費が不明の場合は
実務的に市街地価格指数を使う場合があります。
事例は大変参考になります。
ちょっと長く、ちょっと固いですが
興味のある方はお読みになって見てください。
【非公開裁決】相続した土地の取得費を市街地価格指数によって算出も概算取得費によるべきと判断
審査請求人は相続で取得した土地・建物を譲渡したことによる分離長期譲渡所得の金額の計算で、
同土地の取得費を市街地価格指数によって算出した上、根抵当権設定登記の抹消登記手続費用を譲渡に要した費用に含めて所得税等の確定申告をした。
これに対し、原処分庁が同土地の取得費は概算取得費によるべきであり、
また、同手続費用を譲渡に要した費用に含めることはできないとして所得税等の更正処分等をしたところ、
請求人が処分の取消しを求めていた事案で、国税不服審判所は原処分庁の主張を認め、
請求人の主張を退ける裁決を下した(令和2年12月15日付、非公開裁決)。
基礎事実
イ 土地について
請求人の祖父は、昭和23年7月2日に自作農創設特別措置法第16条の規定による売渡しにより本件土地を取得し、昭和25年5月10日にその旨の所有権移転登記手続をした。
その後、請求人の祖母は、祖父から相続により本件土地を取得し、その旨の所有権移転登記手続をした。
そして請求人は、祖母から相続により本件土地を取得し、平成14年7月24日に、その旨の所有権移転登記手続をした。
ロ 建物について
請求人の父は、昭和56年4月30日に本件土地に鉄骨造亜鉛めっき鋼板葺2階建の店舗・共同住宅(本件建物)を新築し、昭和57年7月19日にその旨の表題登記手続をした。
請求人は父からの相続により本件建物を取得後、平成12年2月1日に本件建物の所有権保存登記手続をし、同年6月5日に本件建物の一部取壊しを行い、同年9月11日に床面積を変更する変更登記手続をした。
ハ 譲渡について
請求人は平成29年12月6日、買主との間で本件土地および本件建物を●●●●●(非開示、以下同)で売買する旨の不動産売買契約を締結し、同年12月14日、同日を売買の原因とする所有権移転登記手続をした。
なお、本件売買契約書には、本件土地および本件建物(本件物件)の各譲渡価額の記載はなかった。
請求人は本件買主から本件譲渡物件の売買代金●●●●●のほか、固定資産税・都市計画税の清算金●●●●●の支払を受けた。
ニ 根抵当権の抹消登記費用について
請求人は、司法書士に対し、本件土地の一部および建物にそれぞれ設定されていた根抵当権を●●●●●、極度額を1000万円とする根抵当権設定登記の抹消登記手続を依頼し、平成29年12月14日にその対価として●●●●●(本件費用)を支払った。
ホ 請求人は、本件譲渡物件を平成29年12月まで貸付の用に供し、不動産収入を得ていた。
審査請求に至る経緯
イ 確定申告について
請求人は原処分庁に対し、平成29年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限までに提出した。請求人の本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の計算に当たり、その計算内容は要旨次のとおりであった。
(イ)譲渡価格
本件譲渡物件の売買代金に固定資産税・都市計画税の精算金を加算した金額とした。
(ロ)譲渡価額の内訳(本件土地および本件建物に係る価額)
本件売買契約書には、本件土地および本件建物の各譲渡価額の記載がなかったことから、本件建物に係る譲渡価額を本件建物の平成29年分の固定資産税評価額とし、売買契約書に記載した譲渡価額との差額を本件土地に係る譲渡価額とした。
(ハ)取得費
次のAおよびBの合計額とした。
A 本件土地
一般財団法人日本不動産研究所が公表する「市街地価格指数」を用いて、上記ロ)の本件土地の譲渡価額を、請求人が本件土地を譲渡した平成29年9月末現在の九州・沖縄地方の住宅地の指数である62・8%で除した金額に、請求人が祖母から本件土地を相続した平成13年3月末現在の市街地(六大都市を除く)の住宅地の指数である96%を乗じて計算した金額とした。
B 本件建物
請求人の平成29年分所得税等の確定申告書に添付された平成29年分所得税の青色申告決算書(不動産所得用)に記載された本件建物および店舗改装工事の各取得価額の合計額から、償却費相当額を差し引いた金額とした。
(ニ)譲渡に要した費用
本件費用を含めた金額とした。
ロ 更正処分等について
原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査により、令和元年12月13日付で、平成29年分の所得税等の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。
なお、本件更正処分における分離長期譲渡所得の計算に当たり、その計算内容は要旨次のとおりだった。
(イ)取得費
次のAおよびBの合計額とした。
A 本件土地
所得税法60条1項の規定により、請求人は、昭和23年7月2日から引き続き本件土地を所有していたものとみなされること、および請求人から本件土地の取得費に係る費用を明確にする資料の提出がなかったことから、租税特別措置法31条の4を適用して、本件土地に係る譲渡価額の100分の5に相当する概算取得費の額とした。
B 本件建物
請求人が原処分庁へ提出した平成29年分所得税等確定申告書に添付された平成29年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)に記載された本件建物および本件建物の取得費に算入される各費用の平成28年末における未償却残高から平成29年分の減価償却費の額を差し引いた金額とした。
(ロ)譲渡に要した費用
本件費用は、本件譲渡に要した費用とは認められないとした。
ハ 請求人は、更正処分等に不服があるとして審査請求をしたが、後に審判所に対して、本件建物の取得費は、原処分庁が計算した金額が正当である旨、主張を変更した。
争点は①本件土地に係る取得費はいくらか、②本件費用は本件譲渡に要した費用に該当するか否かの2点。
審判所の判断
争点①について
イ 法令解釈
所得税法60条1項は、同項所定の相続等によって取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨規定している。この規定は、同項所定の相続等においては、その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため、相続等による取得者が当該資産を譲渡する時点まで課税を繰り延べることとしたものであり、この規定により、取得者の譲渡所得の金額を計算する際には、前所有者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた前所有者の資産の保有期間に係る増加益も含めて取得者に課税されるとともに、前所有者の取得時期も引き継がれる結果、資産の保有期間についても前所有者と取得者の保有期間が通算されることになる(最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決)。
ロ 認定事実
原処分庁関係資料および当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)祖父および祖母に係る各相続は単純承認で行われた。
(ロ)請求人からは、当審判所に対しても祖父、祖母および請求人が本件土地の取得に要した金額および改良費等の額を直接証明する資料の提出はなかった。
ハ 当てはめ
本件土地は、昭和23年7月2日に祖父が自作農創設特別措置法16条の規定による売渡しにより取得し、その後、順次、祖母および請求人が単純承認で相続を原因として取得していることが認められる。
そうすると、祖父および祖母の各相続の時点では、資産の増加益が具体的に顕在化しないため、各相続の時点における増加益に対する課税が繰り延べられていることとなる。そして、請求人が本件土地を譲渡し、譲渡所得の金額の計算をする際には、祖父および祖母が本件土地を取得するために要した各費用が請求人に引き継がれ、課税を繰り延べられた祖父および祖母の資産の保有期間に係る増加益も含めて請求人に課税されるとともに、資産の取得時期も引き継がれる結果、資産の保有期間についても祖父および祖母の保有期間が通算されることとなる。
しかるに、請求人からは本件土地の取得に要した金額および改良費等の額を直接証明する資料の提出はなく、また、当審判所の調査によっても明らかにならなかったことから、本件土地の取得費の金額の計算においては、措置法31条の4第1項の規定による概算取得費の額をもって本件土地の取得費とするのが相当である。
ニ 請求人の主張について
(イ)請求人は、昭和23年に祖父が本件土地を取得した時点では誕生しておらず、この世に存在しない人間が、本件土地を引き続き所有していたとみなすことは不可能であるから、請求人が本件土地を取得した日は、請求人が祖母から相続した日である旨主張する。
しかしながら、請求人が、祖父が本件土地を取得した昭和23年7月2日から本件土地を引き続き所有していたとみなされることは前記のとおりであることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人がした一般財団法人日本不動産研究所の「市街地価格指数」を用いて算定した推認時価相当額をもって取得費とする方法は、平成12年11月16日裁決で国税不服審判所も合理性があると判断している旨主張する。
しかしながら、上記裁決は、昭和28年1月1日以後に取得した土地の取得費について判断した個別の事例判断であり、前提となる事実関係が異なる本件には当てはまらないものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
争点②について
イ 法令解釈
所得税法33条3項に規定する譲渡所得の金額の計算上控除する資産の譲渡に要した費用の額とは、資産の譲渡のための仲介手数料および登記費用等のように当該資産の譲渡のために通常必要となる直接の費用および当該資産の譲渡の価額を増加させるために当該譲渡に際して支出した費用を指すものと解される。
ロ 検討
(イ)本件費用について
資産の譲渡のために要した費用とは、資産の譲渡のために通常必要となる直接の費用および当該資産の譲渡の価額を増加させるために当該譲渡に際して支出した費用を指すものと解されるところ、一般に、根抵当権の抹消登記手続は、被担保債権の弁済、根抵当権設定契約の解除などに付随して根抵当権が消滅したことを明らかにするために行われるものであり、仮に、その抹消登記手続が事実上、本件譲渡物件の譲渡の前提で必要であったとしても、それ自体で不動産の譲渡価格を増加させるために支出されたものとは評価できず、その費用は本件譲渡物件の譲渡のために直接かつ通常必要な費用には当たらないというべきである。
したがって、本件費用は、譲渡所得の金額の計算上控除すべき本件譲渡に要した費用に該当しない。
(ロ)請求人の主張について
請求人は、土地建物等の譲渡に要した費用は、架空計上、保有期間の修繕費、固定資産税に該当しない限り、経済社会の一般的常識からいって、その支払根拠が契約書類等で明らかであり、支払の事実が存在すれば、躊躇なく譲渡に要した費用として認めるべきである旨主張する。
しかしながら、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の譲渡のために要した費用とは、資産の譲渡のために通常必要となる直接の費用および当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用を指し、この点に関する請求人の主張には理由がない。
本件更正処分の適法性について
本件土地の取得費は、措置法31条の4第1項の規定による概算取得費の額とするのが相当であり、本件費用は譲渡に要した費用に該当しない。
そして、これらを前提に、当審判所において算出した請求人の平成29年分の総所得金額、分離長期譲渡所得の金額および納付すべき税額は更正処分等の金額といずれも同額であると認められる。
したがって、本件更正処分は適法である。
(2021年11月24日 税のしるべ電子版)