おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

無言歌

2023-04-22 09:26:11 | 映画
「む」は2020/5/5からの「ムーラン・ルージュ」「ムーンライト」「麦の穂をゆらす風」「息子」「無法松の一生」「無法松の一生」と
2021/12/15の「娘・妻・母」でした。
今回は2作品です。

「無言歌」 2010年 香港 / フランス / ベルギー


監督 ワン・ビン
出演 ルウ・イエ ヤン・ハオユー シュー・ツェンツー
   リャン・レンジュン チョン・ジェンウー

ストーリー
1960年。
中国では、世界の誰にもしられぬまま、人々が辺境で死に向かっていた。
中国西部、ゴビ砂漠の収容所。
中華人民共和国の反右派闘争によって、多数の人間が甘粛省の砂漠にある政治犯収容所に送られ、強制労働についていた。
轟々と鳴る砂と嵐。
食料はほとんどなく、水のような粥をすすり、毎日の強制労働にただ泥のように疲れ果てて眠る。
かつて百花のごとく咲き誇った言葉は失われ、感情さえ失いかけた男たち。
董建義(ヤン・ハオユー)は、自分の死体を妻が持ち帰ることのできるように手配してほしい、と李民漢(ルウ・イエ)に言い残して命を落とす。
その後ある日、董顧(シュー・ツェンツー)が夫を探して上海からやって来る。
彼女は夫の死を知らされ、泣き崩れる。
数えきれない人間が葬られている砂漠で夫の死体を見つけることは不可能だと周囲の誰もが考えたが、彼女だけは決して諦めることなく、夫の死体を探し続ける。
愛する者に逢いたいと、ひたすらに願い、嗚咽する女の声が、いつしか男たちの心に忘れかけていた生命のさざ波を広げていく……。


寸評
この映画は中国共産党が党への批判を理由に行った反右派闘争を題材にしており、反革思想のレッテルを貼られた人たちが辺境の地で“労働改造“と称して過酷な生活を強いられた史実を基にした人間ドラマであるが、厳しい言論統制下にある中国だからこそ生まれた作品であろう。
政権批判を初め言論の自由が保障されている日本では発想すら思い浮かばない作品と言え、中国でよく撮ることができたものだと思う。
シーンの大半は地下壕の様子であることもあって内容は極めて暗い。
地下壕で寝起きして働かされている人が実にあっけなく死んでいく。
彼らは毛沢東によって右派分子の烙印を押され、辺境の労働教育農場に送られた知識人たちだ。
プロレタリア独裁を唱える政府に全国民独裁と言うべきだと言っただけで右派だと決めつけられて強制労働をさせられている。
彼らは農地の開拓をやらされているのだろうが、作物はとれず寒さと飢えと病に苦しむ毎日である。
上は人々を襲い、人の吐き出したものを食べる者もいるし、ネズミを捕らえて食料としている者もいるし、中には死体を食べたと罰せられる人も出てくる始末である。
そこには人間の尊厳などはない。
ワン・ビン監督は長廻しのロングショットで過酷な状況をたんたんと写し出していく。
ドラマチックなことは何も起こらない。
静かすぎる描写から、イデオロギーの名の下で行われた悲惨な政策への怒りと批判、犠牲になった人たちへの哀悼の気持ちが響いてくる。
中国は経済発展をして大国となったが、言論統制が厳しい一党独裁の国家体制は恐ろしさを感じる時がある。
描かれたことは過去のことなのかもしれないが、もしかすると今でも行われているのではないかとすら思ってしまう。
亡くなった人たち、生き延びた人たちに捧げるとなっているが、この映画からは救いも希望も感じ取れない。
告発だけをしていて中国では上映されることはないだろうと思う。