内田吐夢・中村錦之助に続き、稲垣浩・三船敏郎版の紹介です。
「宮本武蔵」 1954年 日本
監督 稲垣浩
出演 三船敏郎 尾上九朗右衛門 三国連太郎 八千草薫 水戸光子
岡田茉莉子 三好栄子 平田昭彦 阿部九州男 小杉義男
加東大介 小沢栄 上山草人 谷晃
ストーリー
新免武蔵(三船敏郎)と本位田又八(三国連太郎)は出世を夢みて関ケ原の戦さに参加して敗れ、伊吹山中をさ迷い歩くうち、お甲(水戸光子)と朱実(岡田茉莉子)の母娘に救われた。
又八は朱実に惹かれるが、彼女は男らしい武蔵に心を寄せる。
ある夜、野武士辻風典馬(阿部九州男)一味がこの家を襲うが、武蔵は木剣で多くを倒した。
お甲は彼に言い寄るが武蔵ははねのける。
お甲は腹いせに武蔵に迫られたとウソを言って又八と夫婦になり、朱実をつれて三人で出奔する。
武蔵は又八の無事を告げるために故郷宮本村に帰るが、又八の母お杉婆(三好栄子)は息子が帰らないのを武蔵のせいにして恨んで、関所破りとして役人に追わせる。
沢庵和尚(尾上九朗右衛門)は山中に逃げた武蔵の心が荒むのを憂え、又八の許婚お通(八千草薫)と二人で武蔵を連れ出し、沢庵は武蔵を杉の大木に吊りさげて武道一点ばりの彼を戒める。
追手の侍大将青木丹左衛門(小杉義男)は武蔵の引き渡しを要求するが、沢庵和尚は城主の池田輝政(小沢栄)と懇意であることをにおわせ身柄を引き受ける。
その夜、お通は大木につるされた武蔵を救い、二人は助け合って逃げた。
お通は追手に捕えられ、武蔵は彼女を救うため姫路域に忍びこもうとする。
彼の人物を惜しむ沢庵は、お通の無事を告げ、彼を天守閣にとじこめ文を学んで道を開けと教える。
その頃お甲と朱実は京都で料亭を営み、剣の名門吉岡道場の吉岡清十郎(平田昭彦)は朱実に恋したが、彼女は今も武蔵を思っていた。
城内で三年の修業をつんだ武蔵は見違えるような人物となり、その年月城下で武蔵を待ったお通と、心を鬼にして別れ、修行の旅に立った。
寸評
宮本武蔵は実在の人物らしいが、武蔵のイメージは吉川栄治の小説によるところが大きい。
とは言え、僕とは時代が違うので新聞小説を読んではいない。
徳川夢声によるラジオ朗読も聞いたわけでもないし、戦前に作られた映画を見たわけでもない。
それでも宮本武蔵は僕が知る剣豪のなかでも図抜けた知名度だ。
匹敵するのは柳生十兵衛ぐらいのものだ。
塚原卜伝や伊藤一刀斎もいるが、なんといっても宮本武蔵は抜きん出ている。
その名前は子供の頃にはすでに脳裏に刻まれていた。
いったいどこから知りえたのか、今となっては知る由もない。
さて「宮本武蔵」だが、僕は戦前の映画は見ていないが、戦後に作られた作品は幸いにして見ることができた。
稲垣浩監督の東宝版3部作、内田吐夢監督の東映版5部作、加藤泰監督の松竹版1部作である。
この東宝版は3社作品の中では一番きらびやかな作品だ。
関ヶ原の合戦や山狩りのシーンなどでのエキストラの配置や、セット撮影における美術などに当時の映画に賭ける情熱を感じる。
このあたりがアカデミー賞の現在の外国映画賞に当たる名誉賞受賞に輝いた理由だろう。
お通は当初、又八と心を通わせているように描かれているが、又八とお甲からの手紙を見て武蔵に心変わりしていく。
その過程が希薄なのでどうも武蔵とお通の慕情関係がすんなりと入ってこない。
お通は又八が帰ってくるまで待っていると本心から言っているように描かれていたのに、たった一通の手紙だけで武蔵に心変わりしてしまう。
しかも、お通が心変わりするまでの時間がやたらと短いのだ。
沢庵和尚も若すぎる感じがしてならなかった。
武蔵は姫路城の天守閣に3年間幽閉され、そこで学問を身に着けるが、その過程は描かれていない。
突如きらびやかな衣装で登場する。
幽閉を解かれた後に与えられた装束だと思われるが、孤高の剣豪宮本武蔵のイメージからは程遠いものが有り、池田輝政との対面シーンに違和感を覚えた。
お甲と朱実の母娘の衣装も、野武士が襲ってくるような野中の一軒家で、死人からの盗人家業を生業としているには艶やかな着物をまとっているといった具合に、全体的に出演者の衣装はきらびやかなのだが、これはカラー作品を意識したものだろう。
今見ると、必要以上のあでやかさだ。
3部作のモノローグで、特にこれといった見せ場はないが、八千草薫のお通が日本女性らしい美しさを保ちながらかわいらしく撮られている。
美人過ぎて薄幸の女性という感じはしないのは、彼女の若さと美貌のせいで、美人女優にはつらいところである。