おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

マルタのやさしい刺繍

2023-04-02 07:40:17 | 映画
「マルタのやさしい刺繍」 2006年 スイス


監督 ベティナ・オベルリ
出演 シュテファニー・グラーザー ハイジ・マリア・グレスナー
   アンネマリー・デューリンガー モニカ・グブザー
   ハンスペーター・ミュラー=ドロサート

ストーリー
スイスの小さな閉鎖的な村に住む老婦人のマルタは、夫を失くして以来すっかり元気をなくしていた。
そんなマルタを家族や友人など周囲の人々も心配している。
そんな中、村の合唱祭に使う旗がネズミにかじられるという事件が起こり、裁縫が得意なマルタに旗の修復の依頼が舞い込んだ。
マルタと友人達が町に修復の為の生地を買いに出かけたところ、マルタはショップに置かれていたレースの美しさに目を輝かせ、帰り道で発見したランジェリーショップでマルタは下着を物色した。
実は、マルタは若い頃に下着を作っていた経験があり、下着を見ているうちにマルタは長年の夢だった自分の下着ショップを持つ夢を思い出す。
友人達にその夢を話したところ、自由奔放な友人のリージだけが、マルタの夢に賛同してくれた。
マルタは夫の残した店を改装し、下着ショップをオープンすることを決めたのだが、閉鎖的な村の人々はマルタが下着ショップをオープンすることを非難し、牧師である息子もマルタに批判的だった。
ある日、マルタは偶然に息子が不倫していることを知った。
マルタは、間違った行いをしているにも関わらず自分を批判する息子に腹をたてた。
そんな中、当初からマルタの夢を応援してくれていたリージが急に亡くなってしまった。
マルタは自分を応援してくれていたリージのためにも、世間体を気にするのではなく、自分の夢を実現することを決意する。
マルタの友人がインターネットに下着の画像を公開したところ、注文がたくさん舞い込むようになった。
商品の在庫が間に合わないので、マルタは施設で刺繍コースを受講している会員達に応援を頼む。


寸評
舞台はチーズで有名なスイスのエメンタール地方で、自然に囲まれた静かな山村だ。
伝統を重んじる田舎の村にはありがちなことだが、きわめて閉鎖的で保守的である。
マルタのランジェリーショップは刺激的だと村の大人たちは大反対である。
老人ばかりの村ではないはずで、若い女の子たちはきっと支持しただろうにと思うのだが、若い娘はあまり登場せず、わずかに合唱祭で気に入った下着をつけて抗議するシーンぐらいである。
兎に角この映画ではお年寄りたちが活躍する。
彼らまでとはいかないが、老人の部類に入ってきた僕は老人たちの話がスンナリ受け入れられるようになっていて、この映画においても村の男たちに嫌悪感を抱き、おばあちゃん達を応援する気持ちになっていた。

マルタを取り巻く友人たちの描き方がよくて、友達って大事だなあと思う。
マルタが夫を失って無気力になっている時も「なんとかしないと」と心配しているし、マルタがランジェリーショップを開きたいと言い出した時も手助けをしてくれる。
最初はマルタを受け入れられずに離れていく友人もいるが、最後にはお互いが理解しあって協力してくれる。
特に積極的な協力をみせるリージの描き方がいい。
彼女はマルタのように夢を追っているのではなく、夢の中にいる女性で泣かせる結末だ。
マルタの息子である牧師はリージの娘と不倫しているのだが、牧師の妻は不倫を告げられて「こんな村に来てやったのに!」と怒って村を出ていく。
登場した時から何か不満げで、夫が開いている聖書の会の人たちとも馴染んでいないようで孤立している風だ。
彼女の孤独は、友情で結ばれているマルタたちと対極にある感情である。

ヒロインが得意とする美しい手仕事はこの地方の伝統であり、また、夢を実現させ生きる喜びを見出すパワーの源でもある。
夢を叶えるのに年齢は関係ないと、マルタは誇らしげに語る。
お年寄りが新しいことに挑戦し、前に進んでいく姿はコミカルでありながらも感動的である。
マルタがランジェリーショップをオープンするのはマシなほうで、夫から運転を禁止されていたおばあちゃんが運転免許取得に挑戦する。
親を邪険にする息子への反発でもある。
この映画では息子たちが年老いた親を邪魔者のように扱っているのだが、僕にもそのような感情がなかったわけではなく反省させられる。

パソコン教室に通って勉強しようとするおばあちゃんも登場し、好意を寄せているらしいお爺ちゃんに教えを請い、やがて二人して一つ部屋で老人ホームに入ることになる。
老後の過ごし方としては、羨ましく思える身の振り方でもある。
彼女がインターネット販売の道筋をつけるのは今日的であった。
僕も、登場するおばあちゃんたちのように、老いてなお盛んな人生を送りたいものである。