おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

宮本武蔵

2023-04-19 07:06:27 | 映画
引き続き加藤泰・高橋英樹による「宮本武蔵」です。 

「宮本武蔵」 1973年 日本


監督 加藤泰
出演 高橋英樹 田宮二郎 倍賞美津子 松坂慶子 仁科明子 佐藤允
   細川俊之 浜畑賢吉 笠智衆 石山健二郎 有島一郎 フランキー堺
   木村俊恵 加藤嘉 加藤武 穂積隆信 戸浦六宏 谷村昌彦 汐路章

ストーリー
〈第一部・関ヶ原より一乗下り松〉
作州宮本村の武蔵(高橋英樹)と又八(フランキー堺)は、出世を夢みて関ヶ原の戦いに参加したが、敗れて伊吹山中をさまよい歩くうち、お甲(木村俊恵)・朱実(倍賞美津子)の母娘に救われた。
又八はお甲に誘惑され夫婦になり、武蔵は帰国の途中関所破りをして役人に追われるはめになった。
一方、又八の母・お杉(任田順好)は、息子が帰らないのは武蔵のせいだと、武蔵に恨みを抱いた。
又八にはお通(松坂慶子)という許嫁がいたが、彼女は武蔵を慕うようになった。
それから三年…。京都の名門・吉岡道場の当主・清十郎(細川俊之)は、お甲の営む料亭に入りびたり、朱実に執心し、又八は、お甲に喰わせてもらい、半ばやけっぱちの生活を送っていた。
洛北蓮台寺野における武蔵・清十郎の試合は、武蔵が清十郎を一撃のもとに倒し一方的に終った。
清十郎の弟・伝七郎(佐藤允)も、蓮華王院・三十三間堂にて武蔵に挑んだが敗れた。
滅亡に瀕した吉岡家では、吉岡家の血につながる少年・源次郎(田村正勝)を名目人に立てて武蔵に試合を申し込んだが、単身乗り込んだ武蔵は、真っ先に、源次郎を殺した。
凄惨な決闘中、武蔵は無意識のうちに二刀を使って、門弟を次々と倒し、勝利を得た…。
〈第二部・柳生の里より巌流島〉
宝蔵院流槍術、鎖鎌の宍戸梅軒(戸浦六宏)を破って腕に磨きをかけた武蔵だった。
柳生に挑戦したところ、武蔵の剣は殺生剣として試合を否まれ、自分の未熟さを知った。
やがて、武蔵は小倉藩細川家の家老長岡佐渡(加藤嘉)の世話になり、宿敵佐々木小次郎と再会した。
慶長17年4月13日、武蔵と小次郎(田宮二郎)の試合が、長門の船島で決行されることになった。
お通に「武士の出陣は笑って送ってくれい」と言い残した武蔵は船島へと向った。
藩の名誉のために策略が巡らされた決闘の地で武蔵は小次郎を倒し早船に乗って引き上げる。


寸評
戦後公開された東宝版が3部作で東映版は5部作だったのだが、この松竹版は1本で撮られているためにどうしてもダイジェストのようになってしまったのは致し方のないところか。
武蔵が千年杉から解放されて逃げたのち、再び捕らえられて3年間姫路城の天守に幽閉されたことなどはナレーションで語られ、前触れもなく吉岡清十郎との対決となる。
宍戸梅軒との対決、宝蔵院との対決もテロップが入れられ紹介されるが、対決だけの描き方で経緯は描かれず、勝負は早いうちに決着がつく。

吉岡清十郎が武蔵に敗れた後に、吉岡道場側では道場と吉岡の家名を残すための騒動となっていくが、これは最後に細川藩の家名を残すための策略が張り巡らされ、武蔵を推挙する家老長岡佐渡もそれを了解するしかないという封建社会の非道性につながっていたと思う。
武蔵は小次郎が藩指南役として殿様の用意した船で船島に向かい、自分が長岡佐渡の用意した船で向かえば、殿様に長岡佐渡が逆らったようになってしまうと配慮を見せているのに、長岡佐渡はお家大事を決断させているあたりは、加藤泰の解釈だったのか、脚本の野村芳太郎の解釈だったのか?

加藤泰監督が得意とするローアングルは徹底されていて、随所のシーンでローアングルが用いられている。
陸上での撮影はもとより、川や海のシーンでは水中に半分没したカメラで撮影する徹底ぶりである。
船島へ向かう船底を水中から写すことまでやっていて、水中カメラ大活躍であった。

3社版の内では、本作の武蔵とお通が一番情熱的である。
武蔵とお通はなさぬ仲であったが、お互いに思いあっていたかのような描き方で、やがて武蔵もお通もその愛をストレートに伝えあっているが、僕が描く両者のイメージとは違っていた。
半面、朱実の武蔵への慕情の描き方は希薄であった。

武蔵が約束の時刻に遅れる理由は説明されているが、船島での小次郎との対決は雨中で行われ、太陽の影響は受けていない。
勝利した武蔵は引き上げる船に乗って悲しげな表情を浮かべるが、それは宿敵の佐々木小次郎を失ったことによるものか、武士道の非情性を垣間見たことによるものだったのだろうか?
それにしても加藤泰はこの映画で何を描きたかったのだろう。
人間武蔵を描いたにしては切り込み不足だし、じれったくなるようなすれ違いドラマにもなっていない。
話があまりにもポピュラーすぎて脚色するのが難しいのかな…。

武蔵の宿敵佐々木小次郎役は、東宝版が鶴田浩二、東映版が高倉健、この松竹版では田宮二郎が演じたが、一番似合っていたのは田宮二郎ではなかったかと思う。
半面本作に於けるお通の松坂慶子と朱実の倍賞美津子はミスキャストだったような気がする。
松坂慶子はエネルギッシュ的であり、倍賞美津子に可憐さはなく、どちらもやけに成熟した女性に見えた。
城太郎、伊織などの武蔵の弟子は登場しない。