おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

宮本から君へ

2023-04-11 07:18:19 | 映画
「宮本から君へ」 2019年 日本


監督 真利子哲也
出演 池松壮亮 蒼井優 井浦新 一ノ瀬ワタル 柄本時生 星田英利
   古舘寛治 松山ケンイチ 佐藤二朗 ピエール瀧 左時枝
   北川裕子 螢雪次朗 梅沢昌代 小野花梨 新井英樹 工藤時子

ストーリー
文具メーカー、マルキタの営業マン宮本浩(池松壮亮)は、喧嘩をして前歯を折り、腕にギプスをするケガをして、相手にも全治2か月のケガをさせ、これから結婚して子供ができるというのに、そんなことでやっていけるのかと、岡崎部長(古舘寛治)にしぼられる。
宮本は婚約者の中野靖子(蒼井優)を両親に初めて紹介するが、「この娘と結婚するから」という言い方を母親は気に入らず、靖子が妊娠していることを息子がちゃんと話さないのも気に入らない。
だが、宮本には二人のなりそめを話しづらい理由があった。
靖子は、マルキタを辞めて独立した、宮本の先輩・神保和男(松山ケンイチ)の仲間だった。
ある晩、靖子の部屋で宮本が食事をしているところに、靖子の彼氏だった風間裕二(井浦新)が現れる。
宮本は帰ろうとするが、裕二が「宮本と何度もやった」と嘘をついた靖子を殴るのを見て「中野靖子は俺が守る」と叫んでしまう。
裕二が去った後、靖子は裕二と切れるために宮本を利用したことを詫びるが、靖子を守るという宮本の気持ちは本気だった。
靖子は裕二の匂いのついた布団を外へ投げ捨て、宮本と激しく体を重ねる。
靖子は宮本を海に近い町で電器店を営む実家に連れていく。
宮本は歓迎されるが、靖子の父は娘が既に妊娠していることが気に入らなかった。
宮本は営業先の泉谷建設・馬淵部長(ピエール瀧)、彼の親友の太陽製菓・大野部長(佐藤二朗)に気に入られ、彼らの飲み会に参加することになり、恋人になった靖子も呼ばれた。
宮本は調子に乗って日本酒の一升瓶をラッパ飲みして酔いつぶれてしまう。
宮本と靖子を自動車で送らせるために大野が馬淵の息子の拓馬(一ノ瀬ワタル)を呼び寄せる。
最初は好青年と思われた拓馬が、靖子の部屋で泥酔した宮本が寝込んでいるうちに靖子をレイプしてしまう。


寸評
時間が飛んだりしているが難解ではない。
人と人との格闘の物語であり、精神と肉体の格闘の物語でもある。
始まるとすぐに池松壮亮の宮本がボコボコにされた姿で登場するのだが、僕はそのシーンから画面に引きずり込まれ最後まで息つく暇がないほどの迫力を感じた作品だった。
宮本は靖子を伴って実家を訪問する。
母親は、「この娘と結婚するから」という報告的な言い方が気に入らず、靖子が妊娠していることも気に入らないようなのだが、宮本は「そんなことは関係ないだろ!」と声を荒げる。
親としては当然の気持ちだろうが、男としてはそんな風に答えてしまうのも分らぬではない。
僕は母子家庭で育ったのだが、結婚を決めた時には「式場を決めてきたから」と報告し、母親から「お前は何も言わない」とグチられたことを思い出す。
また相手の育ちを気にした母の態度に、宮本と同様「そんなこと関係ないだろ」と言い放ったことも記憶にある。
もう何十年も前の話で、母親には可哀そうなことをした若気の至りであったと思う。
靖子の父親は結婚を認めながらも、「東京に行く時には、このようなことはしないと約束したはずだ」と言い、許しはしたが素直に祝福できない態度を示す。
すっかり歳をとった僕は、父親の気持ちとして理解できる。
宮本は両家からあまり色よい態度を示してもらえなかったが、まっしぐらに靖子との結婚に進んでいく。
男には負けられない喧嘩があると意気込む姿に熱いものを感じる。

体力に劣る宮本は二度にわたって拓馬にボコボコにされる。
格闘場面としては二度目に当たる高層アパートの非常階段で繰り広げられるシーンがスゴイ。
決死の思いで戦いを挑むが返り討ちにあいそうになる。
そこから反撃に出るが、非常階段の9階からお互いに落ちそうになりながら格闘する。
相手の拓馬が何とも憎らしい奴であることも手伝って、完全に宮本に肩入れしてしまう。
宮本にとっては、反則技を使ってでも勝たねばならない戦いで、なかなか迫力のあるシーンとなっている。
実はこの前に拓馬の父親の馬淵は、息子と靖子のことで争いをして大けがを負わされ入院させられている。
馬淵は息子の非を認めながらも、それでも親子だから守らねばならないと宮本に伝える。
宮本は命がけで介抱しないといけないようにしてやると馬淵に詰め寄るのだが、この時の池松壮亮には役者の凄みを見る思いがする熱演を見せる。
役者の凄みは靖子の蒼井優も同様である。
宮本と身体を重ねるシーンには彼女の根性を見た思いがする。
すっぴんの蒼井優が宮本と呼び捨てにして怒鳴りまくる姿は正に女優を感じさせた。
宮本は熱い。 一途な男である。
そんな男だから柄本時生の田島も、井浦新の風間も存在を認めているのだろうし、僕も宮本に同化できる。
生まれてくる子は拓馬の子でない事は確かだが、風間の子か宮本の子か分からない。
しかし風間が祈るように宮本の子であってほしいと思うのだが、宮本は誰の子であれ親子仲良く暮らしていくだろうと思わせるすさまじいラブ・ストーリーを描いた真利子哲也の演出は力強い。